第18話 人間への『期待』


――『罪の牢獄』 ダンジョンエリア 闘技場



 桜火の武士3人組を利用した茶番劇はカノンの演奏、アルバスとソラの大技瞬殺により一瞬にして終了してしまった。

 だがカノンが上手く盛り上げてくれたことで観客であったアークで暮らす人々は大満足で無事終わることができたようだ。

 これで3人がアークを拠点として精力的に活動していることが各地に広まる事だろう。



「突然悪かったな。だがさすがの盛り上がりだったよ」


「魔王さん途中で帰っちゃったでしょー?」


「カノンの演奏が始まったからな……心配する必要無かったと思って戻ったんだよ」



 ソラとフェンリルのじゃれ合いをカノンとアルバスの2人と観戦しながら語り合っている。

 ソラが茶番の褒美でフェンリルと特訓したいとのことだったので、フェンリル本人からも許可が出たので闘技場でじゃれ合っている。下手したらソラが死ぬようなじゃれ合いだけど…。


 それにしても何度かソラとフェンリルの特訓と言う名のじゃれ合いを観てきているが、『勉強したら、進化模倣エストゥディオミラー』を戦闘中に発動させるのにも慣れてきたのか、フェンリルの『氷月ノ神魔槍グングニル・ハティ』を模倣しつつある。

 さすがEXランクの人間にして、カノンとアルバスをして人間最高の伸びしろを持つ子と言われるだけはある。


 戦闘中にメモるという速さのあるフェンリルに使用するには地獄かと思われた『勉強したら、進化模倣エストゥディオミラー』を諦めずに使用できるまで特訓を重ねた根気は素直に称賛に値することだ。



「ソラがこの調子でウチの魔物と特訓をするなら、数年後には人間界最強を名乗れるかもしれないな」


「ソラちゃんなら行けると思う♪」


「……随分ソラに期待するな」


「『勉強したら、進化模倣エストゥディオミラー』には俺も想像できないような可能性を秘めてるからな……それに他の人間よりも根性がある」



 最初の方はフェンリルに半殺しにされかけていたことを考えると、よく心折れずに挑み続けているなと思う。

 マスティマやグレモリーとも特訓をしている時があるので、ここに来てからどんどん進化していく姿を見ると、さすがに認めざる終えない。


 ソラだけじゃないけど、たくさんの人間に期待はしている。

 アークを盛り上げ続けて欲しいし、自分たちが輝けるように毎日楽しく過ごしてほしいと魔王ながらに願っているつもりだ。

 期待を寄せれるほどに魅力のある人間が世の中にはいるということだ。なかなか魔王界では認められない考えかもしれないけどな。



「3人が来てからアークの知名度はグングン伸びてるし……おかげさまでダンジョンに挑んで来る冒険者の平均ランクも上がってきたからDEの貯蔵も満足いくレベルだから、本当に助かってるよ」


「私たちも楽しくやらせてもらってるからねー♪ 魔王さん敵が多いらしいから大変だけど」


「この前はとんでもない精霊がアークに来ていたからな」


「無理だと思った相手に挑まないのは賢明な判断だったよ……あの3体はさすがに厳しかっただろうからな」



 さすがにカノンたちは『星魔元素』から送られてきた3体の大精霊に気付いていたようだ。

 気付いた上で戦力差を見極めて俺たちに振ったのは見事な判断だったと言える。アヴァロン1体で勝てる相手ではあったが、さすがに人間が相手にするには厳しいレベルだったからな。


 単純なステータスで殴りにきたり、巨体でゴリ押してくるタイプよりも『星魔元素』が送り込んできた大精霊のような魔導やスキルで押してくるタイプのほうが、3人的にはやりやすかったかもしれないけど、同数で戦うには厳しいだろうからな。



「もう少ししたら、かなり忙しくなると思うから……アークの守護は任せたぞ」


「なんか魔王からお願いされる人間って、今思っても不思議な感覚になっちゃうね」


「世間体やら前例やら……そういったもんに縛られてるから不思議に感じるだけだろ……それを気にしてばっかだと新しいことは出来ないからな」


「本当に変わった魔王だ」


「この変わった考えが、いつの日か良かったと思えるように2人にも頑張ってもらわないとな」



 『星魔元素』と『七元徳』……そして2人と戦っている隙を突こうとしてくる他魔王と対等に戦うのはカノンたちの働きが必須になってくる。

 誰かしらは確実にアークを本気で突いてくると思うので、魔物相手にも、そして人間相手にも前線で戦うことができる3人を失うわけにはいかない。


 『星魔元素』は公国騎士団や公国に引きこもっている勇者が動いてくる可能性がある。

 『七元徳』は聖国騎士団が『七元徳』の配下であることから聖都全体が敵だと思っておいたほうが良い。


 さすがにウチの魔物たちで相手戦力を全てカバーできるとは思っていないので、ルジストルを中心としたアーク戦力には日々仲良くやってもらって、いざというときに連携を見せてくれるように動いていかないといけない。



「それにしても今日のソラは粘るじゃないか……」


「なんか月に戦える回数が決まっているから、少しでも長期戦になるように立ち回るって意気込んでたよ」


「いくらフェンリルが本気じゃないとは言え……あんな高速戦闘中にメモ帳もってよくやれるな」


「暇なときは脳内シミュレーションをずっとしてるって言ってたし、相当力入れてるみたいだからね~……ソラちゃんの執念は凄いから」


「殺されないと事前に分かっているからこその芸当も含まれているがな……」



 フェンリルのような直接的な攻撃スキルや妨害スキルが多い敵の技を『勉強したら、進化模倣エストゥディオミラー』するのもいいが、アマツの『真理之言霊アマツシトリガミ』のようなスキルを模倣できるようになって、それを上手く活かせるようになったら大化けしそうだな。

 それこそ真名のないEXランクの魔物だったら1人で戦えるレベルには強くなれるんじゃないだろうか?


 ……もしそうならソラを強化することに力を入れて、半年もしない内に戦うことになりそうな『星魔元素』と『七元徳』に対する秘密兵器として投入する説も可能性ありそうな気がするな。



「魔王戦争じゃなければ……可能性あるかもしれんな」


「何の可能性?」


「ソラが人類最強を飛び越えて、さらに進化していく可能性だ」


「ここの魔物たちと戦っていれば……人類最強は飛び越えるだろう」


「私もアルバスと同意見かな……ステータスはどうにもならないけど、魔王さんの魔物は能力特化の魔物が多いから、ソラちゃんからすれば宝の山だもんね」


「まぁポラールを見た時は無理そうって言っていたから『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の能力は厳しいのかもしれんけどな」



 それでもマスティマ・グレモリー・フェンリル・アマツの能力を時間をかけて模倣していけば、前線に出て『星魔元素』や『七元徳』の魔物からも模倣できる機会が出来るので、さらに先を目指せるという訳だ。


 フォルカを伸ばしてみるよりもソラを強化していくことのほうが良い気がしてきたな。


 実はアルバスも半分魔物化しているから、まだ強くなれるってのは本人には言わないでおこう。



「カノンたちにも言えるが……どうやったら突然そんなスキルを持った人間が生まれてくるんだろうか…」


「それは私たちにも分からないけど、親や先祖の能力が引き継がれたり、影響されたりするってのは聞くよ♪ ウチのメ―デスは親の能力が影響された力だって言ってたし」


「なるほどな……アークに色んな冒険者が集まることは、将来的にアークで凄い者が産まれる可能性もあるってことか……」


「さすがに先を見据え過ぎじゃないかな?」



 生物の神秘を2人と感じながら、ソラとフェンリルのじゃれ合いを観戦し、ソラが降参したところで解散になった。

 ソラ強化案を本気で考えてみる必要があるという新たな収穫があって、とても良い時間になった。

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