外伝 『嫉妬』ちゃんは遊ぶ


――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 新米勇者3人が死亡したことに対して、聖国の反応を探ろうと、メルと一緒に聖国方面らしきところから来た冒険者の記憶漁りから帰ってきたところだ。


 メルは本当に凄いと思う。

 ちょっとした細胞であろうが、取り込めばある程度の情報を得られることが出来る。

 何度もお世話になっている能力だけど、改めてその力の便利さに驚かされる。今日も小さくなったメルを乗せて歩いていただけだ。

 『嫉妬エンヴィー』の能力は視線や認識を誘導することが出来る力が多いので、相手が高ランク冒険者でもない限り怪しまれること無く、目を合わせることで感情を読み取り、隙をみて細胞をいただく。


 さすがは『罪の牢獄』が誇る万能魔物様だ。



「ますたーって、頭の中で1人で勝手に完結して、口に出さないこと多い」


「あー、確かにそうかも。ガラクシアにも言われた気がする」


「もっと褒めてほしい♪」


「メルにはいつも助けられているよ。本当に最高の魔物だ」


「やった♪」



 なんだか気恥ずかしい。

 スライム形態のメルが今日手に入れた情報を教えてくれる。膝上でプルプル震えているメルを感じながら、ダンジョンコアの機能にある、メモ機能とやらを使用して記録していく。


 凄く便利な機能で、基本的には気になったことに対してはメモるように癖をつけている。記憶力が悪く、よく物忘れもしてしまう俺からすればありがたい機能だ。



「ショックを受けているのは地方の民ばかりで、聖都ではそこまで大ごとになっていない。最近の勇者がやられた後はこんな感じってことか……」


「長年勇者をやってきた者や、かなり人気勇者じゃない限りは、そこまで騒ぐことじゃないんだって」


「勇者って何なんだろうな」


「……敵?」


「いや……魔王側からじゃなくて、聖国から見て」


「便利屋さん?」


「なるほどな…」



 メルの意見には納得できる部分もある。

 ブレイブスキルという凄まじい力を授けられ、1人追放されただか、脱走したとかいう勇者以外は、歴史を見ても、誰もが忠実に魔王討伐活動をメインとして生きている。

 勇者にどうしてもなりたかったのなら理解できるが、誰しもそうだったわけじゃないと思う。でも勇者ってのは「そういうもんだ」って受け入れてしまった結果、命をかけて行動せざる終えないんじゃなかったりするんじゃないだろうか?


 そして魔王を討伐すれば称えられるが、死ねばそこまで悲しまれることも無い。



「もしそうだとしたら人間は怖いもんだな」


「また1人で完結してるよ」


「うっ……ごめん、癖だな完全に」


「私はますたーの内側が読めるからいいんだけどね♪」


「相性抜群だな」


「うん♪」



 膝上のメルを撫でると、さらにプルプルと嬉しそうに震えるメル。

 今思えば、『スライム』っていうGランク魔物が、こんなにも凄い魔物になるって思うと驚きなもんだ。

 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の中でも阿修羅と並んで最弱クラスから最強の魔物へと姿を変えてくれた。


 何かと使い勝手の良い能力をたくさん持っていてくれたから、何かしら働いてもらうことが多くて大変だろうけど、今後も頼ることが多くなってしまいそうだ。



「また1人で完結してるー」


「これからも頼りにしてるよ」


「はーい♪」



 少しおちょくられている気がしたので、強めに撫で上げてやる。とても嬉しそうだ。

 イデアやレーラズも便利な能力を持ってくれているんだけど、レーラズは果樹園から出たがらないし、イデアは方向性が違うし、ダンジョンを俺以上に上手く運営できるから、なんとも仕事を増やしにくい。



「私はますたーが頼ってくれるなら、いつでも頑張るよ」


「なんて良い子なんだ…涙が出てくる」


「ますたー以外のことは聞きたくないけど」


「なんて極端なんだ…涙が出てくる」


「ポラールだけは怖いから言うこと聞くかも」


「なんて鬼なんだ…涙が出てくる」


「だってポラール」


「ウソだろッ!!??」



 メルの言葉に勢いよく後ろを振り返ってしまう。

 ポラールの姿は見当たらず、膝上のメルがプルプル震えながら笑っている。

 メルの主、魔王である俺をこんな風におちょくるなんて、なんて悪い奴なんだ。



「ますたーがなんでもかんでも頼んで来るから、ちょっとだけストレス発散♪」


「……そう言われると仕方ない」


「ますたー優しい♪」


「優しさと何時間でも考え事出来るのが、俺の長所かもな」


「自分で優しいって言うところ、ますたーらしい」


「今日のメルは厳しいな」


「2人っきりだから嬉しくなっちゃった♪」


「……そう言われると、何も言えないんだが……」



 今日は情報漁りに付き合ってもらったし、こういう時間くらいは好きにさせておく。

 楽しんでくれる分には敵わないし、やりたいことの邪魔をされている訳じゃないから、やりとりを楽しむことにする。


 新米勇者死亡の事件は、さすがに広まるのは速かったけれど、人々の意見は先ほど通りだ。新米勇者3人の名前を知らない冒険者だっていたぐらいだから、勇者でも新米ってのは名前すら広まっていない悲しい存在なんだな。

 それでも命がけで魔王を倒すことで勇者という存在の威光を保とうとする。



「なんか空しい存在だな」


「そういう風に思われるために仕込まれてるのかも?」


「なんのために?」


「勇者に自分の価値を上げさせることをも目的とさせるため」


「……一理あるな」


「勝手に頑張らせる環境を作る……これも上手なやり方」


「勇者が勝手に頑張る環境……確かにその通りなのかもな」



 勇者という存在であることにメリットはいくつか存在している。

 だけど、魔王と戦うことを考えれば僅かなものに感じるようなものへと、わざと調整されているのかもしれない。

 環境に飢えさせること、名を上げることのメリットを勇者の目の前にぶら下げておくこと、大義名分だけは明確にしてやること、これを調整して作り出せているのならば、凄まじい策略家が勇者の裏には潜んでいることになる。



「人間にも歴史がある」


「その環境を整える時間はあったってことか…」


「勇者とますたーが戦うのも、当たり前だと思い込まされてるだけかも?」


「全部が疑わしくなってきちゃうな」


「ますたーの癖が出ちゃうね」



 またもやメルにからかわれてしまう。

 確かに、すぐに考え込んで1人で完結しがちだけども、なかなか変えられないんだよな……。何故か染みついてしまっている癖、どうにかしないといけないのだろうか?



「ますたーの癖が治るようにいつでも協力するよ♪」


「なんて良い子なんだ……涙が出てくる」


「たくさん揶揄うけどね♪」


「なんで小悪魔なんだ……涙が出てくる」


「ポラールにも手伝ってもらったら?」


「なんて恐ろしい提案なんだ……涙が出てくる」


「だってポラール」


「え?」


「恐ろしいだなんて、とんでもない……優しく丁寧に教えて差し上げますよ♪」


「ヒエッ……」

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