第15話 神と骸骨の『宴』


 当初はシンラが行うはずだった遊撃部隊の1人として選ばれたウロボロスにはソウイチから重要な役割が課されていた。


 ソウイチが魔王戦争で一番厄介だと感じている時空間魔法を使用しての奇襲をしてくるであろう魔物対策。


 敵軍の奇襲部隊をできるだけ一ヵ所に集めて一網打尽としやすいようにすること。ウロボロスの力で時空間魔法で転移できるルートを強制させて、シバルバー南地区を守る2人に討ち取らせること。


 そして今、ウロボロスが眺めるのは見事に罠にかかって転移してくる大量の魔物たち。

 二足歩行でムキムキの梟悪魔たちが一斉に転移してくる。


 そんな悪魔たちを迎え撃つかのように陣取っている大量のスケルトン、そして『黙示録の獣』の上で優雅に黄金の杯に湧き出続ける血を飲むバビロンの姿がそこにはあった。



「王曰く…飛んで火にいる夏の虫作戦は上手く行っておるようだ! さぁ! お主らの前に立ちはだかるは我が無敵のスケルトン軍団なり! 死力を尽くした死闘を期待しておるぞ!」


「僕は遠くで見守ることにするよ」



 バビロンが本格的に戦闘を始める前に、もう一人の南側担当であるシャンカラは距離をとるように跳びはねて離れていく。

 シャンカラが距離をとったのをしっかり確認してからバビロンは自身の力を展開させる。



「蹂躙せよッ!」



 世界は『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』へと景色を変える。


 結界が張られたのと同時に強化スケルトンの大群が、バビロンの号令と同時に転移してきた梟型の悪魔「アンドラス」たちに突撃していく。

 


「スケルトン如きに何ができると言うのだァ!」



――バゴォォォンッ!



 『異教悪魔』が誇るSSランクの魔物であるアンドラス。

 時空間魔法と武技を得意としたステータスがとても高い魔物だ。数は30体程しかいないが、強化スケルトンの大群を自慢のパワーで薙ぎ倒していく。

 2m超ある大きさの身体から放たれる豪快な攻撃は強化スケルトンたちをいとも簡単に砕いていく。


 薙ぎ倒しても赤黒いオーラを纏ったスケルトンの大群はどんどん押し寄せてくる。

 1分ほどの乱闘の末に一体のアンドラスがついに異変に気付く。



「こいつら復活しているぞォ!?」


「我が無敵のスケルトン軍団と言ったであろう。滅びぬことこそ無敵……主曰く、最後に立ってた奴が一番強いと言うことであるッ!!」


「スケルトン如き! 何度蘇ろうと変わらぬ!」


「スケルトン如きと思うような頭をしておるから、こんな無策で突っ込んできて痛い目を見るのだ!」



――ゴウゥッ!



 バビロンは『黙示録の獣』と合わせて全身から『虚飾ヴァニタス』の力を放出する。

 『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』の影響も相まって濃密な赤黒い魔力が周囲を包み込む。


 

「我が力の前に平伏すがよいッ!」


「ただの魔力ではないか! こんなものがなんになるッ!」



 強化スケルトンを殴り砕きながら先頭のアンドラスが叫ぶ。

 先頭で勇敢にスケルトンを迎え撃つアンドラスには効かなかったようだが、後方にいるアンドラスの動きが鈍っているのを見て、バビロンは気分を良くする。


 その隙を的確に突くように強化スケルトンたちが動きの鈍ったアンドラスに殺到する。


 

「アァァァァァ……!」


「な、何が起こっている!?」



 動きの鈍っていたアンドラスが敵が目の前にいる状況なのに膝を折って倒れ込んでしまう。

 そうなればスケルトンたちはもちろん覆いかぶさり滅多打ちにするのだが、『虚飾ヴァニタス』の影響を多大に受けて心をへし折られたアンドラスは抵抗することもなくスケルトンたちに飲み込まれていく。


 そして1体崩れれば『虚飾ヴァニタス』の影響は自然と広がって行く。バビロンの力に『恐怖』してしまう心をバビロンは決して逃がさない。

 偉大なる骸骨の神に恐れをなす者、神の威光に怯みし者をバビロンは確実に葬るようにスケルトンたちに指示を出す。


 1体……また1体と次々にアンドラスたちがスケルトンの勢いに飲み込まれて滅多打ちにされていく。

 負の連鎖は止めることなく次々とアンドラスたちはスケルトンに飲み滅ぼされて、ついに半数にまで減ってしまう。



「何故だ……我らの時空間魔法は何故使えぬ」


「我の支配下で貴様らに都合の良いことがおこるわけ無かろうて!」



 高らかに笑うが、アンドラスたちからすれば理解出来ない状況だろう。

 得意とする時空間魔法での脱出やバビロンへの奇襲を各々が企むが、誰も時空間魔法を発動することができずスケルトン如きに苦戦している現状が…。


 これもバビロンが誇る能力が1つ。

 『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』の力である。アンドラスたちが持つ時空間魔法のスキルは役に立たない何かのスキルに塗り替えられてしまい、その他にも有用なスキルは全て何かしらに塗り替えられてしまっている。


 今のアンドラスはただのステータスが高いだけの魔物になってしまっているのだ。



「スケルトンだからと侮るからこうなるのだ。戦力の半分以上を我らの元へ転移させるくらいの奇襲をせぬから痛い目を見るのだ」


「我らがスケルトン如きに何故だァァァァ!?」


「くだらん傲りよな。我らが王を見習うが良い、如何なる敵を前にしても頭を悩ませることができる才を持っておられる。如何に確実に勝つかを拘られておるのでな」



 突然のソウイチ自慢が入るが、バビロンは気分よくスケルトン軍団がアンドラスを撃退していくのを観戦しながら、黄金の杯に湧き出ている血を楽しむ。

 

 最弱と馬鹿にされるスケルトンがSSランクの大悪魔であるアンドラスを蹂躙しているという高揚感。

 自身もスケルトン時代を過ごし、最弱の存在ながら多くの仕事を任され、見放すことなくスケルトンを愛し続けてくれたソウイチの役に立つためにも、初の魔王戦争に挑むバビロンは、自身に課された指示をクリアできそうな状況に大満足である。


 

――ゴォォォォォォッ!



 バビロンはシバルバー南地区に感じる2つの巨大な気配を感じる。それと同時に『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』を解除する。

 1つはこちらに近づいてきた『神化アヴァターラ』によって『災害ト暴嵐ノ神ルドラ』へと姿を変えたシャンカラ。


 もう一体はソウイチのほうへと近づいているようだ。ソウイチが釣りだしたい魔王がいると言っていたので、きっとその魔王だろうと感じて、頭を切り替えるバビロン。


 褐色ショタから褐色4本腕の青年へと変化したシャンカラへとバビロンは顔をむける。



「主の元に巨大な気配が迫っている! さっさと片付けて様子を見に行くとするぞ!」


「任せるとしよう」



 『神化アヴァターラ』したことで性格も変化しているシャンカラの言葉を聞いて、スケルトンの軍勢をアンドラスから急いで離れさせる。

 そんなことはおかまいなしに『災害ト暴嵐ノ神ルドラ』は三叉の槍を矢のように弓に構えて、魔力と闘気をこめてアンドラスたちにむけて放つ。



「消し飛べ! 『叫べ、暴虐の風神槍トリプルドラス』!』



――ズシャァァァァンッ!!



 地面を抉りながら暴風の力を纏う三叉槍がアンドラスに襲い掛かる。

 あまりの速度に叫ぶ間もなくアンドラスの身体はバラバラに斬り刻まれて消し飛んでいく。

 

 『叫べ、暴虐の風神槍トリプルドラス』の通り道には血も欠片も残ることなくアンドラスと1部のスケルトンが消えてしまった。

 

 すぐに2人はソウイチのところへと切り替える。



「我が王に気をとられてここの守りを疎かにしないようにせねばならぬな」


「この状態ならすぐにでも動ける! さぁ……観戦するとしようか!」



 ソウイチの下へと迫る巨大な気配。

 今まで相手として感じたことの無い強大な魔王の気配。ソウイチが釣りだして戦いたいという相手を2人も聞いていたので、その魔王であろうと予想する。


 しかし2人が不安に思うのは、迫っている気配がソウイチの何倍も強い気配ということだ。

 いくつかの能力を得たとしてもSランクの魔物程度の力しかないソウイチが何故前線で戦いたいかは不明だ。

 しかし自分たちの主が言い出したことであるし、傍にリトスがいるので止めなかったが、結局心配になって自然とソウイチの下へと2人は急いでいた。


 

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