第1話 必要なのは『事前準備』


 聖都周辺が非常に騒がしくなってきたこともあり、そろそろ何体かの魔王だったり、それに煽られた人間や亜人たちが聖都で一悶着起こすと予想して準備をしておくことにしよう。


 目的は聖都での騒ぎに乗じて聖都に侵入して勇者に会うこと。

 さすがに聖都を拠点として今は動いているだろうから、どうにか探し回れば出会えるはずだ。

 新米勇者3人ってよりも、歴代最強と言われている勇者に用があるので、坂神雫がしっかりお手紙通りにやっていてくれているのならば、出会える可能性はあるはずだ。


 お手紙を渡した坂神雫にも少しだけ用があるので、『七元徳』に見つからない程度に聖都周辺を探らせてもらおう。



「バレたとしても……忙しくて構っている暇なさそうだけどな」



 3人の勇者と聖国騎士団員の多くが死亡した後の魔物や魔王の動きを見るに、かなり大掛かりなものになると思うので、さすがの『七元徳』も勇者だけに任せておくわけにはいかないだろう。


 もし女神が動いてきた場合は話が変わるが、もしこの程度のイベントで女神が動くんだったら、それはそれで1つの参考になるので良しとしよう。



「暁蓮の記憶を喰らっても視ることができなかった新米勇者3人の力を遠目に見学しに行くとしよう」



 行くメンバーはなんとなく決めているので、聖都周辺でのイベント発生街だ。

 ガラクシアとデザイアにお願いして、煽動するような動きをしてもらっているので、そこまで事が起きるまで時間はかからないはずだ。

 

 まったく『七元徳』にバレずに事を終えるのはきっと難しいと思うので、今回の件で確定的な敵対関係が魔王界でも広まってしまい、『七元徳』が俺に魔王戦争をする名目ができそうなもんだが、それもしっかり考えた上で動かないとな。



「今のところはある程度想定通り……だけどここからは想定通りに行くことは少ないって考えて動かないとメンタルやられちゃうかもな」



 軽口が思わず出るほど自分の調子が良いことに驚きながら、引き返すことができなくなった状況に少し後悔する。

 もう少しのんびりしてからでも良かったかな……なんて思いながら、嫌なことを後回ししたくなる悪い癖がでてくる。


 

「この1年を乗り越えれば……少しは平和になると思って、今は気合で進むしかないな」


「閣下は独り言が多いので、どのタイミングで声をかければ良いか悩ましいものです」


「……別に独り言だから、気にせず声をかけてくれれば良いぞ」


「いえいえ……閣下の独り言は考えを纏めている最中に多いので、私が声をかけて台無しにしてしまうわけにはいきません」


「それが分かっているなら、俺の考えが纏まるまで待つしかないんじゃないか?」


「閣下との下らない問答が楽しいもので……失礼しました」



 ルジストルが俺を馬鹿にしてくるのは、いつものことなので気にしないことにしよう。

 わざわざ一人でここに来たということは何かしらの報告をわざわざしに来たということだ。



「要件は?」


「帝国内で閣下の今後の動きを阻害してくる可能性のある魔王のリストを集めました。やはりランクの高い魔王が多いですね。最近の冒険者狩りに関しても敏感に嗅ぎ回っております」


「2年目の若造が好き放題やっていて良く思う魔王なんていないだろうからな……そりゃ一泡吹かせようとしてくるだろうさ……油断してたら喰われるのは俺たちだから用心しないとな」


「なるほど……相手が用心する間もなく叩く計画を立てればよろしいのですね」


「さすが……『罪の牢獄』で一番極悪な性格をしているだけはあるな」


「閣下には敵いません……私は24時間悪巧みをしているほど捻じれた性格をしておりませんので」


「……言うじゃないか」



 ルジストルから怪しい魔王のいるダンジョン名と場所の書いてある資料を受け取り、ある程度目を通してから、すぐにルジストルに返却する。

 

 すぐに次にやってほしいことを察して計画してくれるので、本当に助かるものだが、素直に礼を言うと揶揄われることがあるので言わないでおく。


 こういったものはルジストルに丸投げしておけば良い計画を立ててくれるという王としてどうかと思われそうな行動だけど、適材適所ってことで許してほしい。



「聖都にお出かけに行くから、その後ならすぐにでも実行できるようにしておいてくれて大丈夫だ。誰がどこに行くかも任せるよ」


「かしこまりました」



 軽く頭を下げてルジストルはアークへと戻っていった。

 多くのことを短期間のうちに終わらせなければいけない。こういった危険な行動は本来ならば避けるべきだが、そう簡単に都合通りにいかないのが世の中だ。

 

 聖都でのイベントでどこまで聖国騎士団と言う名の『七元徳』の戦力をこっそりと減らすことができるかどうか、新米勇者たちにも聖国騎士団員のほとんどが魔王の手がかかっていることを知らしめることができるかどうか……女神が動いてくるかどうか…。


 それぞれの裏の事情までは知らないけれど、とにかく俺は俺の都合を押し通すためにも動くしかない。



「勇者が各国の名のある魔王を討伐していくよりも……聖国の魔王と魔物を積極的に討伐しなかったツケを払ってもらうことにしよう」



 いくら誰も近づかなくなったとは言え、聖都の近くに『七元徳』っていう大魔王のダンジョンがあり、それを何かしらの事情でスルーしてきた時点で勇者と女神なんていう存在は裏のある存在にしか俺たちからすれば見えなかったもんだから、それを修正してこなかったツケをしっかりと味わってもらえると嬉しいもんだ。


 こんな世界に呼ばれてしまい、こっちの都合に巻き込まれてしまった異世界の勇者たちには申し訳ないと思うが、しっかりこっちの都合に乗ってもらおう。



「異世界で死んでからこっちに来た勇者もいるし、生きたまま呼び出された勇者もいるし……女神の選ぶ基準はわからんな……坂神雫みたいに異世界で何かしらとの戦闘経験のある人間を集めてるわけじゃないしな」



 坂神雫は女神と交換条件みたいなもんを交わしていたようだが、新米勇者3人はどうなんだろうか?

 記憶の欠片の条件的に、俺の都合ではあるが後1人の勇者をどうにかして殺す予定なので、誰を殺すのかも考えておきたいところだ。

 まぁ……一番殺すチャンスのあった奴を殺るのが基本なんだけどな。



「聖国騎士団……聖国にいる冒険者、4人の勇者が戦力と考えると、大量の魔物と数体の魔王を相手にするには『七元徳』が出てこないと厳しいように見える……数が足りないように見えるがどうしてくるか?」



 聖都付近でイベントが起きたと同時に女神が勇者を異世界から召喚してくるか? 『七元徳』の同盟がでてきて、魔王vs魔王の構図が聖都で巻き起こるのか? それとも他国から助っ人が来るのかどうか……いくつかは頭に入れておかないと危なそうだな。


 まぁ危なくなったら、すぐ逃げられるように整えとかないとな。

 ウロボロス対策がもしかしたら為されている可能性もあるから、デザイアには自由に動けるような立ち位置になってもらおう。



「『大罪』の魔力付与するのは久々だな……しかも『憤怒』を使うってのは『銅』との魔王戦争でやった作戦と似た感じだな」



 忘れっぽいので色々なことをコアのメモ帳に記録しておきながら、いよいよ始まる大イベントに緊張しながらも、少しだけ楽しみにしてしまっている自分がいることに、なんだか笑えてしまう今日のこの頃だった。


 

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