第6章 その刃、『刹那』の如し

プロローグ 4大国の『関係性』


 勇者たちが女神の神託をもらう会議からの討伐魔王発表の祭りまで1カ月となったある日。


 アークには来て欲しくなかったとある人物が来ていた。

 わざわざルジストルのところに行ってフォルカを呼んでくれと我儘に言ってきた人物。


 帝国騎士・アルカナ騎士団第2師団団長『女帝ザ・エンプレス』の異名を持つ騎士、世界に4人しかいない賢者の1人でもある人物。


 その名はミネルヴァ。


 相変わらず綺麗な白い髪を靡かせている彼女は楽しそうに笑っている。


 そんな彼女と俺は今、楽しい楽しい面談をアークのとある店で行っている。

 フォルカ姿ではなく『大罪』の魔王であるソウイチとして来ている。残念ながら魔王であることはバレてしまっているので、わざわざ隠すことも無いだろうと思って、そのまま来た。



「全然返事が来ないから来てしまったわ」


「アルカナ騎士団様は暇なのか?」


「時間を割くほど、私が貴方の力を貸してほしいと思ってるのよ」


「人間同士の喧嘩にか? わざわざ魔王の力を騎士が借りてでも?」


「えぇ……貴方の配下が見せてくれた力があれば、無駄な命が散っていく喧嘩を少なく出来ると思ったのよ」


「手紙の内容が薄すぎるんだよ。とりあえず話をしてくれ」



 4大国は決して仲良し同士ではない。

 全ての国がどこかしらで交わっている隣同士の国。

 昔は毎日が領土の奪い合いだったそうだ。それが無くなったのは『魔王』という存在が現れてからで、民を脅かす存在である魔物の王である魔王を討伐するために、各国は騎士団を送り出し、いち早く討伐して、他国を侵略しようと考えたが失敗に終わってしまったそうだ。


 どの国も魔王討伐に至らず、ダンジョンで兵力を失い続ける毎日だった。


 そんなある日、聖国が成功した『勇者』の召喚。

 別世界から強力な力を褒めた存在を召喚し、勇者と名付けて魔王を討伐してもらう。

 各国は魔王を倒せるならと、国で1人ずつ最強と呼べる人物を勇者の仲間として、魔王討伐の旅に出てもらい、その間は国同士の争いを禁止した。


 その最初に呼ばれた勇者含むパーティーを『初代勇者組』と呼んでいるらしい。

 無事に各国にいた魔王を討伐し、役目を終えたと思えたが、魔王は人々が考えていたより多くの魔王が存在しており、とある魔王に『初代勇者組』は敗北してしまう。


 各国は大混乱に陥り、勇者の仲間として派遣していた国最強の人物まで失ってしまい、国同士の戦争どころじゃなくなってしまう。


 そこで聖国は勇者を8人召喚し、各国同士の戦争を禁止し、ある程度の交流を持つことを条件に国ごとに2人ずつ勇者を定期的に配置し、国の判断で魔王討伐に出てもらうことにした。

 聖国の作戦は大成功し、4大国は長い期間平和を維持していた。


 しかし、その平和は『冒険者』と呼ばれる存在に脅かされることになる。

 増え続ける魔物を討伐や何でも屋のような活動をすることを生業としていた冒険者、そんな冒険者の1組がダンジョンをクリアし、魔王討伐に成功してしまう。その冒険者は国から多大なる報酬金を受け取り、それを見た冒険者の多くはダンジョンに挑むようになる。


 冒険者は独自の繋がりで、ダンジョン攻略を少しずつ進めていき、多くの冒険者グループが魔王討伐に成功していく。

 その時はまだ、上級魔王と呼ばれている存在は勇者の力が合わさらないと討伐出来ていなかったから勇者の存在が重要だった。


 最近はどうだろうか? 冒険者は力をつけ、SSランク冒険者やSSランクパーティーは上級魔王に届きうる存在が出てきた。

 しかもダンジョンが勇者や冒険者にクリアされる前に消滅するケースもどんどん増えてきている。これは魔王戦争だな。


 各国から勇者が集まって年に2度ほど行う魔王討伐も意味が薄くなってきている。


 その勇者の存在意義が希薄になってきたことにより生じてきた各国の昔封じた大きな欲望。

 この世界全土を自分の国で治めたい。


 その考えがどんどん大きくなっていき、最近は騎士団同士が表立って争うことも増えてきたとのことだ。



「しょうもない……時間をかける上に犠牲が多い人間同士の戦は醜いったらありゃしない……何を頼もうって言うんだ?」


「帝国は今、東隣にある王国と小競り合いが大きくなっている。そこで国境沿いにある王国の砦を1発ドカーン! とやってくれたらビビって手を出してこなくなるかなとね」


「本当にそんなのでどうにかなるって思ってるのか? 賢者様」


「……一夜にして砦が抵抗もできず消えるというのは、国からしたら恐怖でしかないからね」


「力を見せつけて王国を抑えようってことか。王国が同じような手段を使ってきたらどうするつもりだ?」


「鋭いね~、本当嫌になっちゃうよ。本当は1発やるついでに、もし王国が同じ手段をとってきたとき撃退してほしいんだ」


「俺より強い魔王が出てきたら?」


「私も2体ほど魔王を討伐したことあるけど、貴方相当強いでしょう?」



 2体倒して知ったような口を利くのはどうかとも思ったが、人間に倒された数多くの魔王たちの情報を調べてからの言い分なのかな?

 実際、俺たちが魔王の中でどれくらい強いかなんて考えたことは無いけど、ルーキーの中でも、そして魔王全体の中でもそこそこ良い位置にいるのは確かだと思う。ウチの魔物はぶっ壊ればかりだから、魔王である俺の力関係なく活躍できるからだ。


 まだ圧倒的に経験と魔物の数が少ないだけで単体戦闘力だけで言ったら最古の魔王様たちにも引けをとらないと思っている。



「人間が魔王に頼むんだ。相当の報酬が用意されていると考えていいんだろうな?」


「…アークについて色々帝国は追及せずにしているつもりなんだけど?」


「追求したいならすればいいし、攻め込みたいなら攻めてみればいい」


「随分な自信だね。魔王と知り合いなんて君しかいないけど、魔王ってのはそんなに自信満々なもんなのかい?」


「他の魔王は知らんが、誰が相手でもただでやられてやることは無い。これでも一応『王』を名乗っているんだ」



 アルカナ騎士団は各地バラバラに仕事に出ていると言うし、各個撃破しつつ帝都を制圧すればいいならやりようはいくらでもある。

 まだ実戦には出ていない最強ウサギちゃんも俺にはいるからな。単独作戦は仕掛けやすい。


 俺の自信ありな発言にミネルヴァはやれやれと言った感じだ。

 どうせ色々考えているなら先に出して貰いたいんもんだ。俺はそこまで頭が良くないから裏の裏まで考えて会話なんてできないんだから。



「帝国各地を自由に行き来出来る通行証みたいな物はどうだい? 帝国ならばどの街でも入れて、皇帝印があるから待遇もいいよ?」


「魔王がわざわざ表から街に入るのに許可をもらうと?」


「……私の名前をある程度なら使うこと許可するわ!」


「……で?」


「……強情すぎないかしら?」


「魔王から見て、そこまでメリットがあるように感じないが?」


「貴方からは人に近い思考回路を感じてたんだけど……」



 さすがに魔王を舐めすぎな感じがする発言の数々だ。舐められても仕方ないくらい俺自身は、まだ弱いから仕方ないかもしれないが…。

 それだけ信用してもらってるという証かもしれないけど、いくなんでも報酬がしょぼすぎる。

 俺から提示したほうが確実かもな。



「俺が欲しい情報を仕入れてほしい」


「この私に何をさせるつもり?」


「別にミネルヴァにやれなんて言ってないだろ? どうにかして俺に情報がくるようにしてくれればいい」


「結局、私が指示をすることになるんでしょう?」


「この含めた先の2つで1度手伝ってもいい」


「1度だけ!?」


「あぁ……それ以降はまた交渉だな」



 かなり悩んでいるようだ。

 俺も出来るだけ無闇な殺生はする気はないけど、近くで人間同士の大戦争されるとどうなるか知ったもんじゃないから手伝うだけだ。

 出来れば人間に手伝うのは1度限りにしておきたい。でないと面倒ごとに巻き込まれて、本来やりたいことに力を使えなくなってしまうかもしれないからな。



「もちろんすぐ動けるんだよね?」


「なんでギリギリに相談しにくるんだよ! 断られたらどうするつもりだったんだ?」


「魔王様はしっかり受けてくれると思ってね」


「俺が怒って殺される可能性もあったんだぞ?」


「現に生きているから問題なしさ」



 俺はミネルヴァに急な日程を言い渡される。

 俺に丸投げな作戦を聞いた時は頭の血管が切れるかと思ったが、これもアークに余計な戦争の流れを持ち込まないためだと思って仕方なく飲み込むことにした。


 『魔王』っていう存在を舐めている第2師団団長様に後悔していただくのは、また時期が来てからでいいかな。

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