第10話 『座天使』と『魔神』


 『大罪の魔王ソウイチ』による『焔天の魔王』討伐に向かう勇者一行への襲撃。

 この行動は聖国騎士団と言う名の『七元徳』の配下たち、『七元徳の魔王アクィナス』本人にも予測されており、『主天使ドミニオン』を十数体勇者に付かせたが、今のところ『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の前に完膚なきまでに蹴散らされている状態だ。


 『罪の牢獄』のリーダー。

 天覇魔神へと進化を果たし、ただでさえ強かった能力とステータスが、さらに強くなったことで、圧倒的な戦闘力を手に入れたポラールが聖国のとある森上空で、ゆったりと飛びながら考え事をしていた。



「ご主人様の予想の通り行くならば……来るはずですが……」



 すでにウロボロスとデザイアによって転移させられてきた天使たちを討ち滅ぼし、周囲に少しの揺らぎをも探知できるように気を張り巡らせながら、ソウイチが予想していた『七元徳』からの追加戦力を待ち受けていた。


 デザイアとウロボロス、そしてイデアがいるおかげで時空間系統の能力で戦場に跳んでくるのは不可能なので、素直に『七元徳』のダンジョンとソウイチたちの間に陣取っているポラール。


 考え事をしながら待っていると、強大でとても目立つ魔力の持ち主が、物凄い速さで近づいてきているのが探知できた。


 ポラールはすぐに戦闘体勢へと切り替え、迫りくる存在に意識を強くむける。



「……さすがご主人様。見事に援軍が来ましたね。3体ですが」


「貴様のことは主より聞いている。我が名は『座天使ガルガリン』なり。退くが良い、我らの目的は坂神雫の回収なり、今なら見過ごしてやろう」


「……今なら見逃してあげますから、お家に帰ってもいいですよ」



 ポラールは『座天使ガルガリン』たちからの問いに対して微笑みながら返答する。


 『七元徳』が誇るEXランク魔物の1種『座天使ガルガリン』。

 聖国騎士団員時には『大将ジェネラル』の1人として活動しており、『七元徳』の天使たちの中では珍しい黒色が鎧に入っている天使。

 4つの燃え盛る車輪を自身の周囲に展開し、顔は美男美女の人間型に似せられた魔物。

 『七元徳』に共通する味方のステータスを上げる能力を多く持ち、火系統・闇系統・光系統のスキルを幅広く習得しているEXランク魔物。



「戯言を……悪なる者よ! 天の裁きを下してやろうッ!」



 ポラールには『善悪二天論ツヨサコソセイギ』のスキルで『座天使ガルガリン』の能力を見通すことができている。

 ソウイチから『七元徳』の力の特徴をポラールなりに見定めてきて欲しいと言われているので、とりあえずは様子を見ることにした。


 『座天使ガルガリン』たちの周囲に漂っていた計12個の燃え盛る車輪がポラールに向けて勢いよく飛んでくる。


 迫りくる車輪たちの軌道をしっかりと見定めながら、自身の身体に闘気を巡らせるポラール。

 敵意を向けられてからステータスが凄まじい勢いで上昇しており、車輪の動きが恐ろしくスローに感じてきたところで各個粉砕していくことをポラールは判断する。



「……『黒焔覇王拳ベリアルブレイク』」



 両手両足に黒焔を纏わせるポラール。

 『座天使ガルガリン』の燃え盛る車輪には直撃させた相手を精神状態異常に陥らせるという効果があるのだが、そんなことを気にもせずに迫りくる車輪に、高速移動をもって迎え撃っていく。



「覇邪天拳ッ、天崩烈脚ッ!」



――ズシャッ! ドゴオォンッ! バギッ!



「なにッ!?」



 黒焔を纏ったポラールの武技が座天使ガルガリンの車輪を粉々に粉砕していく。

 EXランクの魔物として、自身の力に自信をもっていた座天使ガルガリンたちにショックを与えるような美しさと速さで車輪が粉砕されてしまったが、さすがの能力の高さか、切り替えは早かった。


 3体がそれぞれ火・闇・光属性の魔力を集中させる。



「聖火の天槍ッ!」


「闇夜の聖槍ッ!」


「光天の魔槍ッ!」



 3体の座天使ガルガリンから放たれるはEXランクの天使共通のスキルである属性魔力を巨大な槍として放つことができる『裁きの聖槍』というもの技だ。

 シンプルなスキルではあるが、Sランク以下の防御能力を貫通し、かなり燃費が良いスキルでもあり、EXランク天使が多用する万能技だ。


 迫りくる巨大な聖槍を前にポラールは特に動じることなく、右手に黒焔と闘気を集中させる。



「『焔覇大黒天掌ダイコクテン』」



――ゴォッ!



 美しいモーションから放たれる掌底。

 ポラールの黒焔を纏った掌底から放たれる衝撃波は、3本の『裁きの聖槍』を容易く吹き飛ばし、衝撃波とともに空に広がっていく黒焔は勢いよく座天使ガルガリンに襲い掛かる。



「危険だ! 決して黒焔には触れるな!」


「さすが主が危険視するだけはあるッ! ルーキーの魔物とは思えん!」


「時空間魔法も使用できる! 不意打ちに注意するのだ!」



 3体の座天使ガルガリンたちはポラールの放った『焔覇大黒天掌』の凄まじい衝撃波に晒されながらも、黒焔だけは回避しつつ、連携をとってポラールから距離をとって体勢を整える。


 そんな様子をポラールは観察しながら、『七元徳』の魔物について考えをまとめていく。



「敵対者に影響を与えるアビリティが少なく……味方に恩恵を与える能力が大半……本当に私たちとは真逆ですね。数が多ければ多いほど真価を発揮するのが『七元徳』の特徴の1つのようですね」



 自身以外全てに多大な影響を及ぼしがちで、ソロで戦うことが基本な『大罪』の力を持ちし者たちとは真逆な性能だとポラールは評価する。

 ステータスに関してもLvが800台にしては、かなり多いと評価するが、能力に尖っている部分がなく、ステータスは高くても戦闘では器用貧乏という印象もポラールは抱く。


 ポラールは自身の技を試すように、距離をとろうとする座天使ガルガリンたちに武技を放っていく。



「空砲覇掌」



――ダダダァンッ! 



 闘気を纏った掌底は、まるでライフルのように鋭い弾丸衝撃波として座天使ガルガリンたちへと放たれる。

 ポラールが使用できる武技の中では非常に威力が低いものだが、様子見にはちょうどいいだろうと判断し、次々と弾丸衝撃波を放っていく。


 さすがに座天使ガルガリンの機動力の前では直撃をとるころはできないが、次々と放たれる弾丸に座天使ガルガリンたちは攻勢に移ることができない。



「竜闘砲覇掌ッ……黒焔砲覇掌!」


「くッ! 武技主体とは聞いておらんぞッ!?」


「結界術と闇魔導ではないのか!?」



 過去の魔王戦争からポラールの能力を主から伝えられてきた座天使ガルガリンたちだったが、予想だにしない武技中心での攻撃に完全にペースを乱されている状況。

 ポラールの掌底による様々な闘気が付与された弾丸のような衝撃波を直撃しないように立ち回る座天使ガルガリンたちだったが、完全に回避することはできず、少しずつ傷が増えていく。



「双竜翔弾……黒焔竜牙砲…」



 遠距離で使用できる武技を放ち続けるポラール。

 間髪入れずに飛んでくる竜闘気や黒焔が付与された武技にギリギリに回避を続ける座天使ガルガリンたち、特に黒焔のヤバさには気付いているのか、黒焔だけは最悪でも掠る程度に上手く留めている。


 さすがに掌底を撃ち続けるのは疲れたのか、ポラールは攻撃の手を一度止める。



「さすがのステータスですね。敏捷値、そして耐久値……真名は授からずともEXランクということはありますね。ですがフェンリルやアマツには遠く及びません」



 ステータスと味方を強化する点に関しては評価するも、3体程度では大した脅威ではないと判断するポラール。

 単体でどんな敵にも敵うように日々、阿修羅やポラールの特訓を受けているフェンリルやアマツの方が格上であると認識したところで、座天使ガルガリンの評定を終えたと判断し、とどめを刺しに入る。



「くっ……我らを近づけまいと思っているようだな」


「武技は使用できるが……接近戦には自信がないとみた」


「ふむ……そろそろ勝負をつけねば勇者が死んでしまうだろう」


「いえ……もうお終いです」



――パァンッ!



「「ッ!?」」



 ポラールから放たれていた怒涛の武技の嵐を抜け、体勢を整えつつ、接近戦を仕掛けようとしていた座天使ガルガリンたち。

 目を離していたわけではないが、気付けば自分たちの背後にいたポラールに軽く拳で小突かれた1体の座天使ガルガリンが声を発することなく消滅する。


 6種の武技を受けてしまったことで条件を満たしてしまい、ポラールの拳を当てることで発動する即死スキル『絶望的デッド・エン六法則ド・シックス』による不可避の死が座天使ガルガリンを襲ったのだ。



「用済みです」



――パァンッ! パァンッ!



 先ほどまで座天使ガルガリンたちに見せていた速さの倍速ほどの速さで、2体の座天使ガルガリンを『絶望的デッド・エン六法則ド・シックス』によって不可避を死を押し付ける。


 初のEXランク魔物との実戦だったポラールは少し期待していたが、想像以上の弱さであったので、どう報告しようか悩みながら転移する準備を始める。



「遠距離武技を押し付けてからのトドメ、あまり好みではありませんが楽ではありましたね」



 軽い感想を呟いて、ポラールは時空間魔導によって転移していったのだった。




 

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