第3話 『激震』する魔王界




 ソウイチが決断してからすぐに『異教魔王』へと向けられた魔王戦争の挑戦は、驚くほど一瞬にして魔王界に広まった。


 まさかのルーキー期間終了間近になって、ルーキー魔王が上級魔王に挑むと言う無謀とも言える挑戦は、魔王界を大いに盛り上げていた。


 それと同時に魔王界全体に少しの恐怖を走らせたのだ。ルーキーとは考えられない圧倒的な魔物を率いるソウイチが、上級魔王の1人として君臨する『異教悪魔』に勝利してしまったら笑っていられなくなるのではないか…と。


 個人としては8人の中でも圧倒的に最弱と呼ばれてはいるが『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号をも得ているソウイチは、魔王の中でも有名であり、ソウイチのやり方も、治めている迷宮都市アークも有名になっている。


 今まで存在してきた魔王とは考えた方がまったく違う。人間を搾取する存在ではなく、多くの種族を共存させ、同じような生き方をさせようとするソウイチの考え方は、ほとんどの魔王が賛同することができないものだった。


 そしてソウイチの理想にまったく共感することが出来ない魔王が1人。



「まさかルーキー期間の規定がここまで面倒になるとは思いませんでしたよ」


「『海賊』との魔王戦争の感じでは…同盟を先に潰しておくのが得意手段だったようだが、今回は大丈夫という話ではないか」


「えぇ……わざわざ手紙の返信に書いてくださいましたよ」



 公国に存在するとある場所で話をしているのは漆黒の翼を持つ黒山羊の外見をした魔王『異教悪魔の魔王バフォメット』と、獅子の頭に4枚の鳥の翼、蠍の尾を持った魔王『風蝗悪魔の魔王パズズ』であった。


 ともに上級魔王として公国に君臨しており、パズズの方はなんと『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号を得ている最強魔王の一角でもある。

 ソウイチが『魔王八獄傑パンデモニウム』になったときの会合では、ソウイチがバフォメットの敵対存在になる可能性が高かったという話を聞いていたため参加しなかったので、ソウイチとは会ったことがないが、パズズにもソウイチの実力話はしっかりと回ってきていた。



「同じ『魔王八獄傑パンデモニウム』での争いは楽しみなものだが、個人の実力ではSSランク、どうやって『魔王八獄傑パンデモニウム』になったのかは知らんが、魔王個人としても力があると見たほうがいいぞ」


「えぇ……そこは貴方にお任せします。『大罪』は少数の強力な魔物で成り立っている魔王。私の配下は多いですからね、圧倒的数で蹴散らして見せましょう」


「そこは他の同盟にも声をかけておるんだろうな?」


「えぇ…ルーキー相手に恥かもしれませんが、こんなところで負けるなど考えたくもない話ですので」


「わざわざ魔王戦争になるように策を考えておった主の流れ通りの展開というわけだな?」


「貴方は知っているので話しますが、やはり『大罪』はEXランクの魔物を所持していると見ています」


「お主以外はあの5人しか持たないのでは無いのか?」


「『銅』との魔王戦争の時に感じたときから調査した結果、『大罪』が戦う時に出てきている堕天使のような魔物はEXランクで間違いないようです」


「ルーキーの師匠を潰してまで警戒する理由はそこにあるようだな」


「魔王として順調に進む前に勝手に潰れてくれるのが1番でしたが……EXランク持ちのルーキーなど気に入りません」



 バフォメットはソウイチが『銅の魔王』との魔王戦争をしたときから目をつけており、ソウイチが騒がれるたびに登場している堕天使ことサタナエルに目をつけ調査していたが、やはりSSランクの魔物よりも遥か上の力を持つEXランクの魔物であろうという結論を出したのだ。


 バフォメットもEXランクの魔物を所有しているのだが、それも上級魔王になり立ての頃の話だ。

 ルーキーにして自分と同じEXランクの魔物を所有しているのが気に入らなかったバフォメットは様々な手段を使って嫌がらせを行ってきたのだが、あまり上手く行っているとは言えない状況だ。


 魔王戦争にもっていくということは成功し、事前に同盟に声をかけてあり、『魔王八獄傑パンデモニウム』であるパズズにも参加してもらうことになったので、さすがに勝てるだろうとバフォメットは踏んでいる。

 


「戦争開始までに色々仕掛けるのだろう?」


「もちろん……正々堂々なんて『大罪』も思っていないでしょう。私の魔名ランク上げにも役立ってくれている人間集団を使っています」


「何かあれば報告してもらえれば大丈夫だ。嫌がらせはお主の得意技だろう?」


「…えぇ、勝てば全ては許されるのですから……勝者にならなければ無駄になるのが世の中ですよ」


「面白い…こちらも魔王戦争までに少しでも強くなるよう鍛錬をせねばいかんな」


「期待しております。『魔王八獄傑パンデモニウム』の中でも圧倒的に最弱と言われています。貴方ならば楽に『大罪』の首を掲げられると思っています」


「楽しみになってきた……見る限り身体能力は無いに等しいが、恐ろしい能力を持っているんだろう……『魔王八獄傑パンデモニウム』らしく、血が滾る戦いをしたいものだ」



 2人とも、さすがにルーキーに負けるなんて思っていない。

 ソウイチの同盟相手も調査済みだが、ソウイチからの手紙では誰にも頼らずに相手をするとわざわざ自殺行為のようなことまで書いてあったので、一応警戒はしているが嘘を言うような性格に感じなかったので、バフォメットはソウイチ単体を仕留めることだけに焦点を絞っていた。

 バフォメットの中ではソウイチの配下である6体の魔物を抑えれば確実に勝てるという確信があった。

 

 『海賊』、そして『焔』vs『水』の戦争で出てきた魔物たち、それらに注意していれば他の戦力はGランクかソウルピックで手に入れた魔物しかいないという情報を掴んでいるバフォメット。

 同盟相手にも情報共有はバッチリで、残りは『大罪』がまともに魔王戦争出来ないように迷宮都市アークを荒らし、自身の魔名ランクアップの準備をしながら魔王戦争の戦場が決まるのを待つだけという状況まで、既に準備済みなのだ。



「魔王界では大騒ぎだ。ルーキーと上級魔王の魔王戦争なんて聞いたことないから仕方ない話だが……」


「負ければ大恥、勝っても当たり前……ですが、こういう挑戦者を確実に潰しておくのは私の格を磨くことにもなります」


「相変わらず貪欲だな」


「次の『大魔王の頂きゴエティア』になるのは私ですからね」


「滾ることを言うもんだな。『大罪』が『魔王八獄傑パンデモニウム』になってから、他の『魔王八獄傑パンデモニウム』たちともまったく交流しとらんから、どんな魔王なのかも聞いていない。少しばかり興味が出てきたから聞いてみるのも面白そうだ」


「よろしければ共有してくださると嬉しいですね。私は他の『魔王八獄傑パンデモニウム』たちとの縁はありませんので」


「よく言うもんだ……」



 上級魔王として今までいくつもの修羅場を超えてきた経験、調査して打ち出した戦力差、同盟戦力の圧倒的力。配下にしている人間たちの戦力は拮抗しているが、それ以外はどう考えても、自分たちが上回っているとしか考えていないバフォメット。


 EXランクがもしかしたら1体以上いるという想定ももちろんバフォメットは対策済みだ。

 最大3体までのEXランクの魔物だったら魔王戦争で勝利することができると踏んでいるバフォメットは、同盟相手であるパズズと戦争前に会話を引き続き楽しんだ。


 バフォメットの脳裏にいるのは、唯一と言っていいほど信頼できる1体のEXランクの魔物だった。

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