外伝 『偽女帝』は考える


――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 元帝国騎士団第2師団団長。

 4人の賢者の1人であり、『女帝ザ・エンプレス』という御大層な二つ名と能力をもっている元人間。

 今ではイデアとデザイアに改造された結果、立派な人間と魔物のハーフみたいな形で『罪の牢獄』で大活躍してくれている。

 人間界では行方不明扱いになっているので、顔を出さないようにビエルサと裏の仕事をたくさんこなしてくれている。



「それにしても随分良いとこ生まれのお嬢様なんだな」


「そんなラウラ家のお嬢様を魔物に改造する畜生な魔王がいるらしいんだよね」


「まじか……そんなド畜生な魔王がいるのかよ……きっと人間界に戻れなくするために魔物にしたのかもしれないな」


「よく自分のことわかっているじゃないか」



 ミネルヴァと心温まる会話をしながら、聖国の調査報告を受けている。

 報告の途中で『貴族』という存在の話になり、帝国の中でもトップクラスに名門貴族だったらしいので、貴族ってものを教えてもらうことにした。


 俺の中では国の金持ちであり、お偉いさんみたいなもんという認識だが、大体そんな感じで合っているようだ。



「私は窮屈に感じたから帝国騎士団に入団したけど、貴族の娘なんてのは良いもんじゃないよ」


「でも貴族の娘だから帝国騎士団にも、エリート街道に乗せてもらえたかもしれないだろ?」


「しっかり四大学園を卒業して結果を出したんだけどね……」


「人間社会ってのは複雑すぎてよく分からんが……結局のところ『保身』と『野望』の集合体みたいなもんだろ? 貴族様ってのは特にその傾向が強くみえる」


「知らないって言っておきながら……よく調べてるね」


「帝都を侵略しないのは……侵略したとしても治める術を決めてないのも1つあるからな。人間が嫌いで滅ぼそうなんて思ってないからさ……貴族って存在が必要であることも、長年あるってことは重要ってことなんだろうからな」


「こんだけ化け物揃いなら……帝都を攻略するのも難しい話じゃなさそうだからね」


「ソレイユとミネルヴァを見れたことで……騎士団の全容もなんとなく見えたしな」


「本当……魔王って存在が分からなくなるよ……きっと特殊な魔王なんだろうけど」


「そうだな……邪道異端児って感じだからな~俺は……王道魔王はアイシャがやってくれるよ」



 俺を見習うよりもアイシャを見習った魔王が多くなる方が魔王界的には健全なんだろう。

 次のルーキーたちには、ぜひともアイシャを見習っていただきたい。そんなアイシャと仲良く同盟をしていけば自然と俺の知名度も良い方にも悪い方にも広まりそうではあるが…。


 アイシャは、とにかく強くなること……どんな存在だろうと障害だと認識した者は打ち砕いて進む道を選択した。

 それが俺にまで害が及ぶようなら考えようだが、お互いそんなことは考えていないので敵対することは基本的にはないだろう。


 なんだかんだ俺も助けてもらうことが多いし、数少ない同盟相手として仲良くしていきたい。



「魔王界的にはアイシャがトップに立つ方が良いんだろうけどな」


「でも世界を変えるために動いているんでしょ? そのまま行けば衝突する未来が見えなくもないけど?」


「どうなるもんかな……その問題を考えるまでにやらなきゃいけないことが多いからな」



 ミネルヴァが何を考えているかは知らないけれど、とりあえず死にたくはないって感じなんだろう。

 俺からしてもミネルヴァには今後治めることになっていく可能性のある人間界のリーダー枠の1人として真面目に頑張ってほしいと思っている。


 まぁ……それを考えるのも、まだまだ先の話か。



「全然話変わるけど……ミネルヴァって強いよな」


「そうだね……能力使った目の前の魔王よりは強いね」


「あぁ~怖い怖い…いつ背後を刺されることやら」


「そこで寝ている最終兵器ウサギちゃんが存在している限り、世界は平和だから安心していいんじゃない?」



 俺が座っているコアを弄っている横で、綺麗に布団を敷いてお昼寝している『罪の牢獄』最終兵器であるハクを指さして苦笑するミネルヴァ。

 悲しいことにハクがいなければ、『大罪之烙印クライム・スティグマ』を使用してもミネルヴァに敵わないのが現実だ。


 言い方は悪いが遠距離砲台役として火力も燃費も抜群であり、接近戦も騎士だけあって動けるので、今の俺には20分も逃げ回ることはできない。

 時空間魔法も使えるので簡易転移ができるので、逃げ道もないだろうから勝負にならないだろうな。



「魔名ランクEXになったときの進化にかけるしかないのか……」


「配下が強すぎる代償って考えれば……仕方ないことなんじゃない?」


「そうなんだが……俺だって自分が前線でカッコよく戦う未来を夢見てもいいじゃないか」


「きっと前線で戦われちゃ不味いって…どっかの誰かが呪ってるんだよ」



 ……面白いことを言うもんだ。

 俺が戦わずとも、なんとも逞しい『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のみんなが居てくれるので、むしろ俺が前線にでても邪魔だし、気を使わせてしまうので今のままが1番良いんだろうな。


 人間や魔物はLvや経験で得て行くことでスキルを覚えて行くことがあるが、俺は『大罪』の影響もあり、チケットか魔名ランクアップでしか自身の強化が見込めないという悲しい魔王なので、残りのチャンスは少ないので、前線で戦えずとも何かしら便利な能力が欲しいところだ。



「人間型の魔王でステータスが低いってのも大変なもんだね」


「人間と上手くやる分には便利なんだけどな……空飛べるわけじゃないし、泳ぐのが速いわけじゃないから、戦闘向きとは言いづらいかもしれないな」



 どうせなら天使型や悪魔型みたいに空を自在に飛べるような形態でありたかったが、さすがに魔名ランクがあがっても自分の身体が変わることは無いだろう。

 

 『大罪』の最終形態はどうなるんだろうか?

 今回の魔名ランクアップは『大罪』のまま呼び名は変わらなかったけど、普通は変わるもんだって話を聞いていたので、EXになるときにはどんな魔名になるんだろうか?


 真逆の存在であるアクィナスさんが『七元徳』だからな……それに似通った呼び方になるんだろうか?

 もしEXになってガチャを引くこともできていて、『聖魔物』がそこそこの数手に入っていたら、配合をガンガンためしていってもいいのかもしれない。



「いかんいかん……すぐ脱線するのが悪い癖だな。それで聖国騎士団はどうだったよ?」


「やっぱ黒だったよ……特に上の連中は完全に真っ黒だったね。逆に何で気付かなかったんだろう?」


「やっぱそうか……ありがとう。これで悪巧みがしやすくなったよ」


「そうやって悪巧みしているときが一番良い顔してるってアークにいる大精霊が言っていたよ」


「そりゃ……ルジストルの主だからな。悪巧みが生きがいみたいなもんさ」


「これが魔王1年目ってんだから……世の中恐ろしいもんだね」


「上手く行き過ぎてる1年目だけどな。でも集大成はルーキー期間終わり際になる予定なんだけどな」


「私はコソコソ仕事を頑張らせてもらうから前線で酷使しないでよ」


「『枢要悪の祭典クライム・アルマ』がいるのに前線に行かせるわけないだろ? するとしても囮にして何か釣り上げる時だけさ……帝国騎士団の連中とかさ」


「やる気満々じゃないか……せっかく寿命を気にしなくて良くなったんだから、長生きしたいんだけど」


「さすがにミネルヴァみたいな戦力を手放すつもりはないから安心してくれ。せめて半殺し程度で済むようにするから」


「……やっぱ魔王だったよ」



 ミネルヴァとの心温まる報告会は楽しい感じに終わっていった。

 ビエルサとミネルヴァのおかげで聖国について色々分かってきたことがあるから、今日も楽しく悪巧みをするとしようか。

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