第19話 『見守る』魔王


――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



『さぁ! 間もなく始まろうとしております『沈黙の魔王』と『誓約の魔王』によるルーキー同士の魔王戦争! 両者ともルーキーとは思えないほどの高ランク魔名同士! 激しい戦いが予想されます!」



 モニターに映し出される戦場、『暗闇の森』を観ながら魔王戦争お決まりのシャープさんの実況解説を聞く。

 気付けばラプラスが魔王戦争をする日が来ていたので、観戦したいメンバーを集めてコアルームでラプラス応援会を開いている。


 呑気に魔王戦争の観戦をしているが、世間は今では大騒ぎの真っ最中だ。

 勇者が3人も同時に死んでしまった影響で、各地の魔物は喜びの舞を踊っているかのように暴れはじめ、普段引きこもっている魔王が精力的に活動したりと、勇者や騎士団、そして冒険者なんかは寝る暇もないかのように忙しい世界になってしまっている。

 特に聖国は騎士団員も勇者も失ったとのことで対応に追われており、かなりよろしくない状況下にあるようだ。


 俺たちのいる帝国領南はダンジョンが圧倒的に少ないのと、帝国領南で活動している冒険者の平均ランクが高いこともあり、かなり平和な土地になっている。



「ご主人様……お菓子の準備はバッチリです」


「よし、ラプラスの勝利を願って応援するとしよう」


「若の弟子という話だ。少し楽しみではあるな」


「私たちと同じように『大罪』の力を持った子がいるんだよね?」


「『執着オブセシオン』の大罪を司っとるとか言う戦乙女ヴァルキリーじゃったかのぉ?」


「ますたー……袋開けて」



 ラプラス応援会に参加しているのは、ポラール・阿修羅・五右衛門・ガラクシア・メルの5名となっている。けっこうな古参メンバーばかりになってしまった。

 参加するかなと思っていたバビロンは以外にも興味が無さそうだったので驚きだ。自身が関連していない戦には関心が湧かないようだ。


 各々が自由にモニターで観ながらラプラスを応援するための準備をしていく。

 五右衛門と阿修羅は酒盛りするがメインになりそうなので、あまり触れないでおこう。

 騒がしくなりそうな気配を察知したハクは俺の部屋へと避難していったので、応援会と言う名の宴会になる可能性があるな。



「『誓約』と『沈黙』か……『沈黙』の能力は分からないけど、どっちもややこしそうな力だな」


「えー、『大罪』のほうがややこしそーだよ?」


「ガラクシア……それは失礼ですよ」


「似てるタイプではあるかもね」



 ガラクシアのストレートな発言が少し心に突き刺さったが、ポラールとメルがフォローしてくれたので持ち直すことができた。

 『焔天』『水』『天風』といった属性に関連する魔名だったり、『海賊』『偽宝』『石獣』といった簡単に能力が想像出来そうな魔名とも違って、『誓約』と『沈黙』は複雑そうな魔名な印象を感じる。

 実際に『誓約』は面倒な能力ということを知っているので、どう活かしてくるか楽しみなところでだ。


 単純に魔物に簡単な『誓約』を誓わせてステータスを上げるだけでも強そうなもんだけどな。



「ラプラス側の鍵となる魔物は言うまでもなくレクエルドだな」


「そうですね。私たちほどではありませんが強力な能力を持っていましたからね。経験を積めば凄い魔物になると思います」



 レクエルドは以前会った時にポラールが『善悪二天論ツヨサコソセイギ』で能力をある程度把握してくれたので、俺も後日教えてもらったから知っている。

 やっぱり大体の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』と同じでステータスや連携で戦うと言うよりも、妨害に自己バフ、概念ぶっ壊す系能力で戦うタイプの能力構成になっていた。


 ヴァルキリーとしての基本スペックを全然知らないが、レクエルドは死者の魂を自在に操り、霊体として気配の感じにくい偵察機として使用することができたり、『執着オブセシオン』と『誓約』の力で味方に縛りをつけて強化したり、相手を阻害したりと厄介なことができる魔物になっているそうだ。



「『執着オブセシオン』を『原罪之欲シン・ディザイア』したらどうなるんだろうな?」


「ますたーの好奇心がまた爆発してる」


「ここで負けちゃったら試せないから応援しなきゃねー♪」



 『執着オブセシオン』の能力は本当にそのまま『執着』に関したものだ。

 対象を何か1つのことにとらわせることができ、そのことから離れられなくする力。ウチの『大罪』と比べてそこまで応用力が無さそうなものではあるが、メルの『嫉妬エンヴィー』にも似た強力な精神作用系の力なので戦局を変えるには十分な能力だろう。


 しかもウチにはいない光系統のスキルが多いタイプの魔物だ。光魔導や聖剣技といった前線でもやれるようなスキルも揃っているのでルーキー同士の魔王戦争では、余程のことが無い限り無双できるんじゃないだろうか?


 なんてことを考えていたら、シャープさんの掛け声とともに魔王戦争開始の合図でもある花火が打ちあがる。



「戦場が暗闇なので、万全に進める魔物が両軍限られてきますね」



 レクエルドの光魔導で照らすと場所を知らせることにもなるので使用を控えているんだろうな。

 モニターで観戦している俺たちからしても戦場の様子がなかなか見づらいので、月明かりだけの環境下で動ける特性をもった魔物でないと満足に進軍できないだろ。



「『誓約』は猫系統や梟系統の魔物を……『沈黙』は虫系統の魔物と夜行性型で森という環境の恩恵も受けられる魔物を多く用意しているようですね」


「両者前衛の魔物タイプが大きく異なる形になったな……互いに魔物のランクはCとかそこらへんかな?」



 こうやってみると『銅』の魔物が行っていた既存の魔物を強化する作戦はけっこう良い作戦だったのかもしれないと思えてくる。

 魔物の特性を残しながら強化できる面があったので、機動力をある程度犠牲にしていい場面だったり、数のパワーで押し合う戦いでは有効だったんだな。


 正直、全魔王の中でもトップクラスに魔物に関する知識が不足している俺なので、こういった魔王戦争をたくさん観戦して勉強しないといけない。

 Gランクしか呼べないせいで、コアに魔物が登録されなくて大変困る。


 普段悪巧みや街の運営やウチの魔物たちのことばかり考えているから、全然勉強できてないんだよな…。



「同じ梟の見た目した魔物でもランクや色で全然違うんだもんな……」


「今度儂が知っておる魔物の知識を主に伝えるとしようかのぉ……」


「コアに登録されないからな……メモ帳を活用して勉強しないとな」



 野生で生きていた五右衛門のほうが圧倒的に魔物に関する知識があるのも悲しい話だな。Gランクの魔物に関してだったら自信あるんだけどな。

 

 さすがルーキーの中でも魔名ランクが高いらしい2人の魔王戦争なだけあって、シャープさんによると最低でもDランクの魔物しか戦場には出ていないようで、互いのダンジョンの守りの面でもDランク以下の魔物はいないとのことだ。



「『沈黙』の力は自身の身動きの音を消したり、相手の詠唱を封じる能力のようですね。『誓約』側が苦労しています」



 ラプラスの魔物である機動力もあり、気配察知に長けている猫又が虫たちの不意をついたような攻撃に苦労している。

 魔法の詠唱ができずに困り果てている猫又もいるようで『沈黙』の影響だろうと、みんなで予測しているが、もしそうだとしたら『沈黙』はランクにしては相当便利で強力な力だな。


 しかも俺の『大罪』のように魔物に魔力を付与するだけで発動させられるので、わざわざ『沈黙』の魔名を配合した魔物を数揃えなくても済んでいるのは、ルーキー同士の戦いでは響いてきそうだな。



「前線のぶつかり合い……先制パンチは『沈黙』だな。他者の魔王戦争を生で観戦するのは本当に楽しいな」



 たかが1年しかやってきていない魔王の癖に、かなり上から目線で語っているなと自分で感じるが、可愛い弟子の魔王戦争なので仕方ないと思っておこう。


 『沈黙』に負けじと『誓約』も強力な魔名なので、ラプラスもどこかで能力を前面にだして戦局を動かしてくるだろうから、その場面を楽しみにして観戦を続けるとしようか。



 


 

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