第14話 全ての『希望』は憤怒に飲まれる
――シバルバー 中央区域
「ご主人様の想像以上の数ですね。シンラ……貴方は東西の敵を少し中央に寄るように誘導させてください」
シバルバー中央区域を任せれたのはポラールとシンラの2人。
ポラールはガラクシアと同時に極闇魔導『
シバルバー北区域を担当する者たちを少しでも楽にするため、そして内に燃え滾る強大な『怒り』を放出するために、ペアを組んでいるシンラに敵の誘導をお願いしているところだ。
「ご主人様は……怒りを内に留めることを心掛けていらっしゃいましたが……私には出来そうにありません。『
自らに誓約をたてるようにポラールは1人呟く。
眼前には大量の魔物がシンラの誘導もあってか、この中央区域に凄まじい勢いで迫ってきている。
悪魔や堕天使、自分と近しい種族の群れを見て、少しだけ憐れみを抱いたポラールだったが、すぐに切り替えてソウイチが常日頃から「最強」と口にしてくれている、ポラール自身でも信頼を置いている能力を展開する。
「『
――ゴウゥッ!!
ポラールが展開する羽の枚数が増え、頭には地獄の主を象徴する輪が出現し、息が苦しくなるような圧迫感を思わせる魔力と闘気を解き放っていく。
シンラには気を遣わせてしまっているだろうが、ポラールもこればかりは譲れない。
他の地区に迷惑をかけないことを念頭に置いて、自身が敬愛する王の感じていた『怒り』を少しでもポラールが解消できるように、そして『罪の牢獄』リーダーとして戦争勝利に向けて勢いをだすために……ポラールはこの世の地獄を展開する。
「浄火を以て天へと昇りなさい『
――が…ガガガ……ゴゴゴォォォォォォォッ!
「ギャァァァァッ!」
「グガァァァァァッ!」
「あぢぃぃぃぃぃぃ!」
シバルバー中央地区の大地から噴き出るは浄火の極炎の嵐。
天へと昇る勢いで噴き出る焔は中央区域全てを燃やし尽くす範囲で燃え盛っている。
本源たる焔の中で生きていられるのは、地獄の主であるポラールと神火で肉体が構成されているシンラだからこそなのだ。
「ご主人様に抗った罪を……浄火の焔で焼き尽くすのです」
次々と灰になって行く敵軍の魔物を確認しながら、自分たちと同じランクの魔物がどこかにいないか気配を探るポラールだったが、どうやら中央区域にはいないようだ。『異教悪魔』ダンジョンの入り口をアヴァロンのように守っているデカい気配があるのを感じたが、自分が戦うことはないだろうと悟り少しポラールは残念がる。
(できることなら……私が手を下したかったですが致し方ありませんね)
戦場の中心地であり、魔王戦争の要である場所を、たった一撃で制圧するポラール。
ポラールが今使用している『
『火焔天』から最終天獄に至るまでは残り10の天獄を歩まなければいけないのだが、入り口の『火焔天』で『異教悪魔』軍の魔物たちは壊滅状態になってしまっている。
「『
ポラールの問いに飛びながら頷くシンラ。
火があれば復活できるシンラだが、ポラールやイデアが放つ火という概念からかけ離れているものは少し違う。
もちろん吸収して回復ができるのだが、出力をあげられるとダメージのほうが回復速度を上回ってしまい死んでしまう可能性があるのだ。
いくら復活するとはいえ、仲間を殺してしまうのはリーダーとしておかしな話だとポラールは考えているので、『
ポラールは一旦『火焔天』を解除して最北から押し寄せる敵軍を観察する。
「南側へと時空間魔法を使って転移する魔物がいますね」
アヴァロンが守る最南の手前まで、どうにか時空間魔法を使用して転移している魔物がいることを確認したポラール。
もちろんこれも対策済みで、ウロボロスがあえて転移を阻害せず、時空間魔法を使用できる厄介なやつは全員誘き寄せて処理するというソウイチの策である。
ウロボロスがシバルバー南区域の一定の場所に転移させるように仕向けているはずなので、ポラールがみても今のところは順調だ。
大量の攻撃魔法がポラールにむかって飛来してきているが、ポラールから迸る魔力の圧に負けて、当たる前に消滅してしまっている。
――ゴーーンッ! ゴーーンッ!
突如鳴り響く鐘の音。
ポラールに向けられた幾多のスキルに反応して発動した『
それと同時にポラールの真下周辺の地面から血の色をした水が勢いよく湧き出てくる。次々と溢れ出てきてシバルバー中央区域を冠水させる勢いで湧き出る血水に『異教悪魔』軍の魔物たちは一瞬戸惑うが、すぐに切り替え進み続ける。
シバルバー中央区域を血の匂いが支配する。
「『第三圏・
ポラールが魅せる地獄の1つ『第三圏・
効果は単純で湧き出つ血水か血の匂いを少しでも体内に取り込んだ生物は抑えきれない謎の『怒り』に我を忘れて暴れ出してしまうというだけの地獄。
決して相手を直接殺すような地獄ではないのだが、『
「ガァァァァ…ァ…ァァ?」
「オォォォォ…ォォ…ォ?」
――サラサラサラッ
『
強制された怒りから解放されたときには身体も魂も崩壊を始めており、絶望する間もなく塵となって消えていくのみ。
ちなみにシンラは次元の裂け目から異空間へと避難済みである。いくらシンラでも魂まで崩壊してしまったら復活ができないので、しっかりと呼ばれるまでは大人しく待機しながら他地域の様子を確認している。
「数は多いですが……ご主人様が予想されていたほどの強さはありませんね。種類も豊富ですが、私たちからすれば外見以外に差を感じる程でもありません」
悪魔に堕天使、スライムに魔剣をもった人型の魔物だったり鳥人族だったりと多種多様ではあるが、ポラールからみれば全て同じ程度の力を持った存在にしか見えていない。
A.S.SSランク帯もポラール達から見れば特に大差のないもの。戦っている最中なんとなく力は分かるのだが、特に気にすることも無いものなのだ。
戦争後にソウイチに魔物の種類や特徴をある程度報告するために、なんとなく記憶してはいるものの一撃で散って行ってしまうので、印象もあまり残らず少しポラールは困ってしまう。
「それは残りが少なくなってから考えることにしましょう」
我を忘れて暴れ出しては崩壊していく敵軍の魔物たちを見ながら、残りどれほどの魔物が追加されるのか、そしてソウイチ自ら釣りだすと豪語していた魔王は、どうやってシバルバー南地区の端のほうにいるソウイチとリトスのところまで辿り着くのかを楽しみに待ちながら、ポラールは目の前の敵に再度集中することにした
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