エピローグ すれ違う『決意』
――『罪の牢獄』 居住区 会議室
ラムザさんが勇者に討たれてから5日間が経過した。
ダンジョンに無謀にも挑んで来る冒険者もさすがに減り、普段通りに戻ってきており、勇者が魔王を倒したから、後に続けという話も聞かなくなった。
各国の小競り合いは本格化の流れを見せており、国境付近で怪しい動きが多くなっているのをウロボロスと一緒に確認をしてきた。
本格的な人間同士の争いが近いのだろう。
そして狙われているのは帝国だ。
王国と公国から領土を一定分狙われており、そこまで守る力が2名もアルカナ騎士団の団長と副団長が抜けたため、不在ではないかという予測の元だろう。
だがどの国も本格的な戦争をする気配は今のところなく、中心を落としてやろうって感じではない。
まぁこれは人間が勇者の存在にかまけて、互いに不可侵条約を結ばなかったからしょうがない話である。弱っている奴は狙われてしまうのが道理だ。
そして今、目の前には、5日間経過して心の整理が出来たんだろうアイシャが、ダンジョンに来てくれている。
だがアイシャはどこか冷たいというか、纏う空気が変わったような気がする。アイシャの背後にいるドラコーンに目を向けても、どこか雰囲気が違う気がする。
「ご心配をおかけしました。この通り整理はつきました」
「俺が心配せずとも大丈夫だっただろう?」
「いえ…近しい存在は重要です。その一人は人間の手によって奪われてしまいましたが……」
少し棘のある言い方をするアイシャ。少しビックリしてしまった。
正直、アイシャの様子も、今の発言を聞いても整理がどう付いているのか分からない。なんというか突き抜けた感じがする。
いつもよりどこか目が澄んでいるような気がする。でも表情はいつも通りだ。
「師匠が勇者に敗れてしまい、さすがに危機感と怒りを感じました。私はまだ弱いと」
「他のルーキーが聞いたら激怒しそうだな」
「ソウイチよりも遥かに劣っています」
アイシャが強い視線で俺を見る。確信めいた……覚悟の籠った目。
なるべく言及せずに隠してきたつもりだったけど、さすがにバレているか。
情報ってのは仲間だろうが話せば流れていく可能性があるから、できれば話したくはないんだけどな…。
「俺の方がダンジョンランク低いぞ?」
「知名度の差です。魔物の強さは私たちと比べ物にならないでしょう?」
アイシャらしくない。
たぶん前から気付いていたんだと思うけど、わざわざそんなことを言いだすだなんて。
余程、今の自分がもっている強さに不満があるような言い方だ。
「それで……どうするつもりなんだ?」
「強くなります。それがどんな道のりであろうとも、圧倒的な強者になりたいです。それこそ魔王のあるべき姿ではないかと……」
「何を目的に?」
「これを言えばソウイチは怒るかもしれませんが……私は人間が好きではありません。勇者はもちろんのことですが、冒険者もそうですし、普通に暮らしている人間もそうです」
アイシャの発言に言葉を失ってしまう。
俺だって勇者や冒険者は別に好きではないが、何も危害を加えない人間は嫌いではない。もちろんアークの人口では人間が1番多いし、アークを支えてくれる者として歓迎している考えだ。
「私の街はアークほど平和ではありません。多くの問題が起きています。そして師匠が討たれてからの人間の行為は、さすがに目に余ります」
アイシャの眼差しがさらに強い物になる。
相当な怒りと決意を秘めているように感じるし、俺に対しても何か訴えたいようなものを感じる。
同盟ではあるが、俺とは違う道を歩むので邪魔をするならば敵とでも言いたいような雰囲気だ。
「今までは少しのことに対しては我慢してきましたが、今の私にそこまでの余裕はありません。そして勇者に対する気持ちも同じです」
「……人間を滅ぼす気か?」
「……今はそこまで考えていませんが、勇者は確実に討ちます。今は力及ばずとも、必ず強くなってみせます。そして人間がこれ以上愚かな行為を続けるのならば、見逃すことはできません」
「……相当な決意なんだな」
「…はい。だからと言って、ソウイチと敵対するなど考えてはいません。今後とも大事な同盟として関係を築いていきたいと思っています。ですが私の理想に敵対するのならば、いずれ敵になってしまうかもしれませんね」
「そこは俺だって同じだ。別に世界征服を考えているわけじゃないから敵対なんて考えないさ……余程のことが無い限りな」
互いの理想は異なるが、同盟としては仲良くしていきたいってことだ。
アイシャは並々ならぬ決意をしたんだろう。自分よりも強かったラムザさんを倒した勇者を逃さないなんて、普通じゃ言えない。
まぁ俺もミルドレッドの仇で勇者と魔王1人を倒したんだけどな。
「魔王ってのは強ければ好き放題やることが許される存在だと思っている。アイシャの進む道は他魔王とも大変な関係性になりそうだな」
「覚悟の上です」
「同盟として出来ることはさせてもらう。けど俺にも譲れないものがあるからな?」
「もちろん承知の上です」
「……まぁ無理しないようにな」
「ありがとうございます。では、また来ますね」
アイシャはそう言うと、一礼してドラコーンとともに自分のダンジョンへと帰っていった。
どうやって強くなるのかは知らないけれど、あの感じは普段通りに冒険者を倒してコツコツと強くなるって感じじゃなさそうだ。
個人的な予想だと、魔王戦争を仕掛けるんじゃないかと思っている。
他魔王の魔名を積極的に狙っていって、ガンガン配合していくつもりなんじゃないかな。
相当なリスクがあるが、あの感じは、何が何でもって感じだからやりそうな気がする。
俺も先輩魔王に喧嘩売った立場だからなんとも言えないが、出来る限りは応援してあげないとな。
「どう思う?」
俺は自分の背後で見守っていてくれた、ポラールとイデアに声をかける。
2人もアイシャのことは知っているので、その変わりように少し驚いているようだ。
「随分な覚悟の決めようでしたね。ご主人様に似たものを感じました」
「そうだね。障害になる者はなんだろうと叩き潰すって気概が見えたね。でもあれが周知されている魔王本来のあるべき姿なんだろうね」
「やっぱりそうか」
「失礼な言い方かもしれませんが、まだ勇者に挑むほどの力は無いですね」
「本人はすぐにでも挑みたそうだったけどね」
2人ともさすがによく観察してくれている。
俺も2人の意見には納得できるし、勇者の強さを確認している俺たちからすれば、各個撃破を狙うんだとしても、まだドラコーンでは厳しいのが現実だ。
もしアイシャがSSランクを何体も配下に出来たのなら話は変わってくるんだろうけど、そう簡単に配下に出来るもんじゃないからな。
とりあえずは同盟として見守るとするか、俺にもやりたいことはたくさんあるしな。
「帝都に行く準備をしないとな」
「帝国領土にいる魔王を把握するためでしたよね?」
「確か…冒険者ギルドってとこに資料があったんだっけ? 帝都には田舎街にはない資料がたんまりあるらしいからね」
「よく覚えてるな2人とも。まぁそれだけじゃなくて色々見ておこうと思ってな」
ピケルさんの街に自由に行き来させてもらえるので、帝都までウロボロスで行かずとも、道中を見ながらフォルカで行けるからな。
帝都の周囲がどうなっているかを、じっくり観察するいい機会になると思っている。
「俺たちは俺たちのやることをしないとな」
確かに勇者は脅威だけど、俺たちは勇者と戦うために生まれた存在じゃないはずだ。
自分の理想を叶えるために王になったんだから、1つの存在ばかりを気にしていられない。
もちろん障害になれば容赦はしないけど、俺は最高の国を築きあげるために、頑張るとするか。
「いざ……帝都へ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます