第16話 『蠅』vs『蝗』


「きゅっきゅ~~♪」


「みんな派手にやるな~」



 俺は今、リトスと一緒にシバルバー南地区の隅の方に待機している。

 『魔王之烙印キング・スティグマ』を発動させて、リトスが召喚した『饕餮』に練習相手になってもらっている。ウロボロスにお願いして俺の時間だけ少し早めてもらって最終段階まで使えるようになっているが、今は我慢中だ。

 

 身体を動かしておくってのと目立つことで、1人の魔王を誘き出せそうな気がしたから、魔王戦争中だけどリトスに手伝ってもらっていた。


 シバルバー各区域でしっかりと仕事をしてくれているんであろう轟音や魔力の大きな揺らぎが伝わってくる。

 それと同時に俺たちに近づいてくる大量の気配を感じる。しかも下からだ。



「まさか地中を掘り進んで来るだなんて……便利な力だな」



 リトスを頭の上に乗っけて、『饕餮』に乗り込んで避難する。

 さすがにリトスも次の手を打ってくれているようで、俺たちの周囲には大量の蠅が召喚されていき、相手の魔力を吸い尽くす準備をしてくれている。


 地面を喰い破って出てきたのは大量の『蝗』と『飛蝗』

 茶色の蝗と緑色の飛蝗の2種類が地面から湧き出てくる。かなりエグイ光景ではあるが、怯んでいる場合ではないので『饕餮』に指示して距離をとってもらう。



――ブチブチブチブチッ!



 蝗の群れと蠅の群れがぶつかり合い、互いを貪り始める。

 体の大きさは蝗たちの方が上だが、数と速さでは蠅のほうが上に見える。あまりにも互いの数が多すぎて、巨大なドームを渦巻いているようにしか見えない。

 互いに死骸すら残していない様子を見ると、身体ごと全部喰い尽くす戦いをしているようだ。


 その虫たちのドームの中からとんでもない気配を1つ感じた。



「『侵略する蝗熱風カラミティ―・アクリダ』」


「きゅっ~~♪」



――ブワァァッ!!



 虫たちのドームを赤色の熱風が薙ぎ払う。蠅たちがウロボロスの毒に侵食された魔物みたいに溶けていく。

 なんとかリトスが結界を張ってくれたおかげで俺は難を逃れることができた。


 崩れたドームの中から、大量の蝗と飛蝗たちとともに姿を見せたのは、3mほどの獅子の頭に4枚の鳥の翼、蠍の尾っていう忙しい外見をした魔王だった。

 その名は『風蝗悪魔の魔王パズズ』。俺と同じ『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号を得ている大魔王ともいえるような存在の1体。


 もちろん『異教悪魔』と同盟を組んでいるのはしっかりと調査していたのもあり、『魔王八獄傑パンデモニウム』になったばかりの新人を潰しにくるのも予想で来ていたので釣りだし作戦は成功ということだ。



「貴様が『大罪』……配下の魔物は確かに強力だが……何故その程度の力で『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号を得ている?」


「それは『原初』様が決めることで、俺が決めることじゃない」


「きゅっ~~♪」



 リトスの掛け声で大量の蠅が出現し、大量に集まって何体もの小っちゃなアヴァロンみたいに形どりだす。

 『群がり啜るモスカ・蠅騎士団リッターオルデン』という『暴食グラトニー』の技の1つだ。

 1体1体がそれなりに頑丈であり、どこかに触れれば蠅たちが接触部から魔力を吸い尽くすという質の悪いタンク役だ。


 大量の『群がり啜るモスカ・蠅騎士団リッターオルデン』が俺たちの前に立ってくれる。



「話に聞いた通り……配下の魔物は、さすがの力に見えるが……この程度とは笑わせてくれるッ!」


(まだ始まったばかりで、この程度って……自分の力高く見積もりすぎだろ)



――ブワッ!!



 パズズから溢れ出る荒々しい闘気と、闘気と魔力から生み出される2種の虫たち。

 あの2種の虫は先ほど見た感じだと魔力を喰らうのではなく、そのまま物体を食い散らかすタイプのようだ。それと調べたところ噛んだ相手にデバフを付与する毒をもっているようなので気を付けなければいけない。

 リトスは魔力は吸えるけど闘気は吸えないから、2種の虫をまとめて倒すことができないのは厳しいが、『暴食グラトニー』の力はただ魔力を喰らうだけじゃない。


 大量の飛蝗や蝗、そして蠅たちが再度ぶつかり合う。



――ドガァンッ! ドゴォンッ!



 互いの虫たちがぶつかり合った瞬間に小爆発を起こしあっている。リトスもパズズも同じような技を使い合っているようだな。

 リトスが蠅を爆発させているのは『無差別に降り注ぐフライ・フライ・空腹蠅コメット』という技で魔力を吸った分だけ威力があがるものだが、似たような技を使ってくる感じ、互いに様子見って感じだな。



「きゅっきゅ~~♪」


「俺があの中つっこんだら木端微塵になりそうだから勘弁してくれ」



 リトスが面白がって虫たちが爆散しているのを指さして笑っているが、いくら時間が経過して『魔神之烙印サタン・スティグマ』になったとはいえ、さすがにリトスの技に巻き込まれたら俺も蠅たちと一緒に爆散してしまいそうなので、とりあえず全力で『饕餮』から落ちないようにしなければ…。


 『風蝗悪魔』という魔名についてはしっかりと調べたつもりだ。

 さすが『魔王八獄傑パンデモニウム』なだけあって情報収集はそこまで困らなかった。

 遠距離攻撃型で耐久力のある『蝗』と機動力のある『飛蝗』の2種を魔力と闘気が尽きぬ限り生み出し続けることができるという力。

 とりあえずなんでも食べるらしいので、何かをぶつけて進行を防ぐか、燃やし尽くすのが効果的だそうだ。

 本体のバズズは大量のデバフを付与できる病原菌を乗せた風を操ることができるという厄介な能力まで持っている。



――ドゴォォォォンッ! ドギャァァンッ!



「……これでは埒があかんな」


「きゅっ♪」



 パズズが2種の虫を生み出しながらも魔力を集中させる。

 そういえば『風魔導』を使用できるっていう情報があったな。だがそんな魔力の集中をウチのリトス様が見逃すはずがなかろう!



――シュウィンッ



「むっ!?」


「きゅっきゅっきゅ♪」



 蠅に触れていなくても、ある程度の距離であれば魔力を吸える『啜る大喰らいグラトニーストロー』によってパズズの『風魔導』に使用するはずであった魔力を吸収できたようで、リトスが拳骨サイズのエメラルドを創り出す。

 俺の頭にコツコツさせながら遊んでいるのは戦闘中だから許してやるとして、パズズとリトスの相性は悪くないように感じるが、虫を生み出す速度はパズズの方が早いように感じるので、あんまり長期戦にしないほうがいいだろう。


 俺は頭の上で遊んでいるリトスを撫でながらお願いをする。



「気が乗らんかもしれんが『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』呼んでくれ」


「きゅっきゅ~♪」



 大きな宝石を創ることができてご機嫌だったのか、召喚魔術の準備をしてくれる。

 少しだけ時間を稼げば大丈夫そうだな。さすがに『群がり啜るモスカ・蠅騎士団リッターオルデン』の壁があるから大丈夫なはず!


 しかし、パズズの身体からは怒りを思わせる闘気が溢れ出ている。



「魔物に任せて高みの見物とは……随分なものだなッ!」


「戦いの流儀なんて魔王それぞれだろ? 『魔王八獄傑パンデモニウム』だからって戦い方を他者に押し付けるのは間違いだな」


「『嘆く病の灼熱旋風ディザスター・アクリダ』!!」



――ゴォォォォォッ!!



「うおっ!?」



 パズズの全身から全方向に虫たちと同時に赤い風が噴き出た瞬間、『饕餮』が勢いよく真後ろに大ジャンプしたので、驚いて情けない声が出てしまった。

 

 先ほどまでいたところを見てみると、大丈夫と思っていた『群がり啜るモスカ・蠅騎士団リッターオルデン』たちはパズズの技で溶けてしまっていた。

 

 噂には聞いていたが、数分で街1つを壊滅させることもできる熱風を起こせるだなんて聞いていたけど、あれがそうなのかもしれない。



「リトスさん……まだかかるよな?」


「きゅっきゅ~♪」


「仕方ない……1撃かましてやるか」



 大量の蝗と飛蝗を引き連れて、優雅に近づいてくるパズズ。

 さすがにEXランクの魔名ってのは伊達じゃないな。リトスに少し時間のかかる技を使って貰ったのは失敗だったかもしれないが、ここは俺の技を試すチャンスでもあるな。試すにしては相手がヤバいけど…。



「ようやく戦う気になったか?」


「俺は最初っから戦っていたつもりだったけどな。『魔王八獄傑パンデモニウム』の連中は魔王同士で戦わないと価値を見出せない病気にでもなってるのか?」


「ルーキー如きに煽られるのは癪だが……あながち間違いでもないかもしれんな」



――ブブブブブブブブッ!!



 大量の虫たちが迫ってくる。

 さすがに直撃なんて受けたら3秒くらいで全身食べられちゃいそうなので、ウロボロスにお願いして使えるようになった力を試すときだな。


 右手に魔力を集中させる。

 ただでさえ俺の魔力は少ないから発動できる回数が少ないので慎重に行かなくちゃいけない。


 上半身の至る所に赤黒い刻印が刻まれていくのを感じる。けっこう痛いのが難点だな。



「『原罪之アマルティア・烙印アドヴェント』……『回帰之大罪ヨルムンガンドッ』!!」



 俺は虫たちに向けて『回帰之大罪ヨルムンガンド』の魔力を放つ。『回帰ルブニール』の技を強化した力を見せてやらないとな!


 一発かましたら気合で逃げるけどな!



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