第11章 『最凶』と『最強』

プロローグ 『進撃』の序曲


 『焔天の魔王』討伐失敗、そして3名の勇者が死亡するという大事件が世界各地を驚天させた後、それに呼応するかのように各地に潜んでいた魔物や、機会を伺っていた魔王たちが精力的に活動するという歴史的な世界危機。


 駆り出される各国騎士団や魔物や魔王討伐をメインに活動している冒険者たち、高ランク冒険者パーティーも前線に出て、眠りから覚めたかのように暴れまわる様々な魔物を沈めていく姿も珍しく無くなった。


 しかし、最近不吉な事件が冒険者界で起きてしまっている。


 高ランク冒険者が様々な場所で死亡するという事件だ。もちろん冒険者は命の危険に常に晒される立場ではあるが、次々と死亡報告がされていく高ランク冒険者たちの話に、恐怖を感じて活動を制限する冒険者まで出てくる始末。


 人間界でトップ200には入るであろう実力者も何名か何者かの手によって殺されている大事件は静かに繰り返されているのであった。



「はぁ……はぁ……魔除けの結界の影響を受けない魔物が……こんな森の中に生息していたのか……」


「この森の魔物は平均ランクCっていう話だったけど!?」


「ユニークモンスターの可能性が高いです!」


「まぁ……こんな格好しとる蛙は儂の知る限り存在しとらんからのぉ」



 帝国領土東地域に存在している、とある森の中で行われている深夜の戦闘。


 Sランク冒険者パーティー『始まりの風』を襲う巨大な蛙系統魔物。

 その名は五右衛門。『大罪の魔王ソウイチ』の配下『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の1体であり、ソウイチの命を受けてウロボロスに転移してもらって高ランク冒険者を狩っている魔物の1体である。


 ソウイチは記憶の欠片の条件達成のため、魔物の大暴れに乗じて各国で活躍する名のある冒険者を配下たちに命じて狩り取っていた。

 実戦経験を得て欲しいという名目もあるが、ソウイチはそんなことを言わず、ただただ狩り取ってきて欲しいと命じているだけなので五右衛門を含めた実働部隊は、ウロボロスに転移させられるがままに出会った敵を殺し続けているのだ。



「すまんのぉ……もうお主らの『名』は斬ってしまったんじゃよ」



――ドサッ! ドサッ!



「さぁて……帝都周辺の戦力を削ぐには、そろそろ十分じゃろ……この程度の人間たちが欠片の条件になるとも思えんしのぉ……本当にウチの主は同時に色々なことをしようとしたがるもんじゃな」



――グサッ! グシャッ!



 『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』によって名前を斬られ、存在が不安手になった結果、五右衛門の前で哀れにも気絶してしまった冒険者たちに無慈悲にトドメを刺していく五右衛門。

 ソウイチの配下たちは、ソウイチが帝都を拠点とする冒険者を多く襲撃させていることから、そう遠くない内に帝都を攻めるのだろうなと感じていた。


 五右衛門は煙管を吹かせながらウロボロスの迎えを待つ。



「やっと儂らも忙しくなりそうなもんじゃ……とっとと主には頂点にまで行ってもらって、毎日酒盛りしたいもんじゃ」











――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 楽しい楽しい『魔王八獄傑パンデモニウム』たちの会合から3日が経過した。

 俺は色々と計画を実行へと移すべく、各国にいる名のある冒険者を、ウチの魔物たちに襲撃させていた。

 気持ち帝国を拠点としている冒険者多めだったが、かなりの数の冒険者を仕留めることに成功した。

 おかげで世界は大混乱だ。ただでさえ勇者3名死亡から魔物や魔王が活発的になってしまっているのに、その対応をメインで行っていた名のある冒険者が次々と死んでいくのだから対応に追われてしまっている。


 そろそろ女神が今までの定石を投げ捨てて、急いで勇者を異世界から召喚しそうな気配がするな。



「デザイア・ウロボロス・シンラ・ポラールの転移をフル活動しただけあって、それなりの数の冒険者を仕留められたし、メルに喰わせて色々な情報を手にすることもできた。欠片の条件に入っていた奴も1人いたし……最高の結果だな」



 俺の理想とする世界に向けてと考えると、なかなかに最低なことをしているが、少し急ぎたいので仕方がないと割り切ってもらうしかない。

 平和に暮らす住民の方々には、将来的には野良で暴れる魔物を劇的に減らすことを約束するので、今は頑張って我慢していただこう。


 帝国の冒険者を気持ち多めに狩ったので、帝都周辺が騒がしくなるかと思ったけれど、勇者3名死亡・魔王討伐失敗・聖国騎士団員の多くが死亡したのが大きいのか、聖都周辺が飛び抜けて騒がしいことになっている。



「近々聖国にいる魔王たちが組んで聖都を襲撃しそうな勢いだな」


「僕たちも温まってきたから、いつでも行けるよ?」


「お昼なのに元気なのは珍しいな」


「最近たくさん動いてるから目が冴えてるのかも?」


「ハクは可愛いなぁ~、話してるだけで癒される……おいで」


「うん♪」



 いつもならお昼寝している時間帯だけど、この時間も起きていたので、ここ3日間色々頑張ってくれているハクを撫でまわす。

 お膝の上でご満悦のハクと一緒にコアを弄って、各国の動きや状況をメモとして纏めていく。


 魔王として四大国の1つである聖国、その首都である聖都を崩壊させて手中に収めるチャンスだと企む魔王が多いのだろう。

 『七元徳』が実質の聖都の支配者と知っていれば、そんな行動は起こさなかったのかもしれないが、無知の野心ってことかな。


 だけど数が数なだけに聖国としても厳しい問題になっているだろう。

 『七元徳』が表立って天使軍団で迫りくる魔物や魔王と敵対することはできないんもで、『七元徳』が表立たず、聖国騎士団と冒険者、そして残った4人の勇者でどうやって立ち向かうかは面白いところだ。



「表立って魔王が勇者の味方してるなんてなったら、魔王界は大騒ぎだしな……自分の看板を気にしがちな魔王という存在はそんなことできんだろうさ」



 俺だったら世間体なんて気にせずに使えるもんは全部吐き出す覚悟でやっていただろうが、それは若くて失うモノが少ない魔王の考え方なんだろうな。

 大魔王クラスになると、塗り上げてきた大魔王としての看板があるもんだから、それを崩したくはないという想いに駆られてしまうのは当然の話だ。



「だからといって聖国がこれだけで大崩れするとは思えんけどな」



 聖都で全ての魔物と魔王を引き寄せて殲滅するんじゃないかと予想しておく。

 聖国も広いから各地で戦力を広めていたら、裏をかかれた場合にとんでもないことになるだろうから、聖国騎士団の主力と勇者4人は聖都で待ち構える形になるんじゃないだろうか?


 ここまで予想して、そこまで魔物と魔王たちが暴れなかったら面白いんだけどな。



「楽しそうだね……僕たちも暴れるの?」


「ハクは暴れたいか?」


「ぼ、僕にお願いしてくれれば……たくさん頑張るよ?」


「あぁ~、癒されるんじゃぁ~」


「ひゃん♪」



 働きますアピールを懸命にしてくれるなんとも可愛いハクを愛でておく。

 聖国の動きも気になるところだが、他の3国も目を離すわけには行かない。自分たちがいる帝国、『星魔元素』の動きが気になる公国、王国は少しだけ置いておいて良いとして、これから先どんどん忙しくなりそうだな。


 本当ならば、もう少しのんびりと行きたいところだが、そんな都合よくはいかない展開になってしまったので、魔王として頑張るとしよう、

 

 

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