第4話 前哨戦の『予感』


――『罪の牢獄』 居住区 会議室



 『異教悪魔』に魔王戦争の挑戦状を叩きつけて3日。

 さすがに魔王界では大盛り上がりのようだが、上級魔王相手に挑むルーキーということで少し笑い者にされているが、そんなことは気にせずに『枢要悪の祭典クライム・アルマ』がそれぞれ輝けるような作戦を考えることが大事だ。


 アイシャとピケルさんとはやりとりをして、魔王戦争中のアークの守りを頼むことができた。これで『異教悪魔』との魔王戦争に集中することができる。


 なんて思っていたらカノンたちが相談があるということなので、会議室に来てもらっている。



「仮面集団が攻め込んで来るね……」


「うん。元『七人の探究者セプテュブルシーカー』のツバキちゃんが少し前に戦ったらしくて、一網打尽にしてやるー! だとか言ってたんだって」


「奴らは決められた能力持ちを刈っているようだ。エルにツバキ、そしてカノンは狙われていると分かった。共通しているのは様々な方法で仕掛けてくるってことだ」


「それで個々が集団で攻められる前に、体勢を整えて迎え撃ちたいと?」


「あぁ……学園で授業があるルーク以外には手紙を出してある」


「会ったことが無い3人か……場所を整えるのと誘き出しに協力してほしいってことだな」


「そうなんだ、私たちが集まるのを見逃すはずはないだろうけど、さすがにアークで戦うのは危険だから、私たちにとってやりやすい場所が欲しくて……」



 ごもっともな話だ。

 個々で戦うのは危険な話だ。『枢要悪の祭典クライム・アルマ』みたいにステータスはランク平均的な魔物が多いけど、Lvと能力が個々で戦うのに特化しているような者じゃない限り、戦いってのは基本数の勝負だ。

 相手が集団で襲ってくる準備が整ってしまえば、厳しい状況に陥ってしまう。それならばどうにか集まったときに撃退するのは当たり前の話だ。


 仮面集団が用意した戦場で戦うことになってしまえば碌なことにはならないだろう。だからウロボロスやレーラズがいる俺に頼ってきたということか。



「そこは協力させてもらうつもりだ。奴らが攻めてきそうなタイミングも、なんとなく予測できる」


「さっすが魔王さん♪」


「ありがとう」



 仮面集団が『異教悪魔』の命で動いているのであれば、確実に魔王戦争終了までには仕掛けてくると思う。

 残り1カ月無いくらいの期間の中でアークを攻めつつ、カノンを殺すという目的を達成できれば、俺は魔王戦争とアークの守りの面で痛手を受けることになる。

 この流れは『異教悪魔』も把握できているだろうから、もし仕掛けるなら期間は魔王戦争終了までと定めておいていいだろう。



「誘い込む方法は任せる。アークに近ければどこでも良い、戦いやすい結界をこっちで考えておくよ」


「お願いしまーす!」


「よろしく頼む」



 団長と副団長は真面目なのに、闘技場でフェンリルと戯れているソラ……カノンとアルバスが変なことするわけないという信頼なんだろう。解散しても関係を保っていられるというのは不思議なものだ。

 とりあえず俺としても『異教悪魔』の人間側近集団を自分の労力を最大限に抑えて討ち取れるならば、それは戦争にも響いてくるので大歓迎だ。


 もしカノンたちを『異教悪魔』が直接手を出してくることも考えて、メルやウロボロスに警戒してもらうことにしよう。


 改めてウチの魔物たち出来ることが多すぎて感動するな。



「昔のお仲間たちもアークに少しの期間滞在できるよう手配も忘れないようにな」


「はーい♪」


「あぁ……」


「何かあれば互いに共有し合おう。ここから一月は正念場だと考えよう」



 俺の言葉に気を引き締めるような表情をする2人。

 ストレートってより変化球で攻めてくる印象のある仮面集団を上手く撃退するのは神経を尖らせないと大失敗を招いてしまう。

 今カノンたち3人を失うことはアークにとって最悪な事態だ。「紅蓮の蝶々」やビエルサをも圧倒的に超える知名度と実力で貢献してくれている3人をどうにかして守り切るために作戦は詰めておかないとな。


 俺はまだ出会っていない3人のことを聞き覚えながら、レーラズ・メル・ウロボロス・イデアにどうやって場所を整えてもらうか考えていた。









――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 カノンたちとの話し合いは終わり、フェンリルもソラ相手に軽い運動を終えたようで、一旦自由時間になった。

 ダンジョンに挑んで来る冒険者には変化は無い。アークに変わった者が来た形跡もなければ、怪しいことをしている者もいない。


 出来る限りの警戒をしながら魔王戦争について考える。


 同盟相手は『海賊』と比べ物にならないだろう。『異教悪魔』と同じ上級魔王がいると考えておくと、もしかしたらEXランクが他にでてくる可能性も充分考えられる。



「相手のことよりも自分たちのことだな……」



 フェンリルとアマツを最大Lvに育ててからわかったことがいくつかある。

 2人が育って関係なくなってしまったが、Lv差があればあるほど経験値は多くなる。模擬戦でLvを上げまくれたのは五右衛門やポラールが付き合ってくれたからだ。

 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のステータスはハクとシャンカラ以外は同じくらいなのだ。Lv差を考えたら『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のほうが少し低いんじゃないかなって思うほど。だけどアビリティとスキルは圧倒的に癖が強くて強力なのが『枢要悪の祭典クライム・アルマ』だ。



「圧倒的個人プレー能力でゴリ押しする魔物……それが『大罪』の魔物たち、能力の全容が知られる前に圧し潰さないとな」



 俺がしなくちゃいけないのは『枢要悪の祭典クライム・アルマ』を戦いやすい環境で戦場に送り込むことだ。

 同じEXランクが相手の場合、相性というのが確実にあるだろうから見極めて指示をだしていかなくちゃいけない。

 イデアが指揮をとるのが確実な気がしてくるけれど、イデアも前線に出てもらうほどに激しい戦争になる予感がしている。



「戦場次第ではあるけど、1人1魔王っていうのも想定しないといけないか……」



 アークのことはレーラズに任せるということは決まっている。

 守ること……時間を稼ぐことに関しては『怠惰スロース』の大罪を司るレーラズが1番適任だと思うし、『極結界魔導』を使用できる唯一の存在がアークを囲ってくれれば、みんな安心して戦争に挑むことができる。



「アヴァロンとハク……2人は何があっても1人で戦える場を作らないといけない」



 1人でないと力を発揮できないアヴァロン、本気を出したら自分以外の能力を封殺してしまうハク、どちらかは1人でコアルームを守ってもらおうと思っているが、どちらにするか悩みどころだ。

 これが2人で守れたら、まさしく無敵要塞って感じになるんだけど、そんな都合よく行くわけがない。


 当日までには決めておこう……。



「後衛組と前衛組で作りながら、バランス良く配置して互いのアビリティ範囲外になるように調整しないと……」



 『異教悪魔』のEXランク魔物がフェンリルやアマツと同じようだった場合ならば、丸腰のバビロン以外ならば誰でも相手して大丈夫だが、ポラールや阿修羅ほどの能力と強さを持っていた場合は、確実に勝つためにもハクかシャンカラに出てもらうしか無くなる。

 どこでEXの魔物を出してくるかを見極めなきゃいけない。いくら蘇生スキルを持つ魔物がいても、能力封じなんていくらでも出来てしまうのがEXランクの世界だから、スムーズに突破できるように初期配置も重要になってくるだろう。



「『異教悪魔』の魔物を把握して、魔名の特徴を掴んでおきたい……」



 オプールとビエルサに頼んで、エリファスからダンジョンに生息している魔物の情報を得てもらうように手配はしてあるので、ある程度の魔物は把握することができるだろう。

 『罪の牢獄』は誰も『枢要悪の祭典クライム・アルマ』と遭遇して無事に済んだことある冒険者が居ないから安心できる。

 魔王戦争で観られてしまったのは数回あるけど、誰も本気なんて出したこと無いだろうから見極められることはないはずだ。



「『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号はあるけど……SSランクの魔物が2体来たら殺されちゃうからな……俺も誰かの傍で動けるようにしておかないといけない」



 『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号に少しは怯んでくれれば万々歳。魔物を全滅させてくる動きをしてきてくれれば『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号にも意味があったことになる。


 魔物vs魔物になれば自信をもって、うちの『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のほうが強いって信じてやるだけ。



「とにかく勝つ……魔王らしくなかろうが勝つ」



 

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