外伝 『学び』は尽きることなく


――迷宮都市アーク 居住区域



 個人的な思い込みかもしれないが、座っているときよりも歩いているときのほうが物事を考えやすい性格だと自分を見て思う。

 最近は考え事をするとき、コアルームであろうが歩き回ってしまうのが癖になってしまい、さすがに変人だと思われてしまいそうだったので、考えをまとめるためにアークに散歩しにきている。


 ちなみに護衛としてついてきてくれているのはポラールだ。



「こうして久々にアークの居住区域に来たけど……相変わらず穏やかだな」


「ご主人様の尽力の証でもあると思いますよ」


「いや……これは本人たちが頑張った結果だよ。結局種族間の壁は本人たちがどうしていくかってとこだったからな」


「道標を作ったのはご主人様では?」



 広間で遊ぶ様々な種族の子どもたちを見て、アークの平和さを感心する。

 ルジストルとリーナにその部下たち、そしてここで暮らす住民たちそれぞれの努力の上でこの景色が成り立っていることを考えると、少し感動してくる。


 外様である俺のような存在は、種族間の問題に対してどうとでも言えるが、結局は本人たちがどう進んでいくか決めるってのもあり、こういった選択をしてくれているのは嬉しい限りだ。


 もちろんこれで問題がまったく無いと言ったらそうではないんだろうが、いきなり完璧に仲良くだなんてことは不可能だと思うので、こうして寄り添って子どもたちが遊んでいるだけでも……大きな1歩だと感じる。



「あの子どもたちが……歪まず育てる環境だな」


「各家庭ごとの問題にも影響されるので、なかなか踏み込みづらい問題だとリーナも言っておりました」


「そうだな……学問を学べる場を作ったはいいが、そこでも問題が起こっているみたいだしな」


「明確な優劣がついてしまうというのは問題だったようですね」



 優劣というのは難しいものだ。

 子どもたちがやる学問のテストというものがあるのだが、点数がでてしまうので明確な差というものがでてしまう。

 この差だったり点数には、日々を過ごす立場だったり、環境を歪めてしまう要因の1つにもなりかけているという問題がでているのだ。

 もちろん点数がでるということで良い結果になっているという話もたくさん聞いているので難しい問題だ。


 

「点数が高い者が低い者を見下してしまうことが問題に繋がってしまうケースがあるって言ってたな」


「誰かの上にたつという高揚感や知識を得たことで自信が全知全能になったと勘違いしてしまうようなところから問題が起こりやすいと嘆いていましたね」


「うーむ……難しいな」


「推測ではありますが……存在意義を求めた結果引き起こってしまった問題でもあるかと思います」


「誰かの上に立つことで無理やりにでも得る存在意義ってことか? なかなか理解しづらいな……今度メルに頼んで本格的に調査してもらったほうがいいかもな」



 俺だって学ぶことを日頃から怠らないように気を付けているが、知識を得れば得るほどに自分が小さい存在であることを理解させられる。

 積み重なった歴史や、この世界の根幹とも呼べるようなものを学んでいけばいくほどに、1人の魔王がどれだけ小さい者なのかってのか分かる。


 知れば知るほどに、知らないことがでてくる世の中、個人的に大事にしているのは、学ぶことを忘れないことと、自分の存在を過信してはいけないということだ。



「魔王の中じゃ……身の程以上のことをしていると破滅ルートなんてこともよくあるらしいからな」


「見栄を張るというのも時には必要かもしれませんが……自分の首を絞めていいるということに繋がりかねませんからね」


「……随分詳しいな」


「ご主人様が理想とする世界を生きるため……我々もその世界への理解を深めるための学びを各々怠っていません」


「……なるほど」


「まだまだ学びは尽きませんが、少しでもお役に立てるように精進していますので、ぜひご活用ください」


「俺も負けられないな」



 さすが『罪の牢獄』のリーダーって感じだ。

 リーナやルジストルからの相談を何度も受けているとは知っていたが、ここまでだとは思わなかった。

 こういった学びをしてくれていることも、しっかり知っておかないといけない立場なんだから、しっかりしないとな。



「話を戻しますが、見栄を張るという行為には自己防衛の面も含まれるように見えますので、問題解決のアプローチをそこの面から考えるのも良いかと思います」


「なるほど……存在意義ってのと繋がるんだな」


「私から見ていると、過剰なほどに自分という存在を変に目立たせてでも確立させようとする傾向があるように見えます。どの種族にも言えますが、上の立場をとらないと自分を守れないという思想が根付いてしまっているように感じます」


「そういったところにも「争い」という弱肉強食みたいな考えが浸透しているってことか」


「穏やかになったように見えますが、それぞれがしっかりと地位を確立させるため……そうしなければ生き残れないのではないかというのが常識かのような考えで動いているように見えます。もちろん…そういった考えではない者も多くいるので、多種多様ですが…」


「話せば話すほど……頭痛くなってくるな」



 何故こうも難しいのか…。

 難しいからこそ永遠と続いてしまうような問題なのかもしれない。全部を解決しようだなんて思っていないけれど、放置していたら深刻化して酷い問題になる可能性があるような気がするんだよな……。



「ご主人様が考えるのも大事ではありますが、今はリーナたちに任せておくのが良いと思います。まだアークは始まったばかりなので、人間だったり亜人族は変化というストレスから問題がでてしまう種族だと聞きました。落ち着くかどうかを見守りながら、全体整備に力を注いでも、今は良いのではないかと思います」


「変化というストレスか……今は変化だらけだからな~、アークはどんどん大きくなっていく予定だし……」


「慣れという言葉がありますが、慣れるまでも個人差があるようなので、その個人差が引き起こしてしまう問題についても、どのようなものがあるのか知っておかねばなりませんね」


「山積みだな……まぁ1つの国を創ろうってんだから、当たり前だな」


「歩みを止めなければ形になっていくはずです」



 ポラールが頑張ってフォローしてくれるのがありがたい。

 楽しそうに遊んでいる姿を見ると、平和な街に見えるが、見えないところでの問題が多いので、子どもたちが良い環境で生きていけるような街にするためにも、頑張らなくちゃいけないな。



「……俺って何を考えていたんだっけ?」


「散歩に行く前は、帝都の動きについてです」


「そうだったな……『海賊』と『砂蠍』が立て続けに消えたことで怪しまれる可能性があるからな」


「冒険者が攻略したわけではありませんし、ご主人様は騎士団にお知り合いがいらっしゃいますからね」


「問題は……ミネルヴァだな。あれは完全に俺を利用するつもりだろう。どうにかするにしても俺がやったことをバレないように考えないとな」


「他国の動きも警戒しなくてはいけませんね」


「どこまで行っても勇者なんだよなぁ……何時化け物みたいな勇者が誕生するか分からないから、警戒を怠れない」


「女神を討てる日があれば……手っ取り早いかもしれませんね」


「女神か……『坂神雫』とかいう勇者に会ってみないとな」


「やることが尽きませんね」


「それが良い未来に繋がるなら……何だろうと進むだけさ」



 軽い散歩のつもりだったが、ポラールが気をきかせてくれて、上手く考えをまとめる良い時間になった。


 さすが俺たちのリーダー様だと改めて思わされる時間だった。


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