第1話 『滅殺』のちデート
ミネルヴァからの依頼を受けて、すぐに準備して指定された場所へ向かう。
なんとミネルヴァとの話し合いから2日後のことである。
もっと事前準備をしっかり進めろよ! なんで2日前なんなんだよ!
そんなことも思ったが帝国領土東側、王国との国境付近。
いくつかの川を渡ったところにある国境を守る関所のような要塞砦。初めて見るが立派なもんだ。
ここには王国騎士が数多くおり、どの時間も見張れるようにローテーションを組んで24時間の監視体勢をしっかりと整えているとのこと。人間にはコアみたいな便利なシステムが無いから、拠点を守るのが一苦労のようだ。
そんな砦が目視出来るところまで来ていた。
ミネルヴァは転移魔法を使用したようで、俺はウロボロスに送ってきてもらった。
ちなみにハクが護衛兼仕事人として一緒に来てもらっている。
要塞を綺麗に残してほしいとのことだったから、ハクの実戦経験を得るため、そしてハクが俺とデートしたいとのことだったから2人で来た。
砦だけ残してほしいという話したらミネルヴァ含めた人間全員を到着した瞬間に滅殺しようとしたので存分に愛でておいた。
おかげでミネルヴァだけは生かしておいてくれている。俺の許可があるまでだけど…。
そんなハクを見てミネルヴァは問いかけてくる。
「この子はどんな魔物だい? 可愛い子だね?」
――スパァンッ!
「っ!?」
「誰が僕に声かけて良いって許可したの?」
俺も…そしてミネルヴァもまったく気付くことの出来ない速度でミネルヴァの髪が短髪と呼ばれる長さほどに斬られている。
しかも斬られた髪は地面に落ちる前に塵となって消えていく。俺がチビリそうだ…。
「ってな訳だ。ふざけてると消されるぞ?」
「……すまなかったね。『桜火の国』の剣技を使うんだね」
「王国をずっと東に行って海を渡たるとある島の名前だったか?」
「そうだよ……そこで有名な剣技が刀を使用したものになっているんだよ」
なんとなく調べてみたことはある。
魔力が溢れて燃えているように見える巨大な1本桜が中央にある島国。
阿修羅と似たような格好をした傭兵を多く擁しており、各地に派遣しているようだ。
一番強い奴が国のトップになるような仕組みになっているらしく、今のトップは物凄く強いらしい。
ちなみにリンさんがいる国でもある。
なかなかどこの国とも仲良くする気はないようで、傭兵は派遣するが、国の中には他国の人間をほとんど入国させないらしい。
まぁそんな傭兵がいても関係ないんだけどな。
ミネルヴァは少し見晴らしの良い場所で止まる。
どうやらここからは任せたという話らしい。
クイッと袖が引っ張られる。
「どうかしたか? ハク」
「も、もしあの要塞にいる奴を早く倒し終わって時間たくさん余ったら、ダンジョン帰る前に、デ、デートしたいな……できればたくさん……」
「……可愛すぎるだろ! このやろー!」
「ひゃんっ♪ マスター抱きしめすぎだよっ♪」
ウサ耳ボクっ娘美人吸血鬼による。
袖クイッ顔真っ赤上目遣いによるデートのお誘いが可愛すぎて思わずハクを抱きしめてしまった。確実に狙ってやってるんだろうけど、抗うことのできない可愛さに一撃でKOされてしまった…。
こんなズルいだろう! 反則だ! 断るなんて不可能に近い。
ミネルヴァが引いた目で見ている気がするが、そんなことより自分の可愛い配下に応えないとな。
「今の時間が…21時くらいだな。日付変わる頃までは自由だぞ?」
「じゃぁ! 20秒で終わったら、たくさん僕とマスターの2人っきり!?」
「そうだな。ゆっくり散歩しながら星空でも楽しむか!」
「うん!♪ 僕に任せて! ………ねぇ」
めっちゃ可愛い顔してウキウキしながら俺と話していたハクが、急に不機嫌そうな顔に変わってミネルヴァに声をかける。
俺たちのやり取りを見ながら小言で「そんな早く終わる訳ないでしょ…」なんて言っていたミネルヴァだけど、本当に自分を殺す力があるハクにビビっているのか、ハクに声をかけられてビクッと大きく反応した。
「僕とあの建物の距離の倍以上、どっかに消えてて。今すぐ……速くして」
「あ、あぁ……」
「マスターは僕の少し後ろね♪」
「お、おう」
ハクのドスの効いた発言にミネルヴァは逃げるように転移魔法で消えていった。ちなみに俺もけっこうビビっている。
俺はハクの少し後ろに位置づく。ハクのスキルは、あんまり距離は関係ない、ぶっちゃけ刀も必要ない気がするけど、『斬る』っていうイメージが一番しやすい武器が刀だから必要って言ってたな。
――ゾクゾクゾクゾクッ!!
ハクの身体から身の毛もよだつような冷たい白黒の魔力と殺気が溢れだす。
たぶん俺にだけは影響が無いようになっているんだろう。たぶん巻き込まれてたら俺は気絶しているだろうからな……誇って言えることじゃないが…。
ハクの本気を受けて「阿修羅」「ポラール」「デザイア」「イデア」でも立っているのもキツイと言わせるほどのもので、SSランクくらいの魔物だったら、10㎞ほどの距離ならこの圧だけで魂ごと粉々に砕け散るレベルだそうだ。もちろん味方も。
だから魔王戦争のときは孤立しているとき以外は抑えてもらうよう教えないといけない。
――カシャンッ
ハクが鞘から刀を抜いて、片手で刀を持って上へ振り上げる。
その刀にはハクの魔力やら闘気が纏っている。抑えているんだろうけど、それでも……考えられないような密度に感じる。
『
――ヒュンッ! パリンッ!!
ハクが勢いよく刀を振り下ろすと、纏っていた闘気と魔力が凄まじい勢いで霧のような形状で砦にむかって広がっていく。
すると何かが割れるような音がする。
少しすると要塞から灰のようなものが大量に溢れて消えていく。
これがハクの一太刀だ……対象を直接斬ることなく仕留める剣技。
いかなる能力も発動を絶対に許さず、いかなる守りも屑のような役割にすらならないような一閃。
ハクが狙えばいかなる距離に居ようと不可避。ただし味方も巻き込む…。
気付いたころには世界の塵となって消滅させられる唯一絶対の一振り。
そしてハクは力を抜いて、能力をOFFにする。見ているだけだったのに俺も汗かいちゃったよ…。怖すぎて…。
「マスター終わった! ぼ、僕とデート…しよ?」
「くそー! 狙ってんのか!? 可愛すぎるだろっ!」
「んっ♪」
絶対狙ってるんだろうけど、あまりの可愛さにハクを抱きしめて、少し持ち上げてクルクルとゆっくり回ってみる。あの一太刀からのこの可愛さ、これがギャップ萌え?
ピコピコと動く耳がハクの感情を表してくれている。
これが我が軍の最終兵器である最強ウサギちゃんだ。絶対に味方を巻き込まないようにと教えなければッ!
少し冷静になるとハクの柔らかい感触と真っ赤になっている顔を見て、急に恥ずかしくなってきた。
「わ、悪い…目回ってないか?」
「マスターにぎゅっとしてもらい過ぎて、僕の顔真っ赤になってるかもっ」
ハクも恥ずかしくなったのか顔を手で隠すように覆う。
くそっ! あざとい! だけど可愛すぎる!
そんなやり取りをしているとミネルヴァが転移魔法で戻ってくる。
「全部消したよ。ネズミ1匹も残って無いから確認していいよ。僕はマスターとデートに行くからバイバイ」
「え……え?」
「あーすまんな。でも本当に全員消滅してるから確認しといてくれ! 報酬頼むぞ!」
ミネルヴァに最後の言葉を残しておいてハクに引っ張られるままにその場を離れる。
ハクと少し離れた場所をゆっくりと歩く。要塞近くから離れた川沿いだ。
俺の腕に抱き着いて楽しそうに歩いているハクを見て、なんだか嬉しくなってくる。
俺自身はまったく戦闘力はないけれど、ハクの主として、楽しい時間を一緒に過ごせているのが何よりも嬉しくなってくる。
「マスター! すっごく星が綺麗だよっ」
「おぉ~、満点の星空ってやつだな。その靴歩きにくいか? ヒールだっけか?」
「えへへっ♪ マスター優しい!」
川沿いが砂利になってきたので、ゆっくりと歩き、近くにあった岩の上でに2人で座る。
ハクが目の前にあった岩を足で突いたら、何故か点火したので暖かくなる。
のんびり2人で星空を見上げる。
ハクは俺の腕に抱き着いてご満悦のようだ。ダンジョンにいるときはこんなことなかなかできないからな~。
「今日はありがとうな。助かったよ」
「マスターの命令だったらいいよ♪ 毎回デートしてくれるなら頑張っちゃう!」
とにかくあざと可愛いハク。恐ろしい切り替え力。
でも頑張られたら凄いことになりそうなので、凄まじく手加減するくらいが良いんだけどな。
今日もミネルヴァには1人で来てもらった。ミネルヴァ以下の存在だと、頑張って抑えてもハクの圧で粉々になりかねない。
今回みたいに俺と2人か、ハク1人で任せる分には絶対的な安心感が、今回の件で再認識出来た。模擬戦でハクの強さは認識していたが、実戦だと気付けることが多いな。
うちのLv999以上組が規格外と言うのがよく分かったよ。ハクは単騎じゃないと輝けないけど、単騎で自由にやらせれば誰よりも輝いてくれる存在だ。
「ハク……少し冷えるから、もっと寄ってもいいぞ?」
「やったー♪」
「……ゆっくりしたらウロボロス呼んで帰ろうな」
「うん♪」
とりあえず頑張ってくれたハクを好きにさせつつ、今後のどうなるかなっていう予測を星空を見ながら、日付が変わるまで考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます