第11話 静かなる『守護神』
――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム
まるで俺たちが勇者御一行襲撃を予期していたかのようなタイミングでのダンジョンを強襲してきた強者の存在。
『異教魔王』をの記憶を手に入れたことで判明した、もう一人の敵であり、ここまで俺に降りかかってきていた災難の黒幕。
公国からの使者だとかいう連中は簡単に地下5Fまで進んできている。
ダンジョンに入ってから隠す気が無くなったのか、人間の姿ではあるが、魔物の気配をプンプンさせながら俺の魔物たちを退けている。
「まだ生まれて1年しか経ってないのに……『
『七元徳』と絶賛戦い中、これからも争い合う仲になってしまうんだろう。何が目的なのかは明確ではないが、狙われているものは仕方ない。
そして少し嘆くような気持ちで『罪の牢獄』に攻め込んできている相手に対して呟きながらコアを弄ってマスティマとグレモリーに避難指示を出す。
「そこまでして出る杭を潰したいかね? 『星魔元素の魔王クラーク』さんよ」
◇
「本当にGランクしかいませんね……わざわざ『七元徳』にちょっかいをかけに行っているようなので、ダンジョンの守りも手薄のようです」
「魔物数が少ないことは判明している……『大罪』の魔名さえ王の元へ持ち帰ることだけに集中せよ」
「まったく……こんな帝国の隅っこまで来てスケルトンとお遊びだなんて、帰ったらご褒美をいただかなくちゃ!」
『罪の牢獄』地下第6階層。
このエリアの守護者であるデザイアの創り出した3体の魔物を倒したのは、『星魔元素』から送られてきた3体のEXランクの人間型魔物。
黒髪に執事服の男性人間型の姿をしているのは『水星天ヒュードル』という極水魔導を中心とした水系統を極めし精霊。
白髪に執事服、初老の男性姿をしているのは『風魔天テンペスタ』。極風魔導と武技を使用する精霊。
2つのお団子が目立つ髪型をした女性型の姿をしているのは『火魔天ダーロス』。極火魔導と時空間魔導を使用できる精霊だ。
3体とも『星魔元素』が誇るEXランクの魔物たちであり、真名こそ授かってはいないが、Lvも900近い魔導を極めし大精霊たちである。
「話によれば『大罪』の主力は単独戦闘でなければ力が発揮できない……とのことだ」
「私たち3人なら問題ないでしょ!」
3体が『星魔元素』から指示されていることは1つ。
『大罪』の息の根をとめて魔名を手に入れることである。
魔王界では知る者が少ないほどにまで知名度をあげた『大罪』。その力を我が物としたい『星魔元素』によるソウイチを始末する作戦。
『焔天』が勇者に狙われたことによるダンジョンの空きを狙った、かなりストレートな作戦であり、『星魔元素』も勇者の後ろに『七元徳』がいることをもちろん承知、『七元徳』と『大罪』が確実に小競り合いすることも視野に入れられた作戦なのである。
ダンジョン侵入から僅か10分足らずで地下6Fまで進んできた3体に近づく影が1つ。
――ガシャンッ…ガシャンッ
「階段から魔物が上がってきたよ!」
「単体と言うところを見ると……『大罪』の主力ですね」
「かなりの闘気……引き締めよ」
――バチッ…バチッ…
仲間たちが無残にも散っていくのを感じ、下の階からやってきたのは
『罪の牢獄』が誇る絶対的守護神、『
ソウイチは阿修羅をぶつけるつもりであったが、珍しくアヴァロンが動き出したのを見て、その意志を尊重した形だ。
アヴァロンの身体を纏うのは普段は見られぬ黄金の魔力と闘気が合わさったモノ。
これはアヴァロンの『
何故進化したのはか不明だが、スケルトンやメルの分裂体の犠牲が多くなりはじめてから変わってしまった
アヴァロンは、その手に持つ『
――ドンッ!
アヴァロンの動きに対して、素早く反応したのは『風魔天テンペスタ』だった。
武技と風の力を利用した素早い動きでアヴァロンの懐に入り込み、風魔導の力を纏わせた拳をアヴァロンにむけて放つ。
「嵐拳鎌鼬ッ!」
――パリンッ!!
「ぬッ!?」
触れるだけで相手を切り刻む風の拳はアヴァロンに触れる前に割れるような音とともに消滅した。
『罪の牢獄』に存在する全魔物の中でもトップクラスに厄介なアヴァロンの防御能力『
このアビリティの厄介なところは1度使用して島しまったスキルは『
テンペスタが仕掛けると感じて、後方で待機していた2体も、テンペスタの攻撃が呆気なく防がれるという予想だにしない事態に驚いている。
アヴァロンはそんな隙だらけのテンペスタたちに向けて、『
アヴァロンの『
普段軽々と倒されていく『罪の牢獄』Gランク魔物たちの無念を乗せ、数千、数万体にも及ぶ魂を解き放つ。
「避けろッ! テンペスタ!」
――ドシャァァァァァァァァァッ!
アヴァロンの一振りから放たれたのは白銀の雷光と圧倒的なまでの剣閃。
その一撃の名は『
エリアそのものを破壊してしまうのではないかと思うほど、アヴァロンから直線状に伸びた雷霆の一撃は、同じEXランクの『風魔天テンペスタ』を塵一つ残さずに消し飛ばした。
――ドンッ!
「は、速ッ!?」
圧倒的な力で、他者を踏みつぶしながら生きてきたヒュードルとダーロスが現実を受け入れるのに少し戸惑っている隙を、アヴァロンが見逃すはずがなく、『
完全に反応が遅れてしまったヒュードルは恐怖のあまり極水魔導を放とうと魔力を集中させるが、すでに手遅れであった。
アヴァロンの少音かつ機械的な声とともに、白銀の雷光を纏ったアヴァロンの大盾がヒュードルへと無慈悲に迫りゆく。
『
――ドガァァァァンッ!!!
ヒュードルへと叩きつけられた大盾は、破裂音を周囲に響き渡らせながらヒュードルを抹消する。
初めて直面する絶体絶命の危機にダーロスは全力で魔力を練り上げて、威力は落ちるが、すぐにでも迎撃しなければと思ったダーロスは無詠唱の極火魔導をアヴァロンにむかって解き放つ。
「嫌だッ!? 来るなァ! 消し炭になれ!
――パリンッ!
アヴァロンに向かって放たれた極火魔導『
通常であれば防御能力をある程度無視して、対象を焼き尽くしながらデバフを付与する技なのだが、『
無詠唱ではあったが、全力で放った極火魔導を何もせずに防がれてしまったと感じたダーロスは、あまりの絶望に涙を流す。
気付けば、ダーロスの極火魔導の影響で、さらに速く、そして強くなったアヴァロンがダーロスの正面まできており、雷光を纏わせた剣を振り上げていた。
「一体……どれだけ真名持ちいんのよ……」
『
――ドシャァァァァァァンッ!!
この時点では『七元徳』も『星魔元素』も気付いていない重大な事実。
ソウイチの『大罪』はデメリットが多いが、EXランクの魔物を簡単に生み出すことができると勘違いしているという事実が今回の戦いの行方を決定付けている。
ダーロスは死ぬ直前に気付くことができたが、『大罪』の恐ろしいところは『真名付与回数』の圧倒的多さにある。
EXランクの魔物が群れようが、デメリットはあるが強大な単体性能をもたらす『大罪』+真名を付与された『
アヴァロンは何事も無かったかのように振り返り、自分が本来守護するはずである闘技場エリアへと帰っていく。
その姿は、まさしく『罪の牢獄』の守護神であった。
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