第19話 『最狂』の大罪
――『異教悪魔』軍 ダンジョン入口
――コツッ コツッ コツッ
「本当に綺麗なまま着いちゃった」
イデアが造ってくれた白銀の橋を渡り終え、デザイアが制圧しているダンジョン前まで辿り着いたハク。
デザイアの生み出した触手の内1本がハクに襲い掛かる。敵味方関係なしに引きずり込もうとする『
橋を渡り終え、触手が襲ってきたのもあり、ハクは抑えていた能力を解放する。
――ゴウッ!! ドジャァァァァンッ!
抑えていたハクの能力や闘気が勢いよく放出される。
各地を埋め尽くしていた『
味方の能力が消えていくのを気にすることもなく、ハクはダンジョンへと足を踏み入れる。
――ミシミシッ! ぺキぺキッ!
「……さすがにいないか」
入り口を進むと正面に見えるのは巨大な城、人間界にある王城なんかと似たような形式をしており、かなりの大きさあるが、ハクが放つ圧倒的な闘気と邪気の影響を受け、少しずつ城全体が軋み、崩壊を始めようとしていた。
入ってすぐに魔王含めて全員いてくれればまとめて片付けられるので楽だと考えていたハクだったが、さすがに自分に都合の良いようにはいかずに軽くため息をつく。
――バァンッ! ブチュッ!
入り口を制圧していたデザイアの力がなくなったのを確認したのか、城から大量の魔物たちが飛び出してくるが、城を出た瞬間にハクの能力と存在圧に耐え切れず、その場で破裂したり、ペシャンコに潰れる魔物たち。
そんなものには目もくれず、ハクはゆっくりと歩を進めていく。
「城ごと消したほうが速いかな?」
ダンジョンをそのまま進もうと思っていないハクは、とりあえず斬ってみようかと刀を握る。
すると城から、アヴァロンよりは小さいが、凄まじい魔力を纏う、大剣を持った鷲型の魔物が城の上空からバサッバサッと音を立てながらハクに向かってやってくる。
『水鷲の魔王』最強の魔物。
『魔剣』の力も持っており、剣技と水系統の力を自在に操るSSランクの巨大鷲型魔物である『水天皇鷲』のテーグスが城への侵入を防ごうと上空より飛びかかる。
「ここかッ!?」
「……」
――ドシャッ!
ここから先へは進ませない。
そんな言葉を発することすらできず、そしてハクに視線を向けられることもないまま、テーグスは綺麗に一刀両断され、斬られたことをしっかり理解する前に地面へと落下する。
ハクとしては道案内でもしてくれると思って少しだけ期待したが、すぐにそんな感じじゃないことを悟って耳が痛くなる前に真っ二つにしただけなのだ。
「僕がお願いされたのは……魔王とEXだけ、他はいらないんだ」
ハクは少しだけ腰を落として抜刀の構えをとる。
闘気と邪気を少しだけ集中して、城に向かって力を放つ。
「『
――チャキンッ!
ハクはいつの間にか抜いていたのであろう刀を鞘に納める。
いつ抜かれたかなぞ誰にも認識できず、ハクだけが理解できる領域速度で振られた刀は3度。
ハクの圧倒的なステータス、『
◇
「な、何が起って……いるのですか?」
「バフォメット様……」
『異教悪魔の魔王バフォメット』は地下にあるコアルームで城が音も無く突然のように消滅していく様子をモニターを使って眺めていた。
戦争開始から、この瞬間まで……全て予想外の連続であったバフォメットを、さらに驚愕させたハクの『
城に控えていた同盟魔王たちから連絡がまったくなく、1番頼りにしていたパズズからも連絡が途絶えたという現実が……バフォメットの精神を壊していく。
「あ…ありえない……あんな化け物ども……同じEXランクなわけがない……ふ、ふざけるなァ!!」
「バフォメット様……」
怒り狂うバフォメットのすぐ後ろに控えるのは、『異教悪魔』が誇るEXランクの魔物である『アパオシャ』のアルトネス。
バフォメットに外見が少しだけ似ており、バフォメットが黒山羊であるのに対してアルトネスは黒馬をモチーフにした外見を持つ二足歩行の魔物なのだ。
本来であれば恐ろしいほどの能力を多く有しているのだが、ハクの力により、現在は全ての能力が使用不可であり、Lvは1、そしてステータスは見るも無残なGランクのゴブリン以下という絶望的な状態になってしまっている。
――コツッ! コツッ!
「く、くそォ!! この役立たずめが! どうにかしてあのウサギを始末してくるのだ!」
「バ、バフォメット様………落ち着いてくださいませ…」
気付けば地下への階段を発見され、近づいてくる足音がバフォメットに聞こえてくる。
無理難題。絶対不可能な指示をアルトネスに出しながら狂乱するバフォメット。そんな指示を受けたアルトネスは振り向いて、自分たちを感情のこもっていない表情で見ているハクに対して言葉を投げる。
バフォメットからすれば、戦争開始から理解出来ないことの連続であった。
もちろん……ソウイチのところにEXランクがいるのは把握済みであったが、バフォメットが知るEXランクであるアルトネスとはかけ離れた能力を見せつけられていた。
「EXランクでも……これほど差があるとは……どういうことなのだ? 私は選ばれた魔王なはず、こんなところで若僧に……こんな見世物のような展開で負けるはずなんて!」
半ば諦めたような表情でバフォメットが呟く。
自慢のアルトネスから、他のEXランクの魔物はSSランク5体分くらいの能力計算だと過信していたことがそもそもの敗因であり、ソウイチにまさかあれほどの化け物たちが揃っていることが調査できなかった時点で……この戦争の結果は見えてしまっていたと今になって悟るバフォメット。
「僕……自分語りしろだなんて言ってないんだけど?」
バフォメットが使えるはずだった『異教悪魔』としての洗脳力すら使用できない、まさしく手も足も出ない状況。
ハクはソウイチに頼まれていたもう1つの頼みごとを思い出す。
『異教悪魔』とEXランクの身体の一部を持ってきて欲しいというハチャメチャな願いをハクはされているのだ。理由は簡単で、メルに身体を取り込んで記憶をいただいておこうという流れなのだ。
ソウイチもバフォメットに会って話をしようかと思ったが、そんなリスクを冒すような真似をするくらいなら、ソウイチ個人の感情は抑えて、肝心の記憶だけ頂戴すれば色々と解決するということなのだ。
ミルドレッドを狙った理由や、他に誰と繋がっているのか、そしてEXの秘密について知るために…。
「右手でいっか……」
――ズシャッ!
2体から確保する身体の部位を決める。
バフォメットの前に壁として立ちはだかろうとアルトネスが動いた瞬間、本人も気付かぬ間に右手以外は細切れにされていた。
時間が経過すると光の粒となって消えてしまうことを知っているハクは、少しだけ急ごうとバフォメットに目をむける。
「わた……私はッ!?」
――ドシャッ!!
「ウロボロスに渡しに行かないと……たくさん褒めて貰える♪」
最期の言葉すらまともに残させず、ハクはバフォメットと後ろにあったコアを真っ二つにし、右手を切り取って地下室を後にしようと右手を回収する。
なんとも呆気なく、そして誰も予想しえないほどに速く。ルーキー期間明けのソウイチと上級魔王と呼ばれているバフォメットの魔王戦争は幕を閉じるのであった。
この戦争を機に……多くの魔王がEXランクの魔物が正式に存在していることを知る。
魔王界に歴史上トップと言っても過言ではないほどの衝撃を与えた一戦は……これから始まる激震の物語の序章にすぎないのであった。
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