第20話 『初心』忘れるべからず


 『沈黙』が自身の能力らしきものを自軍の魔物に付与して初手前線のぶつかり合いを制すために先手をとって開幕した『誓約』と『沈黙』の魔王戦争。


 ダンジョン外は『暗闇の森』という戦場なだけあり、満足に戦闘できる魔物が限られているこの戦争、ラプラスがどんな手を使っていくのか楽しみなところだ。



「こういった魔王戦争を観てると初心を思い出せるな……『銅の魔王』と戦ったときのことを思い出すよ」


「ギリギリで逆転できた戦争ですね……一番危なかった戦闘だったと思います」


「そうだよねー! 私たちが配合できてなかったら負けてたもん♪」


「高ランク高ステータスのゴリ押しに上手く対抗できなかったな」



 そう考えれば、この戦争もラプラスがレクエルドでゴリ押しする作戦をとれば、万が一『沈黙』側にレクエルドに対抗できるような魔物がいなければ、それだけで勝負ありになりそうな気がするが、『沈黙』側にも強力な魔物がいる想定でラプラスは動いてそうだな。


 『沈黙』側が気配を消した奇襲のような形での襲撃に成功し、前線を押していたように見えたが、徐々にラプラスの魔物たちが押し返していく。

 ランク帯は同じ感じなのに、明らかに力差があるような押し方をしている。



「ラプラスも自軍の魔物に『誓約』の力を使っていたみたいだな。たぶん単純な制約を課したんだろうが、ステータスが増大している感じがするな」


「確か『誓約』が破られるまで強力なバフ効果を得られるものですね。誓約が厳しければ厳しいほどバフ効果も強力になるという力」


「面白いねー! 頭痛くなりそーだけど♪」



 ラプラスの魔物たちが前線を押し込んでから、すぐに『沈黙』側の援軍らしき魔物たちがやってくる。

 それを見越していたかのようにラプラスも援軍を戦場中央に送り込む。

 互いに援軍として選んだ魔物はアークエンジェルのような天使型の魔物とアークデーモンのような悪魔型の魔物という飛行可能で物理も魔法もこなせる万能タイプ。


 しっかりとチケットやガチャで天使型と悪魔型の魔物を両者とも手にしているのが素晴らしいもんだ。



「ステータスが強化されたラプラスの魔物と詠唱封じを常時発動している『沈黙』の魔物たちの激突か……ステータス強化幅が大きそうな分ラプラス有利に動きそうだな」


「互いにダンジョンに待ち伏せて叩こうという戦略ではないようですね。単純に力押しで勝負をつける気に見えますね」


「後は単純に能力のある魔物のぶつけ合い」


「マスターは最初、鬼蜘蛛ちゃんの爆弾押し付けて勝とうとしてたよね♪」


「結局は自軍の魔物を力をどうやって活かせるかどうかみたいなとこあるしな……特に最初の内は本当に魔物と戦場を上手く利用したもん勝ちだ」



 チケットと限られた配合回数、ダンジョンに設置できる罠、一部運なとこもあるが、これらをどれだけ上手く活かすことができるかどうか、自身の魔名との噛み合わせだったり、相手に対応するための柔軟性だつたりと、できることが少ない中でどれだけ優位をとれるかどうか……。



「まぁ……どれだけ負けてても、大将首獲ったほうの勝ちなんだがな」


「私たちで守って、ポラール・ハク・シャンカラの3人に行ってきて貰えばどうにかなるって言ってたもんね」


「3人いれば大抵のことはどうにかなる」


「仲間が多ければ選択肢は増える……最初の魔王戦争は時期にもよるが、この段階では互いに似たような戦術になる中、どう大将首をとるもんだか」



 楽しく会話を弾ませながら観戦を続ける。

 五右衛門と阿修羅は熱く語り合っているので邪魔をしないように気を付けながら、両陣営の魔物についての考察を深めていく。

 天使系統や悪魔系統はその種族の頂点とも言えるガラクシアとポラールが詳しかったので細かいところまで教えてもらえる。

 コアに載っていないような生態まで教えてもらえるので本当に勉強になる。コアにはステータスと能力、ちょっとした豆知識しか見れない仕組みだからな。


 ぶつかり合いがじれったくなって、そろそろどっちかがエース級を出してくるんじゃないかなと思うんだけど…。



「両者とも飛行可能な魔物を幹部クラスに置いていたようですね」


「天使系統と悪魔系統は序盤で手に入る確率が高いのに優秀だから、けっこう配合しがちで真名も付与しがちって話をどっかで聞いたことあるな」


『さぁ! 両者真名持ち! しかも配合済みの魔物が戦場中央にやってきました! しかも……2番手の魔物ながら、ともにSランクの魔物を出してきました! 昨年からルーキーの魔物の平均ランクがオカシイことになっております!」



 シャープさんの実況も盛り上がってきた。

 互いに早期決着を望んでいるような形で幹部級を繰り出してきたようだ。エースが出てくるのも時間の問題だろう。

 

 ラプラスは天使系統の魔物を2番手においたようだ。羽が燃えているので火系統の魔名を配合したんだろう。レクエルドとの噛み合いを考えて天使系統の魔物に真名を与えたのは良い判断だと思う。


 対する『沈黙』は悪魔系統の魔物に獣の顔がついた尻尾が4本ほど生えた異形型の魔物を2番手に置いているようだ。

 

 それにしても両者Sランクを2番手って……当時のアイシャと同じレベルってことなので、とんでもなく高いレベルでの争いだ。



「実質現段階でのルーキー頂上決戦か……『大罪』をあげたのはバランスを壊しちゃったかもしれないな」


「お相手も同じような魔名を誰かから授かっているかもしれませんよ?」


「互いに早期決着を考えてそうだし……エースもすぐ出てくるだろうから、その時に分かるさ」


「ますたーの言う通り……2番手のぶつかり合いに見えて、互いにエースも出してきている」



 『沈黙』の効果で詠唱が封じられて、威力のある魔法が使用できないこともあり、ラプラス軍はステータスを活かして殴り合いを仕掛けるのに対して、『沈黙』側が距離をとって迎撃する構図をぶち壊すかのようにして現れた2番手たちの背後にひっそりと出てくるエースらしき魔物。


 ラプラス側からは『執着オブセシオン』のレクエルド。

 『沈黙』側からは首が2つある大きなドラゴン。『沈黙』の力で気配を消して中央までやってきたがレクエルドに暴かれた形だな。



「2番手で中央をとろうと思わせて、両者エースを投入して戦争を決めに来た。互いに思考回路が似ているもんだ」


「押されてしまうとジリ貧になるのは戦力が整っていない内は仕方ない話です」


「ここで勝ったほうが勝ちって感じかなー♪」


『な、なんとー!? 『誓約』側の魔物が『沈黙』の効果を打ち破って光魔導を使用しているぞ! なんという魔力ッ!? 最近のルーキーの魔物はどうなっているんだ!?』



 『大罪』の魔物特有のデバフをとりあえず無効です系アビリティがレクエルドにも備わっている。

 レクエルドが好き勝手『沈黙』側の魔物を光魔導と聖剣技で葬っているのを見ると、『沈黙』側のエースらしきツインヘッドドラゴンはSランク止まりで、レクエルドに挑むには圧倒的力不足のようだ。


 味方の進軍を待たずしてレクエルドが単騎で無双していく。

 ステータスがそこまで高くないとして、ランク基礎のステータス差と圧倒的アビリティ効果の差で敵を蹴散らしていく姿は、さすがに『沈黙』側の心をへし折るような光景だ。



「俺も『狂乱のハイオーガ』の暴れっぷりに心折れかけた……というかあと一歩まで追い詰められたなぁ~」


「ルーキーの話題は『誓約』が全部持って行きそうですね……ご主人様の話題は落ち着くと思います」


「ますたーの計画通りだね」


「お弟子さんにヘイト集めるなんて最低なんだー!」


「俺に変わって注目を集めてもらうだけだって……その代わり『大罪』の力で戦争を優位にできたんだからラプラスも文句言わんだろうさ」



 レクエルドの圧倒的進撃をまったく止めることが出来ず、『沈黙の魔王』は不正やら反則だと嘆きながらレクエルドの聖剣によって真っ二つにされていった。

 蓋を開ければ戦争時間の短く、呆気の無いほどに一歩的な魔王戦争であった。


 俺としても戦いに関しての初心を思い出せると同時に、魔王界での注目をラプラスに擦り付けれそうだったのでありがたい魔王戦争になった。


 

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