第2話 『魔王道』とは?


――『罪の牢獄』 居住区 果樹園



 『異教悪魔』からの手紙を軽く読み、『枢要悪の祭典クライム・アルマ』にルジストル、フェンリルにアマツという主要魔物たちを果樹園に集めて作戦会議をすることにした。

 マスティマたちは念のためにコアルームを守護してもらっている。


 『異教悪魔』からの手紙の内容は想像していた通り、俺にとって良い内容ではなかった。



「『星魔元素』様からの頼みで『異教魔王』が動いておられると?」


「あぁ……わざわざ『星魔元素』様からも直筆魔力込みのメッセージも込められている」


「それで…依頼が終える1カ月ほど攻め込むのをやめてほしいということか」



 ルジストルと阿修羅が手紙の内容を簡単にまとめてくれた。

 まさか『異教悪魔』が『星魔元素』様と繋がりがあるとは思わなかった。もし1カ月以内に攻め込めば『星魔元素』様をも敵に回してしまうことになる。


 俺の予想だけど、EXランクの件を俺に対して嘘情報を教えてきた『大魔王の頂きゴエティア』の目的は分からないけど、きっとEXランクを最大4体までしか所有していないというのも嘘だと考えたほうが良さそうだ。なんたって俺が17体も配下にしているんだからな。


 『異教悪魔』と『星魔元素』様を同時に相手にするのは確実に避けたいところだ。同盟でもなければ師弟関係でも無いようなので、『異教悪魔』が依頼を終えるまで待つしかない。



「では……閣下は魔王戦争をしても良いとお考えで?」


「本当はしたくなかったが……致し方ない。魔王戦争をする方向で準備をしていこう」


「……閣下のやり方は優れている点もありますが、王としての甘さが目立つところもありますな」



――ブワァッ!



 ルジストルのストレートな発言が静かな果樹園に響き渡った瞬間。


 ポラール・ハク・メルの3人から圧し潰すような威圧感が放たれる。

 シャンカラ・阿修羅・イデアが1人だけEXランクではなく、圧倒的に弱いルジストルを守るように威圧感を正面から受け止めてくれた。



「喧嘩はやめろ……ルジストルの言うことは正解だ。魔王界で1番魔王らしくないで有名なんだから今更だろ」


「……言い方というものがあるのではないでしょうか?」


「遠回しで言うような表現を避けての発言なんだろ?」


「えぇ……閣下が誕生してから間もなく1年、ルーキー期間とやらが終わりを告げるとのことで、今まで以上に争いは激化すると予測されます。魔王界と人間界の争いは『勝者』が確定するまで続いてしまう流れではないかと思っております。閣下の理想を叶えるためには争いを続けるわけにはいかないのでないのでしょうか?」


「……その通りだ」


「ダンジョンを攻めることを否定しているわけではありません。ですが今後のことを考えるならば早いうちに『魔王戦争』の挑戦状を叩きつけ、魔王界統一に向けて力を示しておくのが良いのではないでしょうか?」


「随分理想が大きくなってないか?」



 全ての生命が平凡に暮らせる世界を創りたいとは思ってるけど、魔王界統一なんてことは思った事すら無い。

 ルジストルの発言に納得したかのように、先ほどまで威圧感をプンプン放っていたポラール達も、ルジストルの意図が理解出来たのか面白そうなものを見る目で俺を見てくる。



「閣下の理想は他魔王の迷宮都市の治め方から見ても、相容れるとは思えません。もちろん四大国とも相容れるとは思えません。ならば人間界も魔王界も統べ、この世の頂点に立った後に『全ての生命が平凡な生涯を送れる国』を築きあげるのが1番かと」


「細かい事ばかり考えずに、敵は正面から打ち破っていけってことか」


「我々は閣下の理想を実現させるために存在しております。人間界と魔王界ともに激化する争いを長引かせてしまうのは理想の妨げでしかないと思います」



 みんなの顔を見ようと、各々の表情や雰囲気を俺なりに観察してみる。

 ハクとデザイアは眠そうだし、どうなっても良いって感じの雰囲気をしているが、他の魔物たちは期待やワクワク、楽しんでいるといった感じがする。


 魔王を謀る悪い奴らがいるみたいだな。



「うちの魔物は主に黙って何かする奴が多くて困るもんだ」


「何のことだか……もしそんな配下が閣下にいたとしても、全ては閣下のためなはずだと思われます」


「さっきにミニ喧嘩も仕組んでたんだな……そこまでするか?」


「ルーキー期間を終え、1人の王としての心の内を聞いておきたいという意見があったからですよご主人様」



 ルジストルから企みを全部聞いてやろうとしたところにポラールが入ってくる。


 『王』としての心の内か……。

 1年経って振り返って見ると、俺はそこまで王らしいことをしていないし、王としての心構えも『海賊』と戦うまでは全然だった。


 俺個人としてはどれだけ頑張って『大罪之烙印クライム・スティグマ』を使用してもSSランクの魔物と対等になれるくらいってのもあって、自分よりも強そうな相手に対して、少し臆病になってしまっていたのかもしれない。



「ルジストルが言いましたが、今の世界は時が経つほど……ご主人様の考える『非凡』に散って行く者が増えてしまいます」


「覚悟も必要、力も必要……そして…俺の正義と理想を通すためにも時間は限られている……か」


「魔王は人間から恐れられています。そしてご主人様は魔王界でも異端とされる考えをされておられる方、少数派の意見は世間では『悪』と判断されがちです」


「己の『正義』を通すには……示し続けることか」


「それだけが全てでは無いですが……閣下の理想を確実に貫くのならば、その道こそが正しきものなのかと」


「そうなのかもな……皆がいるんだ。魔王の頂点……駆け足で目指してみるのも悪くない」



 俺の発言にバビロンや五右衛門が沸いている。

 EXがどうとか…勇者が攻めてくるだとか…誰かと敵対するかなんて細かいことに囚われ続けてもしょうがない。

 

 もしかしたら短いかもしれない生涯、自分が誇れるような生き様を歩んでおきたい。



「『海賊』と戦う時に覚悟は決めた……だけど、俺の理想のためには完璧な魔王ってのは捨てなくちゃな」


「誰もが仲良く手を取り合うことは出来ません。まずは……閣下の理想を全ての者へと示して差し上げましょう」


「勝者だけが生き残れるってのなら……勝ち続けて示してやらないといけないな。『大罪』の魔王道ってのを」


「閣下の下にいる魔物……我々は世界に『王』という存在は閣下のみで良いと思っております」


「勢いに任せてとんでもないことを言うな……だが、理想を実現するために時間が無いと分かったのなら、まずは1カ月の魔王戦争に勝利し、人間界の戦争のことも考えなくちゃな」


「争いの歴史を積み重ねてしまえば、閣下の理想に同意するものは減ってしまうでしょう」


「平等なんて綺麗ごとは言わない……『大罪』のおかげで得た力でねじ伏せて行こうじゃないか」


「ではご主人様…」


「あぁ……まずは『魔王戦争』を挑戦状を『異教悪魔』にすぐにでも叩きつけてやろう。同盟がどれだけいようと関係ない。『罪の牢獄』の力を見せてやろう」


「ご主人様の心構えは定まりました。後は我らが確実に仕事をこなすのみです。喜ぶのは戦争に勝利してからにしましょう。全てはご主人様の理想を実現させるため、各自力を示すのです!」



 ポラールの力強い発言に魔物たちがそれぞれの表現でアピールしてくれている。


 同盟相手がどれだけいようと構わない。依頼が終わった後になるだろうけど、魔王戦争をすることで『星魔元素』が敵になろうと構わない。

 無謀かもしれないけれど、人間界の戦争も、魔王戦争とかいうルールも、俺の理想に反しているもの全部を塗り替えてやる。


 そのためにはこの世の王ってやつになる必要があるのならば、みんなの力を借りて立ち塞がる者を砕いて行こう。



(犠牲無くして勝利する……王道だの魔王らしさなんて気にしてても仕方ない……勝ったもんが正しい世界なら、勝つために全て注ぎ込むまでだ)

 

 

 

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