第15話 弟子の『戦争』


――『誓いの広場』 居住区 会議室



 勇者襲撃から1週間が経過した。

 アイシャも無事師匠の仇である2人の勇者を葬り去ったことで世界は大騒ぎだ。

 3人の勇者と多くの聖国騎士団員を失ってしまい、勇者を支えにしていた人間なんかはメンタルブレイクしてしまう勢いでお祭り騒ぎになってしまっている。


 世間が大騒ぎする中、可愛い弟子であるラプラスが魔王戦争をするとの報告を受け、アドバイスが欲しいとお願いされたので、ダンジョン『誓いの広場』の会議室までポラールを連れてやってきたところだ。



「兄様、わざわざありがとうございます」


「魔王戦争を仕掛けたって聞いてな」


「はい。帝国北地域にいる『沈黙の魔王』です。同期でAランク魔王が相手です」


「よくそんな相手に喧嘩売ったな」


「Aランクの魔名を獲得するチャンスですし、ここで負けるようでは、どの道私は魔王にはむいていないと思ったので」


「随分な心掛けで……でも、レクエルドがいれば大丈夫そうだけどな?」


「魔王戦争は1体の魔物だけで勝敗を決するほど甘いものではないと思いますが……」


「その考えは正しいと思うよ。とりあえず気になることから聞いてみてくれ」


「ありがとうございます」



 ラプラスの後ろで控えているレクエルド。

 ポラールを見た瞬間に強張った感じがしたので、前会った時よりも明確に実力の差がわかったのだろう。

 実際に戦って見ないと分からないが、アマツと同じような強さの感じに思える。Lvはアマツよりも低そうな感じがするんだけどな。


 ウチの配合はガチャのおかげで配合物のランクだったり種類の多さは、どの魔王よりも良い気がするからな。


 ラプラスの心配としては『沈黙』という魔名の能力が予測できない。相手にも強力な魔物がいることを想定すると、どうやって戦いに行くのか難しいとのことだ。



「ラプラスの魔物たちで戦術の核になりそうな魔物はいるか?」


「『執着オブセシオン』のレクエルドくらいでしょうか? 他はありきたりと言いますか、他魔王でも使用できそうなものばかりです」


「その強みを貫き通し続けれるようにしたほうが良さそうだな。レクエルドが活躍し続けられる舞台準備を整え続けるように動ければいけると思うぞ」



 『執着オブセシオン』の大罪レクエルド。

 他者に自分たちの能力をペラペラしゃべらないほうが良いと教えてあるので、どんな力なのか知らないが、『大罪』の力を持っているならば、他魔物と仲良しこよしでやるよりもレクエルドが思う存分暴れられるように他魔物をサポートに回した方が結果が出る気がする。

 それに『誓約』の力も合わさっているから、同じルーキー相手なら、上手くやれば単騎で無双し続けられそうな気がする。


 他の魔物が最高Bランクで多くがCかDの魔物たちならば、いかに敵エースとコアをレクエルドが叩けるような道すじを作れるかどうかの問題になるだろう。



「というか……絶対そんなことわかっているだろ? 何が聞きたいんだ?」


「魔王戦争前に話を聞いていただきたかったのは本当ですよ? 兄様と話をしていると気付きがたくさん得られますので」


「もう1つは最近俺が暴れていた件を聞きたいってか?」


「……ダメですか?」


「素直でよろしい、貪欲な魔王さんだな」



 さすがにご近所さんだけあって色々と風の噂とやらがラプラスの耳に入っているのだろう。

 あんまり他者のことを気にし無さそうな性格をしているのに、実は好奇心旺盛だったのか……可愛い弟子じゃないか。この話を聞きたい理由は可愛げが無さそうな気がするけど聞かないでおいてやろう。



「どこが聞きたいんだ?」


「わざわざ2面作戦を敷いた件です。2人の相手を同時期に敵に回すことに意味はあったのですか?」


「……随分詳しいじゃないか」


「レクエルドは情報収集向きの魔物です。ダンジョン内での戦いの様子は分かりませんが、勇者たちとの戦闘は感知しておりました」


「凄い能力を持ってるんだな」

  


 外見は完全に戦闘向きなレクエルドだけど、実は支援型がメインなのか……ウチのウロボロスと似たようなもんだな。

 感知と言うことは具体的にどんな戦闘だったかは知らないということだな。もし知っていたならウチのデザイア辺りが気付きそうなので、本当に戦闘をしていたという事実だけを知っているようだな。


 聖国での戦闘を知っているなら阿修羅とエンシェントエルフの戦いも把握している可能性が高いってことか……自分で言うのもあれだが『大罪』ってのは恐ろしい力だな。



「少し急いでいるってのもある。あんまり時間をかけたくない理由があってな。危険ではあるが死なないように頑張るさ」


「その割には随分余裕そうですね」


「そりゃ勝つために考えてきたからな……ルーキー明けの今がチャンスだからな」


「さすが兄様です。弟子の様子を見に来るだけはあります」


「ラプラスは帝国を盛り上げてもらうためにも死んでもらっちゃ困るしな。可愛い弟子の初陣は師匠として見守っておきたい。」


「兄様の後ろに控えてらっしゃる魔物が居れば恐れる相手はいないと思います」


「そうだな……ポラールが居てくれれば大抵のことはどうにかなるよ」


「ありがとうございます」



 確かにポラールが居れば戦闘だろうが移動だろうが困ることは少ない。

 単独で大量の相手を葬ることを考えられた能力をしているので、余程じゃ無い限りは心配することじゃない。

 魔王界的に見れば俺は相当強い部類に入るのかもしれないが、そんなことで油断はしたりしない。

 『女神』と『原初の魔王』の2体が存在している限り……予想ではあるが『原初の魔王』は存在している全ての魔王よりも強く……確実に上の存在であると予想しているので調子に乗っていると、いつお叱りを受けるか分からないので控えめにしておかないとな。



「まぁラプラスは大丈夫だと思うが……驕らないこと、少しくらい自分の実力を低く見積もって用心しておいたほうが最初の内は上手くいくんじゃないかと俺は思っている」


「私が言うのもあれですが……一度配合をさせていただいた身として言うのならば、『大罪』という魔名を授かって謙虚でいられる兄様は凄いですね」


「察しが良い子だったのかもな……疑い深い性格だったおかげで生きてこれたみたいなもんだ。まぁビビりすぎって評価しても良いのかもしれんけど…」



 本当に生まれた瞬間から疑うようなことが起きてくれたおかげで、ここまで考えて生きてこれたと思ってる。

 なんとなくだけどラプラスも敵がどれだけ強大であろうと自分が行けると踏んだら躊躇せずに挑んでいきそうなタイプに感じる。


 ラプラスやアイシャみたいな魔王が王道ってやつなのかもしれないな。



「俺の話はこんなもんだ。魔王戦争の話になるが、俺の思い出になるけど、戦場有利だったのが大きかった気がするな」


「DEを使用するのなら戦場が決まってからにすべきと言うことですね」


「あぁ……環境の恩恵を受けれる魔物は、それだけで戦争の核になりうるからな」


「『誓約』の魔名を配合した魔物は『大罪』ほどではありませんが癖があるので、気を付けなければいけませんね」


「『沈黙』側に圧倒的有利な戦場になることだって考えられる。自分の魔物たちの短所はしっかり把握しておけば戦場が決まった瞬間から効率的に動けるようになるはずだ」


「短所を隠すために長所を少し削るのと、短所を少し目立たせてしまってでも長所を伸ばす……兄様ならばどうしますか?」


「短所を相手が釣られるほど丸出しにして長所で喰らう……『大罪』ってのはそんな魔名だぞ。俺なんて戦う前にコアからGランクしか召喚できないって笑われてたしな。おかげさまで相手を油断させることができたよ」


「本当に兄様と話をしているのは有意義です。稀に話が飛んでしまって摩訶不思議になりますが、とても楽しいです」


「誉め言葉ありがとう。可愛い弟子との話は俺にとっても有意義な時間になるよ」



 ラプラスと魔王戦争の話をしながら、帝国の話だったりと盛り上がったところで、良い時間になったところで解散した。

 俺としてもリフレッシュになるし、他魔王と話すのは自分の考えを改める良い機会になったので楽しい1日になった。


 ただラプラスに魔王としての底知れぬ何かに羨ましさを覚えたけどな。


 ラプラスだって、まだ俺のことを本当に信用してるわけじゃないだろう。お互い利用価値があるから仲良くできている部分もあるだろうから、距離感を気を付けて行こうと思った1日であった。

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