外伝 『偽神』と語る


――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 今日は珍しくイデアと2人で昼食を食べている。

 俺たちは少し遅くなってしまい、他のみんなは既に食べ終わってしまっていた。


 今日のメニューはサンドイッチにサラダ、そしてコーンスープといった軽食セットみたいな感じだ。

 ダンジョンに大物が来る気配も無いから、満足行くまで食べても良かったけど、食べた後に急に動くとお腹が痛くなることもあるので、なんとなく抑えめにしておいた。


 

「マスターって不思議だよね」


「なんか今更な気もするけど……突然どうした?」


「他の魔王をたくさん見てきたけど、魔王って、その名の通り魔物に近しい存在のはずなのに、マスターは魔物というよりも人間に近い生態をしてるから」


「考え方も人間っぽいって言われるしな」


「絶対何かしら考えてるでしょ?」


「別に……他魔王と比べること事体、意味あることじゃないだろ? 多すぎるってくらい魔王がいるのにさ」


「マスターは口に出してる言葉と考えていることが、よく合っていないことがあるから信用なんないなー」


「イデアはメルほど内側までは視れないけど、ある程度は分かるんだったな」


「マスターの性格は、さすがにみんな理解しているから能力云々の問題じゃないと思うよ」



 イデアはさすがと言うか、本質をスバっと突いてくるから話を続けているとボロを出してしまいそうになるのが恐ろしいもんだ。

 けっこう適当に話をしていても、すぐに真面目路線になりそうになるので、ご飯の時くらいは緩くしたいもんだ。


 もちろん自分の生態が人間に近いことなんて魔王になって、すぐに気付いたことだし、他部分でも人間に近いことなんて、自分が一番よく分かっていることだ。


 でもそれについて考えすぎることは今は無駄な時間だと思っているので、あんまり考えすぎないようにしている。



「まぁ……魔王の数が減って、俺が残った数少ない魔王になれば、俺と似た奴が魔王っぽいって言われるようになるさ」


「随分大胆発言だし、話の流れが突然すぎて着いて行けないんだけど……」


「ほら……さすがに慣れただろ? 俺の話に脈絡がないことに」


「できれば慣れたくなかったんだけど……」



 イデアの困り顔というのは、あんまり見れたもんじゃないから御利益がありそうだ。

 本当にウチの魔物たちは優秀どころばかりだから、あんまり困ってくれなくて寂しくなってしまうどころか、勝手にポンポン進んでいってしまうから、逆に俺が困ってしまうことが多いくらいだ。


 ルジストルやイデアは自分の筋書き通りに物事を進める能力が凄まじいし、内にも言わずとも色々察してくれているので助かるが、稀に俺の想定の遥か上に行くことがあるので、たまには困らせてやらないと俺がつまらない。



「魔王に対して、偉大さだったり邪悪さを夢見てる魔物たちには見せられないね」


「周囲の価値観に合わせてやる必要なんてないさ……結局は自分がどうしたいかってところじゃないか? 嫌だと思われたのなら争うだけさ、魔王なんだから」


「そのスタンスを貫けるなら大丈夫だね。でもマスターはコロコロ変わりやすいところもあるから心配だけどね」


「目的地は変わらないけど、目的地までの道のりは思い付きで変えちゃうからな……いや~ご迷惑お掛けして申し訳ないな」


「申し訳ないとか言いながら、『大罪』と『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のことを誰よりも理解して好き放題してるんだから」



 そりゃ一番理解していなきゃいけない立場だから仕方ないことだ。

 最近は『大罪』の魔名についての噂を聞くこともある。『海賊』との魔王戦争の影響で配合すれば強い魔物が手に入る魔名だという話がでているので、その噂すらも利用させていただかないと、噂をだしてくれた魔王たちに申し訳ないからな。


 『大罪』の良いところはEXランクの魔物を配合で手に入れやすいところもあるかもしれないが、個人的に『大罪』の凄いと想うところは真名付与回数にあると思っている。


 基本的に真名か魔物名なのか分かりにくい真名をつけているので、まだ知られていないと思うし、今後も知られないように立ち回るけど、他の魔王たちと比較しても『大罪』の真名付与回数は突出していると思う。


 EXランクの魔物が少ないや最古の魔王しか持っていないっていうクラウスさんの話は、ルーキーの俺がEXランクの魔物を配下にしている時点で、あまり信憑性のない話になったから、他にもEXランクの魔物を配下にしている魔王がそれなりにいると考えた時、他魔王と差をつけれるところは確実に真名付与回数だと俺は思っている。



「真名があるのと無いとじゃ……本当に違うもんなぁ……」


「また突然話の流れを変えるんだから……でも、それは確かだよね。『罪の牢獄』では真名持ちは唯一の魔物で比較できないけれど、『焔の魔王』のところなんかを見ると、同じ魔物でも真名持ちとノーマルでは天と地ほどの差があるもんね」


「俺の場合は月の配合回数が少ないから、生き残るためには配合した魔物に、そのまま真名を付与してきたけど、本当だったら真名付与って、かなり難しい選択になるはずなんだよな~」


「マスターは10体以上に付与できるからね……今のところ出会ってきた魔王と比べても凄く多いから助かっているね」


「まぁ……その分『大罪』にはデメリットもあるから、なんとも言えないけれどな」



 魔王の生命線は、それぞれの魔名の力と魔物たちにある。

 戦争になったとき、どこまでその2つを活かして事前に勝てるように準備できるかどうかが、個人的にはかなり重要な点だと思っている。

 『大罪』の良いところは配合した魔物が単体で強力な力を発揮できる魔物にすることができること+真名付与回数が多いから、そのまま真名を授けることで、『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のようなとんでもない魔物を配合することができるところだ。


 この良さは他魔王に真似できないと願いたい。

 真名付与回数は滅多なことで報酬で貰えないから、この部分だけは他魔王よりも優れていて欲しい点だ。



「みんなくらいに俺も強かったら、やれることの幅が爆発的に広がるんだがな」


「マスターは自分の存在すら囮にしまくって危ないから、できればやめてほしいんだけどね」


「戦いってのはやる前に勝てる状況を作ったもん勝ちだと思っているからな……俺っていう存在も駒の1つみたいなもんだよ」


「そんなことばっか言ってるからポラールに怒られるんじゃない?」


「まぁ……結果思い通りの展開で、ここまで来てるからいいんじゃないか?」


「どうせマスターのことだから、そういった考え方の魔王だよっていう印象操作すら思惑なんでしょ?」


「……それ言ったら面白くないから内緒にしとくとこじゃん」


「そして、よく考えた策略家でしたみたいに思わせて、実はそこまで考えてないってネタばらしするとこまで作戦だもんね」


「……これだからメルとイデアは、話すればするほど内緒にしてる部分が剥がされてくから悲しいんだよなぁ~」


「これくらいなら、みんな気付いてるから悲しむほどじゃないでしょ?」


「まぁ……他魔王に気付かれなきゃいいんだけどな。別に気付かれても後の対応も考えてるし……」


「マスターって魔王って言うより、裏でコソコソ暗躍している3番手くらいが似合うよね」


「そうかもな……あんまり王っていう感じじゃないと自分でも思っているし」



 本当に的確に話を進めてくるから、話をしていると真面目な雰囲気になっちゃな。

 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』は誰もが考え深く適材適所でやってくれるから、言葉足らずな俺からすれば、本当に最高の存在だって改めて思わされる。


 わざわざ言葉にしてくれるイデアだから、みんなが想っていることを代表して伝えてくれている部分もあるんだろう。

 こうやって昼食が2人になることもイデアの策の内なのかもしれない。恵まれた仲間を持てて幸せもんだな。


 

「さて……午後も悪い事をたくさん考えようかな」


「自分で言っちゃうあたり、本当に王様らしくないね。でも考えすぎて転ばないように気を付けてね」


「ありがとう……そん時は頼むよイデア」


「もちろん……そろそろ行こっか」



 イデアとの心温まる昼食を終え、少しスッキリした感じで、俺は午後からも悪巧みするべく、イデアとコアルームへと行くことにした。



 

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