外伝 『強欲』な仙人
「儂はここで何番目に強いんじゃろうか?」
「……突然どうした?」
ダンジョンも閉まり、1日の終わりでゆったりと大浴場で1日の疲れを流していたら、一緒に入っていた五右衛門が突然語りかけてくる。
巨大な蛙がお風呂でのんびりしている姿はいつ見ても面白いところではあるが、何やら深刻な悩みのようなので真剣に聴いて考えてみよう。
『罪の牢獄』にいるメイン魔物である『
俺の真名を付与できる回数的に残り1体だったかな? コアを見てしっかり確認しないと分からないけど、今後はそこまで増えることは無いはずだ。
五右衛門的には自分の強さがどの位置にあるのか気になる感じなのか…。
「戦場だったりシチュエーションに依存しないか?」
「闘技場でよーいドン…で戦ったらどうじゃろうか?」
「まぁ……1番はハクだな…そこはどのシチュエーションでも変わら無さそうだな」
「それは…そうじゃろうなぁ」
誰もが認める無敵の戦闘マシーンであるハクが単純な強さを競えば1番になるのは誰もが認めるだろう。
しかも闘技場だなんてハク向きの戦地だし、ハクの能力が理不尽すぎるから仕方がない。ステータスもバグってるし。
闘技場で戦うと少し不利になるのが何人かいるが、今回は闘技場ってことで割り切って考えるしかない。
「2番手はポラールかデザイアと言うところじゃな」
「ニャルラトホテプがいるからな……実質2人なんだよなぁ……でも闘技場でよーいドンならポラールじゃないか?」
最速『
デザイアとニャルラトホテプはどちらかが生きていればどうにでもなるが、広範囲技でもある『
正直Lv順で決めてしまっても良い気がするのだが、そうも行きたくないのが五右衛門なんだろうな。
後俺の意見を引き出したいから聞いているんだろう……次は誰に勝負をふっかけるつもりなのやら……。
「主から見て……ズバリ儂はどのあたりなんじゃ?」
「タイマンで戦うのが前提なら……レーラズとアヴァロンには有利に立てる……シンラと戦っても五右衛門有利な気がするな」
「ふぅ~む…リトスは有利と見れんかのぉ」
「リトスが全員召喚できるか次第になるんじゃないか?」
「確かにそうかもしれんの……『四凶』だけなら大丈夫なんじゃが」
リトスが使用する2種類の召喚術である『四凶召喚』と『蠅神召喚』。
確かに『四凶』のほうがそれぞれステータスはEXランクだし、ストレートに強い性能しているけれど、ストレートに攻めてくる相手は五右衛門が得意とする分野だから正直苦戦はしないだろう。
しかし『
簡単にいえばハクや阿修羅みたいな自分の力をゴリ押しで付き通してくる相手には五右衛門の多様性と応用力は発揮しづらい。
「闘技場であればガラクシアには勝てそうな気もせんではないが……」
「『
「ぐむむ……『
「メルは攻撃手段に少し欠けるけど、守りの面では鉄壁と言えるから持久戦になるかもしれないな」
かなり厳しいこと言うかもしれないが、五右衛門はタイマンだとアヴァロン肩を並べる段階、レーラズやシンラ、バビロンなんかとはタイマンでは勝てると思うので、11番目か10番目くらいじゃないだろうか?
そう考えると『
「五右衛門も『
バフを盗めなかったらステータスが低かったり、特攻属性のある『神』系統がイデアやデザイアという強大な壁だったり、仙法が闘技場とあまり相性が良くなかったりと厳しい面もある。
本当に適材適所って感じだよな……自然が豊かで遮蔽物が多いところだったら五右衛門は力を発揮しやすいとは思うが、それはレーラズやメルにも言えることだな。
「弱いというのは悲しいもんじゃな……修練を積まねばなるまいて」
「自分に厳しいな……もちろんその志は素晴らしいと思うけど」
「ここにおる魔物で現状維持で満足しとる者なぞ1人としておらんからのぉ……ハクでさえ強くなるための研鑽を怠っておらぬ…生まれたばかりの魔物が多い『罪の牢獄』で停滞する者は置いて行かれるだけじゃ」
「魔物としての歴は儂が1番上じゃからの……他の物にはない経験が備わっておる。主は現段階でメルやガラクシアには敵わんと思っとるかもしれんが、経験の差分、少しだけ儂のほうが上とも言えるやもしれんのぉ……追い越されそうじゃが……」
「経験の差か……額面通りで想定することは危険だって言いたいんだな」
五右衛門の言う通りだ。
俺だって、まだまだ未熟なルーキー魔王。経験なんてほとんど無いようなもの、ただ『
己を磨くことを怠ってはいけない。俺自身がその姿勢を損なえば、『罪の牢獄』全体の雰囲気や指針に関わるかもしれないってこと……五右衛門は随分遠回しに伝えてくるんだな。
「主ならば大丈夫と儂らも思っておる。それに主が道を誤りそうになれば誰かしらが動くじゃろうて……主の道を飾るために、儂らは己が望む最善の力を手に入れられるよう尽くすのじゃよ」
「五右衛門は特に強さに拘っているような気がするけどな」
「強さだけではないぞ……あらゆる全てが欲しくて仕方なくてのぉ、これでも『
「……みんな性格にも『大罪』が反映されてるからな……俺としては分かりやすくて助かるからいいんだが」
「主の一部として『大罪』を受け取らせてもらっておるからの……各『大罪』はそれぞれ、1番誇りにしておる部分でもあるんじゃ……唯一無二のものじゃからな」
「そう想ってくれるのは嬉しいな……その想いに恥じないような王でいられるように気合を入れ直さないとな」
「はっはっは……主は主らしくあればええ、儂らの想いの汲んでくれるのは嬉しいもんじゃが、想いに捕らわれることは決して良いことばかりではないからの……もちろん『王虎』のこともじゃ」
……そうきたか。
虚を突かれたと同時に、少し申し訳なさが湧き出てくる。
そんな風に思わせてしまっていただなんて考えていなかった。ミルドレッドとのことをそんな風に捉えられているなんて……驚きだ。
「そんな……悪い方向に見えていたか?」
「今は悪い方向には見えとらん……じゃが今後、主自身の決めたことを『王虎』の名を使って正当性を築こうとするときがくるやもしれんと思ってな。『王虎』のことを想う心を忘れてはなんが、主の道は主が真に決めることじゃ、誰かの名を命綱のように使うことは……捕らわれるのと同じじゃと思うての」
「………なかなか難しい問題だな」
「主は素直じゃからな……ふむ……復讐を頭の片隅に入れるのも結構じゃが、それを『王虎』のためではなく、主自身が真に決めたこととして定めて欲しい……簡単に言えばそんな感じかの。勇者に『王虎』が狙い目だと教えておった魔王を許すつもりじゃないんじゃろ?」
「あぁ……なるほど……想いに捕らわれないか………さすが五右衛門だ。こういう話はポラールやイデアとはしないからな」
「儂が話さんでも……デザイアが来たかもしれんがのぉ……まぁ美味しい役目を奪っておこうと思ったんじゃよ」
「いや……ありがたい話だったよ。また1つ、歩く道を固められたよ」
「そいつは良かったもんじゃ……そろそろあがるとしようかのぉ~」
これも経験の差であって、役割の違いなんだろうな。
五右衛門は自分が適していると判断してくれて、わざわざ話をしに来てくれた。お陰様で俺はまた1つ先に進むことができた。
俺は俺が想う道を……しっかり覚悟を決めて歩んでいこう。
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