第12話 『大震撼』


『な……なんということでしょうか? 開始僅か30秒で『異教悪魔』の魔物7割が消し飛んでしまいました……』


『『海賊』での戦争すら本気でなかったということか』



 ガラクシアとポラールが放った天へと昇る白黒の極光『天を貫くはカタストロフィー・破滅と終局エバポラシオン』によって、シバルバー中央を中心として『異教悪魔』軍の魔物、そしてシバルバーの建物をまとめて消滅させた一撃は、実況の2体を含め、モニターで観戦しているほとんどの魔王たちの度肝を抜いた。


 つい先日までルーキー期間だったソウイチの力は誰がどう見ても常軌を脱していた。

 『海賊』との戦争でも十分おかしい範囲であったが、上級魔王の魔物相手に一撃で葬り去った光景は……魔王ですら恐怖する衝撃的な出来事になった。



『これまでも……SSランクの魔物にしては考えられない魔物が何体かの魔王のとこにいたが……『大罪』の配下もそれに該当するようだな』


『SSランクよりも上の魔物が存在するということでしょうか!?』


『可能性の話だ……もし本当なら誰かが意図して事実を隠蔽しているということになる。もしかすれば、この戦争は魔王界を大きく動かす一戦かもしれないな』


『なるほど……我々も知らぬ事実がこの魔王戦争で明らかになるということですね! このまま上級魔王を飲み込んでしまうのでしょうか!? 戦争は始まったばかりです!』



 シャープの叫びとともに、『異教悪魔』軍の魔物は湯水のように呼び出されて、再び各方面にむかって進軍していく。

 それを見て、ソウイチの下で備えていた魔物たちも各自の仕事を果たすために散っていった。








――シバルバー 中央上空



「スッキリしたー♪ 私は東上空担当だから、またねポラール♪」


「えぇ……私も『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』を使いますから、早くしないと巻き込まれますよ?」


「え!? すぐ行くからストップー!」



 極闇魔導の1つ『天を貫くはカタストロフィー・破滅と終局エバポラシオン』をフル詠唱で使用してもまったく息を切らすことの無い2人。

 

 ガラクシアはポラールに少し揶揄われるように追い出され、自分が担当する東上空へと大急ぎで向かう。

 

 『宙を射貫くはカタストロフィー・破滅と終夜エバポラシオン』は『異教悪魔』軍の初期配置されていた守りに長けた魔物たちをまとめて消滅させ、シバルバー南地区以外に存在する建物もほとんど消し飛ばしたのもあり、戦場は少しだけ見晴らしの良い場所になっていた。


 最北ダンジョンから笑ってしまう量の魔物が生み出され続けるのを感じたガラクシアは、自分が北上空担当になりたかったと少し残念な気持ちになるが、東側にも大量の魔物が地上・上空の両面から迫り来ているのを見て一安心する。


 シバルバー東地区は空をガラクシア、地上をメルクリウスをメインで制圧することになっている。

 基本はガラクシアがまとめて撃退して、仕留めそこなった獲物はメルクリウスが追撃していくという基本方針だ。


 ガラクシアは自分たちの地区を見渡しながら、今回のパートナーであるメルクリウスがやってきたのを見つけて、手を振りながら声をかける。



「おっ! さすがメルちゃん! はやーい!」


「ウロボロスに送ってもらった」


「じゃぁー私が前で、メルちゃんは南地区ギリギリのとこでライン張りよろしく♪」


「うん。仕留め損ねた奴は確実に殺すから気にしないでね」


「りょーかい♪」



 メルクリウスと軽いやり取りをして、互いにアビリティによる影響を与え合わない場所まで移動し合う。

 最北から迫ってきている魔物を見てガラクシアは苦笑してしまう。



「種類もたくさん、数もすんごいけど……それだけじゃ~さっきまでと一緒じゃん♪」



 ガラクシアは魔力を張り巡らせて東地区を覆うように『星空領域スターリーヘブン・無窮ノ夜エンドレス・ナイト』を発動させる。

 『完全適応』を持ち、元々夜と月に対して相性に良いメルなので、東地区はこの組み合わせになったのだ。


 広範囲魔導と精神異常のスペシャリストであるガラクシアと、火力こそガラクシアには及ばないが、探知・感知してからの素早い攻撃で敵を確実に落としていけるメルクリウスは敵に接近させるまでもなく仕留めることに特化させたペアとなって東地区制圧を命じられていた。



「マスターを怒らせたことがどうーなるか、教えてあげないとねッ♪」



 ガラクシアは魔力を自身に集中させる。

 『星空領域スターリーヘブン・無窮ノ夜エンドレス・ナイト』により疑似的な夜を創り出した今のガラクシアは、アビリティ『星空の魅力スターウラノス』の影響で魔法・魔導の効果範囲が1.5倍になっており、広範囲に特化していた魔導たちが、さらに広範囲で放てる状態になっていた。


 シバルバー東地区上空に青色の巨大魔法陣が展開される。



「1発目♪ 星天魔導『煌宙を凍らす天星群パゴノ・ミーティア』」



――ヒュー―ッ! ヒュー―ッ! パキパキパキパキッ!



 魔法陣から生み出されるサファイヤ交じりの流星群。

 1つ1つは大きい訳ではないが、4mほどの魔物であれば簡単に圧し潰してしまうような勢いでガラクシアの『宙を凍らす天星群パゴノ・ミーティア』が降り注ぐ。


 魔法や魔導は詠唱を行えば威力・範囲ともに上昇するのだが、やりすぎると他の地区にも迷惑をかけてしまうかもしれないと思ったガラクシアは少し加減をして星天魔導を放つ。


 遥か後方でガラクシアの放つ流星群をみて、メルクリウスは1つのスキルを放つ。



「『隣のお花は真っ赤っ赤ルーフス・ジェラシー』」


「グガァァァァァッ!」


「ど、どうなっているー!?」



 『宙を凍らす天星群パゴノ・ミーティア』は普通の流星群ではなく、降り注ぐ小隕石は地面に着弾するころには細かい石屑になってしまう脆さがあるが、代わりに掠りでもすれば対象を凍らせてしまうという氷系統の力を含んだ星天魔導である。


 そしてメルクリウスは器用に『宙を凍らす天星群パゴノ・ミーティア』を回避しようとしている悪魔たちに対して、どんな状況でも定められたもの以外を気になってしまうという「強制余所見」をさせる『嫉妬エンヴィー』の技である『隣のお花は真っ赤っ赤ルーフス・ジェラシー』を使用したのだ。


 『隣のお花は真っ赤っ赤ルーフス・ジェラシー』の影響を受けた『宙を凍らす天星群パゴノ・ミーティア』は、凍てつく小隕石を見ようとすればするほど、他の何かが気になって目を逸らしてしまう現象を発生させる極悪魔導になっていた。


 為す術もなく降り注ぐ『宙を凍らす天星群パゴノ・ミーティア』に潰されたり、氷像に変えられていく敵軍を見てガラクシアは振り向きはしないが、メルクリウスにむけて手をあげてピースサインをしながら叫ぶ。



「さっすがメルちゃん! 2発目も行くよー♪」


「はーい」



 ただメルが合わせているだけではあるが、互いの圧倒的な能力の前に『異教悪魔』の大群は抵抗することも出来ない。

 闇系統の精神異常を起こさせるようなスキルを多くもった『異教悪魔』の魔物に、相手のステータスをダウンさせることに特化した獣型『滅獅子』、酸が含まれた魔物が多い『溶解』、水系統の能力を多く持つ『水鷲』、魔剣という特殊な武器を持つ人型魔物が多い『魔剣』、どの魔物も呆気なくガラクシアの『宙を凍らす天星群パゴノ・ミーティア』の前に散っていく。


 ガラクシアは押し寄せる魔物の数がさらに増えてくるのを感じて、2発目の攻撃をするため魔力を集中させ、黒色の新たな巨大魔法陣を上空に展開させる。



「ストレス発散! 極闇魔導ッ! 『水平線上グラウィタスの超重圧・ホライゾンッ』!」


「『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』」



――ズシャァァァァッ!! ズゴォォォンッ!



 ガラクシアの極闇魔導をいち早く察知したメルクリウスは自分だけ覆うように自身が使用できる最強防御スキル『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』を発動させる。


 そしてガラクシアが爆発させるように放った極闇魔導『水平線上グラウィタスの超重圧・ホライゾン』は魔法陣下全ての重力を何十倍にも増やし、ただただ圧し潰すだけの闇魔導だ。


 ありえないような広範囲で放たれたガラクシアの一撃は『異教悪魔』の軍を飲み込むように圧し潰し、悲鳴一つとあげさせることなく地面ごと陥没させていく。

 


 シバルバー東地区には超巨大なクレーターが1つ出来上がり、ガラクシアは少しやりすぎたと反省すると同時にスッキリした感じでメルクリウスのところへ飛んでいく。



「やりすぎ……これじゃ敵が中央か西側からに雪崩れこんでバランス悪くなる」


「そっか! どうにかこっちからも支援に行く?」


「こっちからも敵がこないわけじゃない。だから管轄は離れちゃダメ、とにかくここでやれることをやる……ますたーが言うには無限に魔物出してくるくらいのDEはありそうらしいから」


「はーい♪」



 2人はクレーターに雪崩こんでくる高ランクの魔物を撃退すべく、もう一度距離をとりあって態勢を整えるのであった。

 



 

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