第9話 戦争前の『嫌がらせ』
――迷宮都市アーク ルジストルの館
『異教悪魔』との魔王戦争まで残り10日。
アークにあるルジストルの館では、主であるルジストルとリーナが、いつも以上に報告書を読んで頭を悩ませていた。
「やはり『異教悪魔』の影響ですね」
「そうですね……アークを崩すことにも余念がないやり方……頭が痛いものです」
『異教悪魔』との魔王戦争が決まった翌日から行われているエリファスよりの嫌がらせとも思える行為の数々。
農作物の評価を落とそうと評論家なるものを送り込んできたり、ダンジョンに挑む高ランク冒険者、多くの種族が暮らしているという点を崩すための間者のような者など毎日何かしらの問題に対処しなくてはならず、さすがに2人も苦戦を強いられていた。
もちろんソウイチには報告しているが、現状をそのまま報告するわけではなく、イデアやポラールに協力してもらいながら、ソウイチには魔王戦争本番に集中できる環境を整えたい全員の意向で報告書はある程度に抑えられている。
もちろんソウイチも報告書を確認しているので対策に案を出して実行しているが、基本的には魔王戦争やエリファスへの調査、ダンジョン運営に集中している。
「王国と公国の戦争のおかげで、なんとか助かっている感じはありますね」
「えぇ……閣下もそれを見越していることでしょう。公国からアークに来るには時空間魔法がなければ厳しいですからね。アークに来れるのは少数精鋭になるでしょう」
「問題は種族間争いでアークの和を乱すような行為に力を入れられているところ」
「閣下の弱点をよく分かってらっしゃるお相手のようです」
ソウイチが一番大事にしているアークの平和。
そこを的確に突いて行けば目を逸らすことはできずに魔王戦争に集中することもできなくなる。
ルジストルたちから考えても戦争前に行う行為としてはソウイチに1番効果的な攻撃だった。
「ですが確実な怒りを買ったのも事実ですね……閣下は口には出しませんが、最初の報告書を提出した際に感じました」
「ソウイチ様の近くにいる魔物たちは凄いことになっているでしょうね」
「魔王戦争当日は大暴れになるでしょう……魔王界の歴史に残り続けるような恥をかかせてやろうと意気込んでおられました」
2人は小言を挟みながら的確に作業を進めていく。
アークにはメルクリウスにガラクシア、レーラズといった諜報活動や直接戦闘ではない戦いに長けた魔物が複数いる。
相手が何を企んでいるか、どのような指示が出ているかはメルクリウスが感知し、レーラズが場所と動きを把握してガラクシアが仕留めて操るという黄金ムーブ。
2人はこちらの計画手順や洗脳後の行動についての指示書をソウイチに確認してもらうために急いで作成中なのだ。
「魔王戦争終了後に少し休暇をいただかなくてはいけませんね」
「ソウイチ様なら5日くらいは頂けると思いますよ」
2人は微塵もソウイチが負けるとは考えていなかった。
ソウイチの怒りを察知した魔物たちの表情を思い浮かべながら、相手である『異教悪魔』がどのような恐ろしい目に合うのか考えていた。
◇
――真っ白なとある空間
『異教悪魔』との魔王戦争3日前。
気付けば『原初の魔王』の魔王がいる真っ白な空間に呼び出されていた。『海賊』との魔王戦争ではコアからメッセージで戦場が指定されていたけれど、今回は『銅』との魔王戦争の時みたいな感じなんだな。
正面には『原初の魔王』と羽の生えた黒山羊、『異教悪魔』が話し込んでいた。
2人は俺に気付いたようで、俺の方へと視線をむけて話をする。
『上級魔王と1年間で最弱から最強ルーキーへと成りあがった者の戦い……期待させてもらうぞ』
「上級魔王としてご期待に沿えるよう励まさせていただきます」
『原初の魔王』にペコペコ気味の『異教悪魔』。
少しだけ上級魔王としての威厳が無い気もするが、魔王界は全部『原初の魔王』が取り決めしているって考えれば仲良くするのは間違いじゃないのかもな。
そんな2人のやり取りを黙って見ていると、『原初の魔王』が声をかけてくる。
『『大罪』よ……1年で上級魔王に挑むという偉業、誠に素晴らしい。素晴らしい魔王戦争を期待しよう』
「命がかかっている……もちろん勝ちに行きますよ」
『お主はルーキーとは思えぬ異常な速度で成長をしておる魔王じゃ。『異教悪魔』もルーキーと思って挑まぬほうが良い』
「調査済みでございます」
「さすが上級魔王様」
「お戯れを……」
俺と違って、とっても優等生魔王なようだ。
でもアークへの仕掛け方や『八虐のユートピア』の存在を使っているところ、街の住民を教祖として上手く操っているのを見ると、相当良い性格していると思うんだけどな…。
『それでじゃが……今回の戦場は『古き街シバルバー』という場所になった。お主らの共通する闇系統の魔物が自然と強化される戦場になっておる。それにかなり広いので楽しい戦をしておくれ』
「広くて闇系統に有利か……」
しかも互いにっていう情報を追加してくれた。
そこらへんは互いに知っている情報になるだろうが、うちに闇系統の魔物が多いかと言われると微妙なところだけど、正直環境なんて各々変化させられるから広いという情報以外は気にしなくて良さそうだな。
気付けば『原初の魔王』は消えており、真っ白な空間には俺と『異教悪魔』の2人だけになってしまった。
「まったく……ルーキーが私に挑むだなんて…面倒なことですよ」
「先に仮面集団を仕掛けてきたのはそっちじゃないか?」
「素直に人間を差し出しておけばこんなことにはならなかったのですよ?」
「アークで悪戯をしている上級魔王様なら俺がどんな街を創ろうとしているか分かってくれているのでは?」
「えぇ……久々に笑ってしまいました。全ての種族が等しく共存、ルーキーらしく儚い幻想ですね」
「なんと言われようと曲げるつもりはない……EXランクの魔物が相手だろうがな」
俺がEXランクの名前を出した瞬間。
さっきまで薄ら笑いを止めて、睨みつけるような表情で俺の方を見てくる。黒山羊の顔って思っていた以上に迫力がある。
互いにEXランクの魔物を配下にしている情報は得ているはずだ。
クラウスさんがどうして嘘をついているのかは不明だが、魔王界に全然EXランクの情報が無いということは、俺と同じく口止めされている可能性が高いから、チラっと名前を出してみたけど、上手くヒットしたようだ。
「……これで『
「それは俺にもよく分かっていない……ただルーキーだからって舐めたこと、それとアークにちょっかいをかけてきたことは何が何でも後悔してもらうってことだけだ」
「……『
そう言って『異教悪魔』も消えていった。
上級悪魔に生意気なことを言ったが、どうせ魔王戦争が終われば、どちらかが死ぬんだから関係ない話だ。
とりあえず相手してもらえたので良しとするし、さすが上級魔王だけあって言葉に1つ1つからプライドの高さが滲み出ていたので、性格と傾向がなんとなくだが絞れそうな気がする。
残り3日間、戦場の視察もして策も考えて魔物の配置も修正してと忙しいけど、負けて全てを無にしないためにも確実に勝てるように全力を尽くす。
『
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