第5話 存在の『証明』
――『罪の牢獄』 居住区 果樹園
ダンジョンも閉まり、ソウイチもハクに夜這いされながらも寝静まったころ。果樹園にハクを除いた全てのEXランクの魔物が集まっていた。
姿は見せてはいないが、ウロボロスやデザイアもしっかりと果樹園での話が聞けるように待機している。
人間型の魔物はレーラズが樹の根を使って作り出した巨大な円卓の席についている。これは五右衛門とバビロンが形から入ったほうが気合が入るとポラールを説得した結果誕生した形式だ。
「皆知っての通り、魔王戦争が20日後には行われます。ご主人様は我々がどうすれば戦場で輝けるか悩んでおられます」
「若によく言われるが……『
「ご主人様を悩ませているのは、我々の能力や得意な状況をまだまだ把握していただけないところにあると思います」
「実戦で使う機会がほとんど無いからね」
ポラールの凛とした発言に阿修羅とイデアが賛同する。
他の魔物たちも同意見なようで誰も意見を言うこと無くポラールの話を聞き続ける。
強大な能力だが敵味方関係なく影響を与えやすいという一癖ある集団である『
『大罪』を背負って最古参であるポラールとガラクシアでも、実戦で戦った経験は15回もないだろう。
場面に応じてその都度選ぶ癖のあるソウイチはバランスを考えて連れて行く魔物を決めるので、アヴァロンやレーラズは能力を披露する場が非常に少ない。
最近はソウイチ自身やフェンリル・アマツ、そしてソラとの模擬戦が増えてきたので披露する場は増えてきたが、模擬戦に参加しているメンバーも限られているので、ソウイチも把握しきれていないだろうというのがポラールの意見だ。
「能力は自分が1番把握しているはずです。ご主人様が確実に我々の能力を把握していただくために、明日の昼間にご主人様に時間をとっていただきました」
「……何をするつもりじゃ」
「……提案者の2人、説明してください」
「承知した!」
「我らに任せるが良い!」
五右衛門とバビロンが勢いよく立ち上がる。
どこからかため息が聞こえてくるが、2人はそんなこと気にもせずに発言をはじめていく。
ソウイチが悩むこと、そして実戦が少なくて貢献機会が少ないことを気にしていた2人はポラールとソウイチに頼み込んで1つの提案を企てていた。
「1人3分で我らが王へ! 各自アピール大会を明日開催するのだ!」
「『異教魔王』との魔王戦争だけでなく! 今後の争いにも関わってくる大事なアピール合戦じゃ! 話ができぬ者は誰かしらが通訳する予定じゃ!」
「わざわざ……そんなことしなくても、ますたーここに呼んで決めればいい話」
盛り上がる五右衛門とバビロンに対して呆れるような感じでメルが発言する。
元気な2人以外は、なかなか企画の意図も見えず乗り切れない。ソウイチへのアピールならばソウイチも含めて全員で作戦会議すれば済む話じゃないかと考えてしまう。
わざわざ集まるくらいなら、個別で時間をかけてアピールする時間を作るのが確実だとも考えた面々に2人から状況を引っ繰り返す衝撃の一言が放たれる。
「我らが王の計らいで1番印象に残った者は、王が我儘を1つ聞いてくださるとのことだッ!」
――ザワッ!
バビロンが放った強烈な一言は、この場にいる全員の企画に対する考えを180度変えてしまうほどに絶大な威力を誇っていた。
ソウイチに我儘を1つ聞いてもらえる。
この言葉には様々な可能性が秘められていた。
最前線で大暴れを願う者、1日デートをしてもらいたい者、ソウイチに1日仕事をせずのんびり休んでもらいたい者などなど。
それぞれの思惑が一瞬にして円卓を交差するかのように圧が巻き起こる。
「それでは解散じゃ! 持ち時間は1人3分じゃぞ! アピールの順番は「あみだくじ」とやらで決めるそうじゃ!」
五右衛門の解散号令を受けて、素早く去って行く魔物たち。
その表情はまるで命をかけた戦いに挑むが如く……溢れんばかりの猛りを宿していた。
『罪の牢獄』No.1アピール王者が……決まろうとしていた。
◇
――『罪の牢獄』 居住区 闘技場
五右衛門とバビロンから『罪の牢獄』にいるEXランクの魔物たちの特徴を今一度把握して欲しいとの願いで、何やらアピール合戦をさせてほしいとお願いされたので二つ返事で了承したのが昨日。
そして今眼前に広がっているのは、闘技場で俺が作ったあみだくじを真剣に引いているEXランクの魔物たち総勢17体。
まさしく圧巻の光景だ。
俺としてはこういったことをしてくれるのは嬉しいし、何より俺の視点じゃなくて各々が語ってくれるというのが楽しみなポイントになってくる。
褒美があれば気合が入ると言われたので、何かしら我儘を叶えられる範囲でというのが、みんなのスイッチを入れるキッカケになったようだ。
絶対に俺が悩んでるってのは後付けで、ただ楽しい企画をしたかっただけな気がするんだが…。
「ご主人様、順番が決まりましたので始めてもよろしいでしょうか?」
「あぁ……楽しみにしてるよ」
ちなみに司会は基本的にバビロンが進めていくようだ。
何故か『黙示録の獣』を召喚して、その上でマイクを持ちながら荒ぶっている。大量の強化スケルトンを闘技場の客席に配置し、盛り上がりを作っている感じを見ると相当本気なんだろうなって思う。
今後の戦い方だったり活かした方のヒントになるような場になると思うので、ここまで気合を入れてくれると、審査をさせてもらう俺まで緊張してしまう。
「我らが王よ! 我らは僅か3分という短い時間に全てを賭け! 己の価値を証明させていただく! 1位に選ばれずとも恨むことも根に持つこともありませぬ! 今宵は我らのアピール大会を楽しんでくださいませェッ!」
「随分な気合の入りようだな……期待させてもらうよ!」
――ブワッ!
バビロンの司会と俺の発言に観客スケルトンが湧き上がる。
こんな遊んでいる場合じゃないかもしれないが、コアルームの守りやらはメルの分裂体だったりマスティマが居てくれるので安心して良いだろう。
――ゴゴゴゴゴゴッ! バキバキッ!
地面から大量の樹が生い茂る。色とりどりに輝く花が咲き誇り、闘技場は一瞬にして樹で埋め尽くされる。
中央には巨大な桃色の花に乗った、優しい微笑みを絶やさずに立つ1人の魔物。
「エントリーNo.1! 『罪の牢獄』果樹園の守護神ッ! 『
「レーラズです♪ 索敵に結界、そして自然を豊かにすることにおいては負けませんよー♪」
バビロンの熱のこもった紹介とともにレーラズがこっちにむかって手を振ってくる。こういった企画に真面目に参加するタイプじゃないと思っていたが、ド派手に出てくるってことは確実に1等賞狙いで来ているんだろう。
気付けば闘技場はレーラズの『
「彼女の司る『
「帝国の2/3くらいなら結界9個作って覆えるかも♪」
何やら聞き捨てならない発言が聞こえてしまった気がする。
実戦にでることは無く、最初に命じた通りに果樹園を全力で守護し、アークの発展を1番と言ってもいいほどに支えてくれている存在。
アークの農作物が腐りにくいのはレーラズが関わることで、自然と『
結界の頂点、そして『
そしてやろうと思えば、今咲き誇っている花たちからでる花粉で全員毒殺だったり麻痺させることもできるんだろう。夢幻花粉という恐ろしいスキルも持っているので環境を整えれば随一の制圧力を見せてくれるって思わせてくれる。
「こう思うと3分って一瞬だな」
登場シーンがド派手だったのもあってか、能力を観る時間が一瞬に感じてしまう。もちろん登場シーンも能力を使っての登場だったのでインパクトは十分だったので満足だが、こうなると1人10分は見てみたいと思ってしまう。
いきなりド派手だった1番手のレーラズの時間は終わり、次は誰が出てくるんだろうかと心待ちにしながら、とりあえずお茶を一口飲んで落ち着くことにした。
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