第16話 『武士』の気配


 勇者と聖国騎士団による魔王討伐が盛大に失敗に終わり、人間界は大慌ての状況bに陥ってしまっていた。

 勇者は3人死亡、1名はボロボロの状態でなんとか生還したという事実は各国の小競り合いを一時中断させるまでの衝撃だった。


 勇者が減ってしまったことで各地の魔物や魔王が動き出す可能性を考慮して、各国は自国の守りに専念する形になり、一時的な休戦状態。


 魔王界では勇者が死んだことで大盛り上がり、アイシャの株は爆上がりし、一部聖国騎士団が『天使』だったという噂が昔からあったようだが、それが再燃しており、『七元徳』はイライラする状況になっていそうだ。


 公国で引きこもっている勇者も聖都に呼び出されるか、自国の守りで忙しいことになるだろう。俺の予想が正しければ勇者は『星魔元素』に関連した存在なので、ここもイライラしていることだろう。



「立場があると大変だよな……ルーキー明けの魔王をすぐにでも潰したいんだろうが、動きにくい状況になってしまってるだろうからさ」



 しかもどっちが俺を叩くかでも揉めることもありそうだ。

 協力して襲撃してくるにしても、何かしら2人で話し合いをしなくてはいけないので、そこでも時間をかけてしまう。


 俺もそこまで受け身の姿勢で行こうとは思っていないが、今回の件で世間様がどう動くのか見ておきたかったので、少しの間休める時期だ。


 ……なんて思っていたらアークに怪しげな連中が来ているとメルから報告を受けたので調べてみたら、最古の魔王の1人でもあるリンさんがいる島の人間として有名な強い者と戦いたい集団らしい。


 

「人数は3人……普段は用心棒なんかをして路銀を稼ぎ、強そうな者の噂を聞けばどこにでも現れる迷惑集団……実力は確かなだけに各国の騎士団も手を出しにくいってやつか」


「どうなさいますか?」


「ん~……上手い利用方法が思い浮かばないから、カノンたちにそのまま始末してもらおうかな。イデアに能力解析だけ頼んでおいてほしい」


「かしこまりました。……アークにあのような輩が現れるのは宣伝効果の1つですか?」


「あぁ……カノンたちの知名度効果だな」


「なるほど……ではイデアに伝えてきます」


「助かるよ、ポラール」



 『星魔元素』と『七元徳』の手先も考えるべきだが、そこらへんはメルとレーラズがしっかり調べてくれるはずだから安心していいだろう。

 

 さすがEXランクの冒険者が3人いるだけあって、アークにとって様々な影響を与える出来事が毎日のように訪れている。

 アークで商売をしたい商人は行列ができるんじゃないかと思うほどに溢れ、カノンたちに話を聞きにきたり、活動をともにしたいと願う冒険者も数えきれない。


 このままで広げていけばダンジョン知名度ランクEXも遠くない話だろう。



「欠片集めも忘れないようにしながら……どうにか魔名ランクを上げたいところだ」



 『大罪』の魔名ランクを上げる候補としては勇者をもう何人か討伐するんじゃないかと思っている。

 もしかしたら魔王なのかもしれないけど、EX魔名だった『風蝗悪魔の魔王パズズ』を討伐してもあれだったから期待はしていない。


 違ってほしいけど、なんとなくありそうなのは『七元徳』に勝利することだ。



「真逆の魔名だからって、さすがにそこまで関係無い……と言いきれない世の中なのかが悲しいもんだ」



 『七元徳』と戦う理由の1つは、この可能性をどうしても捨てきれないからでもある。

 どういった基準で魔名ランクを上げる条件が決められているか解らないけど、アイシャが『豪炎』の魔名を手に入れた時にランクが上がったのを見ると可能性は大いにありえてしまう。


 もしそうだとしたら条件が厳しすぎると思うが、ここまでとんとん拍子で来ているから文句は言えないのかもしれないな。



「『大罪』と『七元徳』の魔名を配合したら……どんな魔物が誕生するんだろうか? 相反する魔名だから途中で大爆発でも起こすんだろうか?」



 魔名ランクがEXになって真名付与回数が増えたら、フェンリルかアマツに真名を与えてあげたいと考えてもいるけど、『七元徳』の魔名を手にしていたら、配合して真名を与えてみたいとも考えてしまう。


 それだけ真名を付与することが魔物を大幅に強化することを身をもって知っているから考えてしまう。



「そう考えるとアイシャは、よくあの選択ができたもんだ」



 真名持ち魔物をも自分の糧として吸収した能力。

 『焔』から『焔天』へと進化し、勇者2人を難なく焼き尽くしたと本人から報告を受けたので、魔王単体戦力だけで見ればトップ層だと思っている。


 少し前から『魔王八獄傑パンデモニウム』入りの噂がでているので、そろそろ動きそうな気がするな。


 そんなことを考えていたらモニターにアークにきている迷惑腕試し集団が映し出される。

 ダンジョン入口に来ているようで、カノンたちに挑む前に準備運動がてら挑みに来るようだ。



「準備運動だから深層までこないだろうな……残念」



 もし奥まで進む意欲があるならカノンたちじゃなくて、こっちで処分できたので手早く済んだ話だったが、そうはいかないようだ。

 他の冒険者たちが、あまり歓迎してないような目で見ているのだが、そんなことお構い無しと言わんばかりに3人揃って1F に進んでいく。



「刀2人に槍1人……プレイヤーにも言えるが、刀の人気は本当に凄いな……阿修羅と五右衛門も使っているし、そんなに使いやすいのだろうか?」



 フォルカの時しか武器を使わないので、俺は剣しか使用したこと無いが、ここまで人気だと、さすがに刀に興味が惹かれるな。

 こうやって武器を簡単に変えようとする奴は、そもそも武器がむいていないのかもしれんが…。



「武技と自己バフ……四大国の騎士たちとは戦い方が全く違うし……3人で戦ってはいるが、個人での戦闘を一番に考えられているかのような戦い方だな」



 さすがに1Fなので魔物が弱すぎて相手になっていないんだろうけど、最早早いもん勝ちかのような速さと貪欲さ、個人能力の高さで辛うじて連携しているように見えるが、誰が1番多く魔物を狩れるかどうかしか拘ってなさそうな動きだ。


 さすが各地の強者に挑みながら旅をするだけはある。確かに強い。



「自己バフと武技だけで、ここまで強くなれるもんなんだな……阿修羅路線ってことか」



 各国の重鎧装備の騎士団員様たちほどではないが、それなりに頑丈そうな鎧を身に付けながら、かなり軽やかでキレのある動きで魔物をたちを狩り取っている。

 武技は継承型なんだろうか、全然見たこと無いので、こうやって見て勉強していくことにしよう。


 魔力は少ないけれど、闘気を扱うことに特化させた戦闘スタイル。

 首や心臓といった一撃で葬れそうなポイントを綺麗に突いていく正確さ。

 激しく攻め続けるのかと思いきや、様々な方法でカウンター武技を使える隙の無い練度。



「魔物と戦うってよりも……対人戦向けなんかな? まぁ護衛とかやっているから対人をしっかり考えたスタイルってことか」



 それなりの大きさのある魔物や頑強な魔物相手を想定しているような戦い方に見えなかったので、彼らのスタイルが対人想定だと予測してみる。

 各国の強者と腕試しするくらいだから、対人戦にはとんでもなく自信を持っていそうだな。



「カノンたちと戦うにしても……せっかくだから見学できるようにして、俺も観戦しにいこうかな」



 俺は急遽予定を変更して、イデアとポラールを呼び戻して、彼らとカノンたちの戦いを観戦するべくして動きだすことにした。

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