外伝 『怠惰』は真面目?


――『罪の牢獄』 居住区 果樹園



 『海賊』との魔王戦争を終え、喧嘩を売ってきた連中も撃破し終えて、1日ゆっくりと休もうかと思ったある日。

 朝目を覚ますと気付けば果樹園にある、木でつくられたベッドのようなところで目覚めたので、とりあえずレーラズの仕業だと思ってレーラズが俺の起きた気配を察知してやってくるのをベッドの上で待っている状態だ。


 果樹園にいる間は、何故か身体が軽くなる感じがするし、空気が美味しいから心地良いから好きなんだが、気付けば果樹園に連れてこられているというのは嫌な予感しかしない。



「おはようございます♪」


「あぁ…おはようレーラズ」



 伸び動く木の根に座りながら、ゆったりと近づいてくるレーラズ。

 その日によって頭の花飾りが違うので、どんなのか確認するのかが地味に毎日の楽しみの1つでもある。

 ちなみに髪の長さなんかも自在なので、色んな髪型をガラクシアに教えてもらっているようで、いつも可愛らしい。

 今日は肩口まであるふんわりボブ的なやつのようだ。



「マスターに新しくできた果物を試食してもらおうと思ったら気持ちよく寝ていたから、連れてきちゃった♪」


「説明してもらっても連れてきた意味が理解できないけど……綺麗な花をつけてるな」



 花を崩さないように、ゆっくりとレーラズの頭を撫でながら花を観察する。

 鮮やかな白、そして星を思わせるような花姿をしていて、とっても可愛らしい。

 撫でられながら嬉しそうにしてくれているレーラズが花飾りから一輪とって俺に渡してくれる。



「「彗星蘭」って言うんだ。マスターにも1つプレゼント♪」


「ありがとう……部屋に飾っておこうかな?」


「じゃ~私が後で準備して持って行こうか?」


「わざわざありがとな」


「枯れちゃうと可哀想だからね♪ じゃ~一旦預かるよ」



 彗星蘭……かなり可愛い花姿からは想像できないようなカッコいい名前だ。

 俺の部屋は特に何もないので、1つくらい花があれば少しは華やかな感じになるかもしれないな。

 ニコニコしながら、俺に試食してほしいと言っていた果物を準備している『怠惰スロース』を司るレーラズだが、果樹園のことはとっても真面目にやってくれているので本当に助かっている。


 今でもアークNo1の利益と知名度を誇ってくれているレーラズの手がかかった果物たち、一部人間界には出せないモノがあるが、ダンジョンにいる魔物たちにとって最強の回復薬になっているので、全ての面で大助かりだ。



「なんか燃えかかっているスイカみたいなのがあるんだが……」


「これは食べたら内側から燃えちゃうから危ないよ~♪」


「最早兵器だな……」


「これだけは少し遊んでみたんだ。他の3つはアークでも出せるようなモノばっかりだよー♪」


「さすがレーラズ」


「働いた分の報酬はたくさん期待してるね~」



 ちゃっかりものではあるが、それだけ働いてもらっているので、しっかりとレーラズの望みを叶えてあげないといけないな。

 試食では梨に近しい果物を3つ食べさせてもらって、俺なりに人間に受けの良さそうな味を選ばせてもらったり、率直な感想を言わせてもらった。

 

 何度も試食はさせてもらっているが、人間界の受ける味というものが俺の味覚とそれなりに近いようで、レーラズが良いと思ったものを俺が試食してアークに流通させるかどうか判断させてもらっているのだ。


 

「今日のお仕事おしまーい! 一緒にのんびりしようマスター♪」


「まだ朝だぞ?」


「今日は1日ゆっくりする予定だったんでしょ?」


「ウチの魔物たちは全員俺の心の内を知りすぎじゃないか?」


「メルちゃんと阿修羅がいるのに、隠そうだなんて思っても無い癖に~」


「まぁ……別に知られたところで困ることも無いからな」


「そういう姿勢がマスターに着いて行きたくなるところだね♪」



 レーラズと他愛のない話をのんびりと続ける。

 試食したから朝ご飯はいらないし、明るくて空気が美味しい果樹園に1日いるのも今日はいいかもしれないと思い始めてきた。

 さすがにコアルームには少し出向くが、今日はレーラズが創り出した『ミーミル泉』の水でも飲みながら、レーラズとお話しする1日にしてみるか。



「今日1日はここでゆっくりするか…」


「わーい♪ とりあえずゴロゴロしよ!」



 つい先ほどまで寝ていた気もするが、レーラズの勢いに特に逆らうこと無く、数分前までお世話になっていたベッドに再び横になる。

 レーラズも横に入ってきたので、とりあえず愛でながらレーラズと話を続ける。


 ゆったりとした感じで話をする中で、レーラズはまだ会ったことがない、最古の魔王様たちの話になる。



「マスターは素直だよね♪ すっごいお偉いさんたちの話もすんなりと信じるんだもん」


「クラウスさんたちの話か? ん~…俺に嘘つくとも思えないしな」


「ここに来たことがある『七元徳』と『神狐』は信用してもいいかもしれないけど、マスターにたくさん教えた『皇龍』って魔王は信用しなくてもいいと思うけどな~」


「そんなに信用しているように思うか?」


「だって私たちと同じEXが他に少なかったり、あんまり話さないように言われたのをしっかりと守っているでしょ~?」


「話さないようにしているのは、裏切って襲われても今は困るからな……」


「そっちはそうかもしれないけど、私たちと同じEXランクが少ないって話は、ある程度信じて動いてるでしょ~?」



 レーラズが腕枕してあげている中でゴロゴロ動きながら話をしてくれる。

 レーラズに言われているほど信じ切っているわけでもないけど、ある程度はクラウスさんに言われたことが真実だと思って動いているところもあるから、考え直してみるのもいいかもしれないな。



「俺に嘘ついて何になるんだか……」


「嘘ついた本人が得になる何かのためしかないよね♪ とんでもない新人魔王が出てきて、それを信じさせて身内に入れれば使いやすいもん」


「随分ストレートなことを言うな……間違っては無いかもしれないが……」


「なんか魔王さんには2種類のタイプがいるって話なかったっけ~?」


「あぁ……なんて呼ばれているかは忘れたが、魔王本体が飛び抜けて強いのと配下の魔物に力を注いで強くする2種類の話か?」



 なんか呼び名があった気がするが、魔王の力はその2種類に分類されて尖って行くと聞いたことがある。

 完全に俺は配下の魔物が強すぎるタイプで、魔王である俺が残念になるほどに弱いタイプでもある。なんか言っていて悲しいが、Cランクの魔物と複数体遭遇したら逃げるのが最善手レベルの実力なのは仕方がない。


 クラウスさんたち最古の魔王様たちは配下が強いタイプの魔王で、自身の強さは尖っていないという話だった気がする。

 魔王本体がぶっ飛んで強い魔王も呼び名があった気がするが、俺とは縁が遠そうなので覚えていない。



「マスターが目指すべき方面のお偉いさんの言うことだから自然と本当のことだと思い込んでるんじゃない?」


「……それは言えるかもしれないな」


「魔王なんて聞いてる限り、同盟ってのを本当に結ばない限り、みんな敵で嘘つきって思ったほうがいいと思うけどな~♪」


「みんな敵ってのはそうかもしれないな……魔王なんてたくさんいらないって思っているし」


「マスターに嘘ついて、実は私たちみたいな配下がたくさんいるかもしれないから、戦っちゃえなんて言わないけど、そう思って警戒したほうがいいんじゃないかな?」


「……おっしゃる通りかもしれんな……俺と同じようなことを言われている魔王だらけなら、EXの存在はEXランクの配下がいる魔王にしか知り得ないからな」


「そーそー♪ だからってビビっちゃダメだけど、ハクちゃんみたいな規格外以外は相手も同戦力がいるかもって考えたほうが今後のためかもね♪」



 レーラズは今回の『海賊』との魔王戦争だったり、ダンジョン闇討ち作戦のことを言っているんだろう。

 そして今後、ルーキー期間が終われば、どんな魔王に挑まれるか分からないからこそ、こうして助言をくれているんだろうな。

 まったく『怠惰スロース』らしくないかもしれないが、自分の好きな環境を守ることだけに全力を注ぐレーラズらしくもある。



「とっても真面目な話になっちゃったね♪ 違う話しよ~」


「やっぱ最高だよ……ありがとうレーラズ」


「えっへん♪」



 たまに真面目な話を挟みながら、レーラズとのまったりとした1日を大半の時間をベッドでゴロゴロしながら過ごすことになったが、色々考えさせられる良い時間になった。


 こうして対話する時間も大事だと…改めて感じさせられた1日になった。

 

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