第13話 『修羅戦狼』


――シバルバー 西地区



 東地区でガラクシアが大暴れしているのと同時刻。

 最北から迫ってきている『異教悪魔』軍の魔物たちを確認しながら、阿修羅は自身の身体に闘気を巡らせていた。


 阿修羅の傍ではフェンリルが控えており、阿修羅からの指示を待つように黙って待っていた。



「さて……南には行けんように氷壁を作っておいてくれ」


「ガウッ!」



 ガラクシア&メルクリウスペアとは違い、どちらも地上での戦闘を主としているペアだが、普段鍛錬をし合っている仲なだけあって、互いの能力は身に染みて理解している分、連携がとりやすいだろうとのことで選ばれた阿修羅とフェンリルペア。


 阿修羅の近くにいれば使用できる能力は限られてしまうが、戦闘が始まる前にと、阿修羅はフェンリルに南に抜け出されないようにと1つ指示を出す。



――バキバキバキバキッ!



 高さ500mはあろう超巨大な氷壁がフェンリルの『氷月ノ神魔槍グングニル・ハティ』によって作り出されていくのを見ながら、阿修羅も自身が戦いやすい環境へと西地区を変えるためにスキルを使用する。


 地上から潜伏して抜けようとする相手を確実に封殺したところで阿修羅はスキルを使用するために集中する。


 

「いざ……血で血を洗う修羅戦国の地へ、『天下風雷ノ陣』」



――ゴゴゴゴッ! ザァァァァッ!



 阿修羅が空に囁くように呟くと、シバルバー西地区を雨雲が一瞬にして覆う。

 ほどなくして大嵐となり、強風に大雨、雷と普通に考えれば最悪の環境へと様変わりしてしまう。


 西地区に向かってきている飛行可能な魔物たちは飛べるような状況じゃなくなり、地上部隊へと合流するも、あまりの強風に大型の魔物ですら進む速度が大幅に落ちている。



「若からは殴り合うんじゃなく、一方的に撲殺するように動いてくれと言われているのでな……『四天阿修羅王』」



 阿修羅が3人の分身を呼び出す。

 本体の意図をしっかりと理解している3人の分身はそれぞれの守備位置へと跳んでいく。

 大嵐の中、すぐそばまで近づいてきている『異教悪魔』軍、阿修羅のアビリティである『大武天鬼嶽道』により自分たちの能力が使用できない状況に戸惑っているが、そんな隙を見逃す阿修羅ではない。


 目にもとまらぬ速度で呼び出した『三明の神剣』を操りながら打撃技で確実に仕留めていく。

 首を折り、心臓を貫き、脳を叩き壊し、身体を横真っ二つに蹴り斬っていく。



「『今宵は血にて酔い狂うトリュポス・オウガ』」



 高速で撲殺していく魔物たちから浴びる返り血が阿修羅に吸収されるように消えていく。

 『暴虐フォルテ』の技である『今宵は血にて酔い狂うトリュポス・オウガ』は、自身以外の血を浴びるほどにステータスを底上げしていくという、まさしく『暴虐フォルテ』らしい技である。


 能力は近接技以外封じられ、大嵐で視界もままならぬ中、神速で撲殺していく阿修羅に手も足もでない『異教魔王』軍、接近戦を得意とする『魔剣』『滅獅子』の魔物ですらまるで歯が立たない。



「ハォォォォォンッ!」



――ズシャッ! 



 阿修羅と負けじとフェンリルも一部能力を阿修羅に影響で封じられながらも自慢の速さで敵を引き裂き、喰らい殺していく。

 

 大嵐という環境であるが、まったく関係がないと言わんばかりの神速攻撃の嵐を巻き起こしながら駆け抜けていくフェンリルを誰も捉えることはできず、阿修羅の武技をまったく反応することすらできずに一撃一殺以上の速度で葬られていく『異教魔王』軍の魔物たちは、足を止めて恐怖してきてしまっている。


 そんな中でも気をあげる魔物が1体、阿修羅の前へと進んでくる。



 黒く輝く魔剣を持った黒と赤毛な二足歩行の獅子型魔物。SSランクで阿修羅の前でも行動できる近距離型の魔物、その名を『グラムライガー』。


 グラムライガーは魔剣を大きく振りかぶりながら阿修羅へと突進していく。



「グオォォォォッ! 舐めるなァァァァ!」


「鬼神剛撃拳ッ!」



――ズガァァァァンッ!



 グラムライガーが剣を振り下ろす間もなく懐へと跳んできた阿修羅による神速の正拳突きがグラムライガーを襲う。

 グラムライガーの腹部に丸くて綺麗な穴があき、拳圧はグラムライガーを超えて、後方にいる大軍をも吹き飛ばしていくほどの威力。


 大嵐だろうと無駄な叫び声を阿修羅とフェンリルが聞き逃すわけもなく、隙をみせた順に肉片に変えられる状況に、戦わずして気絶してしまう魔物まで出てきてしまっている。


 そんな弱っている魔物が多くなればなるほどに強くなるのが『暴虐フォルテ』の大罪を司りし鬼神大嶽丸こと阿修羅という魔物である。

 身に纏う赤黒い闘気が秒ごとに濃く、大きくなっていき、近づくだけであまりの覇気に絶命してしまう魔物もおり、ここまで来てしまえばSSランクの魔物だろうが、近づくだけで意識が遠のいてしまうような存在へと昇華しているのだ。


 

「もう進軍してくる輩は今のところおらんようだな……まとめてやるか」



――パシッ!



 阿修羅は『三明の神剣』の1本を右手に持って天へと掲げる。

 スキルの1つである『神通力』を使って嵐の中、轟き続けている雷を操る。自身の魔力と闘気も怯える敵軍中央へと剣を向ける。



「若の言う通り……EX真名持ちと、それ以外は差がありすぎるようだ。若がバランスがクソというのも納得できる……『天地雷鳴ノ陣』」



――ゴロゴロゴロゴロッ ドッシャァァァァァンッ!



 天を裂き、大量の落雷が『異教悪魔』軍の魔物たち避雷針かのように狙いすまして降り注いでいく。

 鳴りやまぬ轟雷に能力を封じられている魔物たちは抵抗することもできずに貫かれていき、次々と丸焦げになって灰へと変わっていく。


 その間にも阿修羅の闘気は膨れ上がっていき、炸裂している『天地雷鳴ノ陣』の威力も比例するように上がってきている。

 傍から見ればただの弱い者イジメにしか見えないのだが、それこそが『暴虐フォルテ』という大罪の真骨頂、敵が弱るほどに調子をあげていき、止まること無き鬼神の独壇場へと戦地は姿を変えてしまっていた。



「さすがに数は衰えんようだな……フェンリル! まだまだ抜かるなよ」


「グルルルルッ」



 阿修羅の問いかけに当たり前だと言わんばかりに応じるフェンリル。


 後方には巨大な氷壁のおかげで南地区方面への進路を塞げている。時空間魔法を使用されれば突破されてしまうが、北から南へと一気移動出来る魔物は自分たちの管轄ではないので、集中して西地区で仕事ができているので、阿修羅もノビノビと戦える今を楽しんでいた。



「まだ本命の個体は隠しているだろう。それにしても数だけは若が考えていた以上だな……しかしあの程度では相手にならん」



 阿修羅自身も敵軍の数だけは称賛できるレベルにあったし、ソウイチの想定をも上回っている面は素直に認めているが、いかんせん阿修羅からすれば物足りないのである。

 SSランクぐらいであろうと感じた魔物は2匹ほど倒したが、他の魔物よりも少し存在感がある程度。自分たちと1つしかランクが変わらないのに、どうしてこれほどまでに弱いのか、阿修羅には理解できてないのだ。


 ソウイチたちも気付くことの無い強さの差。

 それは能力性能の圧倒的な差もあるが、もう1つの要因は単純なLvの差である。

 EXランクに囲まれてLv上げをしている『罪の牢獄』にいるマスティマはすぐに最大Lvである500にまで到達しているが、それがそもそもおかしな話なのだ。

 この世に毎日EXランクと模擬戦し続けて育てて貰えている魔物などほんの一握り、上級魔王でもSSランクのLv上げに苦労していることをソウイチすら把握できていないからこそ、謎めいたままの力の差。


 先ほど阿修羅が瞬殺したグラムライガーのLvは360、『罪の牢獄』で考えれば最大Lv到達まで2~3週間あれば済む話かもしれないが、グラムライガーは『滅獅子』のところに誕生して早30年が経過している。

 この感覚の差がソウイチには無いので、魔物たちもソウイチにつられて必要以上に警戒してしまっている現状になってしまっているのだ。



「俺たちと同じランクの魔物は敵本陣であろうな……今回は仕方ない」



 阿修羅とフェンリルは大嵐の中、次の軍勢がくるのを確認しながら、再度戦闘に向けて集中していた。



 

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