外伝 『無頼』と鍛錬


――『罪の牢獄』 ダンジョンエリア 闘技場



 俺は今、魔王個人としての戦闘力アップを図るためにもアヴァロン相手に色々試させてもらっている。

 基本的に使える力は『大罪』を付与するだけだが、身体捌きや格闘技くらいは覚えておいた方が良いと思ったため、アヴァロンには手加減して剣を振ってもらっている。


 表情も分からなければ、淡々と大剣を振り回しているので怖いのが正直なところだ。



「……1時間やるだけでも厳しいな」



 開始から1時間程が経過したところで一度手を止めてもらう。

 手加減してくれているアヴァロンから避けたり、隙を観察するのを1時間続けただけで汗だくでクタクタだ。


 巨体な鎧だが素早く、避ける先々に置かれるように剣撃が待ち構えているような感覚に陥ってしまうアヴァロンの攻撃。これでいて遠距離技が強いっていうんだから馬鹿げた話だ。


 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の中ではLvが低いってのもあって、他の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』能力を受けてしまったり、そもそも『無頼ソリトゥス』の大罪が誰かと戦うことをマイナスとして捉える力だから仕方ない話だが、アヴァロンは基本的にはダンジョンを護るために黙って構えてくれている。



「アヴァロンがいるから自由に動き回れるんだよな」



 ぶっちゃけ魔王の俺よりもダンジョンを守護する王って感じがする。

 他の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』と絡んでいる姿もあまり見ないが、誘われれば付き合っているようだし、俺が決めた食事会の時は何も食べずとも黙って参加してくれている。

 その姿を他の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』は尊敬しているみたいなようで、アヴァロンがダンジョンに残っていれば他の面子はどのようでも良いと思っているくらいだ。



「ちなみにだが、まだ闘技場でいいのか?」



 『火を以って毒を制する』の能力上、エリアを燃え続けるような環境にすれば、さらにアヴァロンは輝くと思ったのだが、何度提案しても断られてしまう。

 闘技場というエリアに思い入れがあるんだと思うけど、意外と頑固者でもあるのがアヴァロンなんだよなぁ…。


 そんなやり取りをしていたらポラールが様子を見に来た。



「汗だくですが大丈夫ですか? ご主人様」


「あぁ……なんとかアヴァロン先生に協力してもらっているよ」


「どうですかアヴァロン? ご主人様の動きは?」



 しっかりとアヴァロンが首を横に振る。

 少しくらい優しい評価をしてほしいもんだが、まだまだ動きが甘いっていうことだろうな。


 なんだかんだ『枢要悪の祭典クライム・アルマ』は正直者の集まりなのでやりやすい。アヴァロンなんかも頑固だけど無理なことはしないし、判断力も優れているので助かっている。



「アヴァロンに勝てるようになったら、次の訓練相手に困ってしまいますね」


「そんな日は永遠に来ないような気がするんだが……」


「アヴァロンは自身の王には自分を超えてほしいと思っているようですよ?」


「『大罪』のランクが上がれば、俺個人も前線に出られるようになるのかもしれないな」


「私もアヴァロンも、そんな危険なことをさせるつもりはありませんが…」


「そいつはそうだが、やっぱり魔王ってんだから俺自身も強くなりたいもんだ」



 俺だってアヴァロンの『無限彼方まで届く雷霆ケラノウス・ヤケレ』みたいなカッコいい技を使って、敵を一掃してみたいと思うことは正直ある。

 最古の魔王様たちみたいに自身もある程度強く、配下がとんでもなく強い魔王というのもいるが、魔王個人がとんでもなく強いが故にダンジョンランクが高い魔王も存在しているようなので正直憧れている。



「ちなみにポラールだったらアヴァロンとどう戦うんだ?」


「互いに能力はバレていますからね。まずは魔法12種で鎧を剥いでしまいますかね」



 アヴァロンも認める『罪の牢獄』最強であるポラール。

 さすがにアヴァロンの能力はバレてしまっていては効果を発揮しにくいだろうが、ステータスではアヴァロンに分があると見える。

 だけど手数はポラールの方が圧倒的に上なようで、魔法で剥がして地獄巡りをさせていく戦法をとるようだ。


 さすがのポラールでも接近戦は挑まないようなので安心した。

 1人になっている時のアヴァロンのステータスは理解の範疇を超えてくるからな。



「能力の駆け引きとやらには憧れるものがあるな」


「ご主人様も『大罪』付与という立派な力があるではないですか」


「魔力を付与するのって近づかないと厳しいんだよな~、俺の魔力を付与した物を投げるとかでもいいんだけど、それはそれでバレるだろ?」



 『原罪之欲シン・ディザイア』を使う分には良いんだけど、やはり敵に使うには相手が弱くないと使いにくいのが現状だ。

 そういえばアヴァロンの『原罪之欲シン・ディザイア』ってなんだったかな?



「アヴァロンの『原罪之欲シン・ディザイア』の力ってどんなのだったっけ?」


「『超重力パンドラス』ですよ、ご主人様」


「あっ! そうそうそれだ!」



 アヴァロンの『原罪之欲シン・ディザイア』、それは『超重力パンドラス』。

 自身以外の半径2㎞に存在する魔力の宿るもの全ての地面に向けての引力を数倍にするという、これまた無頼の騎士様らしき、個人戦専用技みたいな性能をした力だ。

 人間だろうが魔物だろうが、魔法だろうが無差別でアヴァロン以外の重力の感じ方を数倍に引き上げて、地面と全身挨拶をかますのを強制してくるような凶悪な技だった。


 練習でやってみたら俺の身体が地面とご挨拶しながらめり込んでしまうという嫌な記憶すぎて忘れてた。



「よく覚えてるなポラール」


「魔物のリーダーですから当然です」



 『原罪之欲シン・ディザイア』はそれぞれの『大罪』能力の派生であったり相性抜群だったりと素晴らしい力ではあるが、やはり周囲を気にしない大技でもあるのが難しいところだ。



「アヴァロンを越えて俺の所まで来る冒険者は、なかなかいないだろうな」



 話を続けていると、アヴァロンがそろそろ再開するぞとばかりに剣と盾を構えてくる。

 こうやって真面目なところもアヴァロンの美点だ。忠実で真面目なのは良いが、どうにか話を伸ばして少しでも回復しなければ体力が持たない。

 こういうとき体力自動回復系統の能力があればいいのにと思ってしまう。



「……やるか」



 アヴァロンがやると言うからには、俺が動ける状態と判断してくれているのであろう。

 怠けてばかりいては失望させてしまうかもしれないので、ここは王として成長っぷりを見せてやらないと。



「私は失礼しますね。…アヴァロン、頼みますね」



 ポラールは本当に様子を見に来ただけだったようで「地獄の門」へと帰っていった。

 アヴァロンが殺気を少し向けてくる。

 こうやってEXランクの魔物を相手に鍛錬できるのも幸せ者かもしれないな。その分強くならないと!



「よし……行くぞ!」



 この後頑張りすぎて、魔王なのに筋肉痛という悲しい状態になったのは内緒の話だ。

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