第18話 イライラブツブツ『独り言』


――シバルバー 北地区



 ソウイチがパズズに遭遇した頃。

 シバルバー北地域へとやってきたイデアは、次々とダンジョン入口から溢れるように増えていく『異教悪魔』や相手同盟魔王の魔物たちを見て、苦笑いを浮かべていた。


 イデアは創り出した偽ドラゴンに乗りながら自分が成さねばならない目的を改めて考える。

 イデアの目的は『異教悪魔』への道を綺麗に整えることであり、溢れ出てくる魔物たちの相手をすることがメインではないのだ。


 魔物の相手をするのは北地域を担当するもう一人の相棒に任せようと、イデアは虚空に向かって声をかける。



「デザイア! そろそろ頼むよ! 空も魔物で溢れそう!」


「面倒じゃのぉ~」



――パキパキパキッ!



 イデアの視線の先にある空間に大きな裂け目が出現する。

 気だるげな声をあげながらデザイアがニャルラトホテプとともに半分だけ姿を現す。

 

 北地域は『異教悪魔』ダンジョン入口地域なだけあって、魔物の数がとにかく多く、SSランクもそれなりに出てくることをソウイチが考えた結果、とにかく敵にやりたいことをやらせないことに定評があり、強さも『罪の牢獄』トップクラスであるイデアとデザイアが選ばれたのである。



「ハク単騎で進ませれば良かったじゃろう~に」


「普段は昼寝している時間らしいから休憩してから来るんだってさ。それと汚い道を歩きたくないから綺麗にしておいてほしいって」


「我儘なウサギじゃのぉ~、とっとと綺麗にして叩き起こすのじゃ」


「私は綺麗に渡れるように橋でも創ってるから、魔物はよろしく」


「本当に我儘な連中しかおらんのぉ……『這い寄る渾沌、ケイオス・ネイションそれは貴方の傍にいる・ジ・ヴォルテクス』じゃ、ほれ!」



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 デザイアが嘆くようにスキル名を発すると、北地区の至るところから巨大な黒い渦が大量発生していき、中から大量の触手が出現し、手当たり次第に魔物を引きずり込んでいく。

 『海賊』との魔王戦争でも使用した広範囲の一斉除去スキル、しかも長時間持続し続けるという極悪性能。

 敵味方関係ないので、危険な技ではあるが、さすがにイデアがかかるわけないと信じてデザイアは使用したのである。



「それにしても……主が思っとるほど噛み応えのない連中じゃのぉ」



 デザイアは異空間から戦争の流れを覗いていたので、各地の動きだったり、ソウイチが戦っているパズズのことも把握している。

 確かにパズズはフェンリルでは相性的に少し厳しいとデザイアも感じたが、『枢要悪の祭典クライム・アルマ』であれば難なく倒せる程度の相手だとデザイアは感じていた。


 今戦っている『異教悪魔』も上級悪魔の中ではトップクラスの実力者ではないとソウイチの調査結果としてでていたが、デザイアの中では上級魔王と呼ぶことすら相応しくないような存在だと感じている。



「若い頃だけ戦いに力を注ぎ……力を持つようになれば、それをチラつかせて脅すだけするようになったせいで……しょーもない戦い方しかできんくなっとるのじゃ」



 『異教悪魔』たちが今現在行っているのは『風蝗悪魔』を奇襲させるという策以外は数での力押しのみ。

 ソウイチの下で何通りものプランを考えてきたデザイアたちからすれば、なんとも味気ない魔王戦争になってしまっているのである。



「戦わずして勝つ方法を実行し続けるのは凄いもんじゃが……戦争の仕方を忘れてしまうのは致命的じゃのぉ~。ウチの主は軍議遊びみたいなもんを頻繁にやって頑張っておると言うのに……下手じゃけども」



 次々と渾沌の闇へと引きずり込まれていく敵軍の魔物たちを眺めながら、『異教悪魔』のダンジョンを観察するデザイア。

 入り口付近に出現させた大量の触手に為す術も無く捕まっていく様子を眺めながら、どんな対応策をだしてくるか見ているが、一向に動きが無い。



「妾以外はイデアの力で時空間系統の力は作動せんからのぉ~、今頃困っておるやもしれん」



 イデアが持つ『唯一不動な本質的存在ヘルモス・ネメシス』の影響でシバルバー北地域、そしてダンジョン内部にまで時空間系統を封じる力が働いているのだ。

 デザイアやハク、シャンカラレベルの力を持っていないとイデアのアビリティに逆らうことはできないので、今頃大慌てになっているだろうと想像するデザイア。


 ソウイチにも通じるが、時空間系統の力を一度知ってしまうと、あまりの便利さに頼り切ってしまう節があると感じているデザイア。

 もちろんソウイチにはこうなったときの対策を考えておいた方がいいと伝えてあるので安心しているが、上級魔王とも呼ばれる存在が、たかが自分の技1つで手こずっている様子を見て、デザイアは少しだけ気が抜けてしまう。



「随分……簡単に上級魔王と呼ばれることができる世界じゃのぉ~、こんなものなら……明日にでも主が上級魔王と呼ばれても可笑しくないのじゃ」



 働かされているイライラからか、ブツブツと独り言を言いながらも、『這い寄る渾沌、ケイオス・ネイションそれは貴方の傍にいる・ジ・ヴォルテクス』で発生する黒い渦を増やし続けているデザイア。

 『異教悪魔』軍はまったくといっていいほど抵抗できずにやられていく。


 ハクの我儘で『異教悪魔』までの道中整備をすることになったが、これも立派な作戦の1つだ。

 『罪の牢獄』にいるEXランクしか知らないソウイチからすれば、『異教悪魔』の配下にいるであろうEXランクは非常に危険だ。ならばソウイチも自信をもって送り出せるハクをぶつけたいという単純な考えだ。


 もしダンジョンからでてきたとしてデザイアとイデアの組み合わせなので、そう簡単に負けることは無いという信頼も含めた作戦なのだ。



「まぁ……ハクが勝てんとなると厳しいもんじゃが…どう警戒したもんかのぉ」



 デザイアはハクが万が一負ける場合の負け筋を考える。

 ステータスがハクを上回ることは難しいとデザイアの中では考えるが、Lv1万っていう上限の概念を壊すような相手の可能性は考えられる。なんたってデザイアとハクもLv999が上限だったはずの枠を破壊した魔物だからだ。


 デザイアなりに色々考えようとしたが、面倒になり頭を回すのを止める。

 シバルバー北地域はデザイアの『這い寄る渾沌、ケイオス・ネイションそれは貴方の傍にいる・ジ・ヴォルテクス』でほとんど埋まりきり、ダンジョン入口も完全に制圧したデザイアは役目を終えたということで、残りをニャルラトホテプに任せるつもりで眠りにつこうとする。



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!



「おぉ~気合が入っとるのぉ~」



 『罪の牢獄』入り口から『異教悪魔』ダンジョン入口へと架かる巨大な白銀の橋。

 1人の魔物をスムーズに敵本拠地へと気分良く送り出すために造られたピカピカに輝く綺麗な橋をみて、少しやりすぎだと感じるデザイアだったが、これくらいしておいたほうがハクが気合入ることも計算にいれて作ったんだろうと心の中でイデアを称賛する。


 すると一仕事終えて、役目を終えたとばかりの顔をしているイデアがデザイアのもとへとやってくる。



「ハクのことを考えた素晴らしいモノじゃと思うぞ」


「今回はハクに主役を譲ってあげなきゃね」



――ゴゴゴゴゴゴッ!



 2人が話をしていると、『罪の牢獄』から1つの巨大な気配が動くのを感じる。表情を見なくともわかる喜びように2人は優しく微笑む。

 それと同時に決着するまで油断せずに、気を引き締めて警戒を怠らない。



「この段階で敵さんのエースが出てくるとも考えられるからのぉ」


「同盟魔王たちのエースも……まだいるはずじゃない?」


「うむ……お主がおれば転移はしてこれんから安心じゃな」


「さぁ……そろそろ来るから一旦離れましょ」


「能力を抑えておっても、闘気だけで身体が痛くなるからのぉ~、避難じゃ避難」



 2人の視線には1匹の可愛らしいウサギ。

 白銀の橋をヒールの音を優しく響かせながら、一本の刀を握り、完全に敵を滅殺することだけを考えているであろう澄んだ瞳をしているハクの姿があった。


 『罪の牢獄』が誇る最強の魔物が今。

 『異教悪魔』と同盟魔王たちの切り札たちが控えるダンジョンにむかって優雅に歩む。

 そこに普段見せているソウイチへの想いだったりとした戦闘への雑念は一切感じられず……ただ純粋な殺意だけをハクは纏っていた。



 『傲慢プライド』の大罪を司りし、僕ッ娘ウサ耳吸血鬼美人による……敵本陣への単騎での進撃が始まる。


 

 

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