第18話 『無慈悲』の刃
「ますたー、お見送りはしないの?」
「さすがにそんなことまでやるのは、魔王の仕事じゃないだろう」
「そっかー」
コアルームでアークから離れていくための最終確認をしている四大学園からの7人を見る。
最後に色々話が出来たのを含めて、本当に良い経験になった。この2週間で色々と先に進むことが出来たことに関して、個人的には凄く感謝している。
そして願わくば、将来はアークに来て共に過ごしてくれることを祈っている。
「ますたー、街のすぐ外から仮面野郎の気配が出てきたよ」
「へぇ……」
街の外だからと言って2回目が通用すると思ったのかね?
メルとレーラズに頼んで、アークよりも少し外にも「星根」を広げてもらったので、前と同じような展開にはさせない、それにしても前にも使用していた転移ポイントを使おうだなんて、さすが油断し過ぎじゃないか?
「ウロボロスッ! 頼む!」
俺は虚空に向けて叫ぶ。
時空間系統を使う相手にはウロボロスが一番上手くやってくれる。
次は確実に逃さない。『
「メル……ここで他の奴が来るかもしれないから、引き続き警戒して、何かあればウロボロスと連携をとってくれ」
「はーい♪」
俺はコアルームで優雅にお昼寝している最強の魔物を起こしに行く。
可愛らしいウサ耳がゆったりと動いている。人間界で人気の『ダメにするソファー』とやらを2つ使って熟睡しているハクに優しめに声をかける。
「どこかに今すぐ、俺とお外へデートしてくれる可愛い魔物はいないか?」
――バサッ! ムギュッ!
「僕が付き合ってあげるよ! さぁ行こうマスター♪」
まさしく神速とも呼べるようは速さでハクが跳び付いてくる。
もちろんこういって誘うときは何かやりたいことをやってからのデートなので、とりあえず戦闘準備をしてくれるのがハクの良いところだ。
状況をハクに伝えて、ウロボロスが用意してくれた場所へと転移してもらうことにした。
◇
――迷宮都市アーク 街外 正門付近
俺とハクがひっそりと転移してくると、大森林の木々の影から、見たことのある黒いローブがアークの方面を覗いていた。
アークまで2㎞ほど離れている。少しだけアークから距離をとったみたいだな。
まだ7人が出発するまで40分程かかりそうだが、随分頑張って待っている姿を見ると、少し健気に思えてくるが、ここでゲームオーバーだ。
『
「あいつを綺麗に斬ったらデートしてくれるの?」
「あぁ……この世から消すのは無しな」
「とっとと終わらせてデートする♪ 『
――ゴウッッ!!
ハクが刀を握った。
その瞬間、俺は感じていないが、周囲の空気が一気に重くなったような雰囲気になる。
ハクの闘気が『
もはや立つことすら出来ないだろう。ハクが手加減しているから呼吸は出来るだろうが、相当な圧迫感に襲われているのは確かだ。
ただのピンポイント脅し技とは思えない速さと威力……さすがだ。
「話を聞かなくてもいいの?」
「あぁ……確かに……いいか?」
「うん♪ 速く終わらせてデートだからね」
「分かってるよ」
ハクが放つ闘気を抑えてくれる。
俺たちは苦しんでいる『
魂をどうにかして逃げたり、他の器に入れておく能力も、今は強制解除されて、使用不可状態になっているはず、この状態で仕留めれば確実のはず。
「この前は上手に逃げたな」
「ぐぅ……何故…貴様が……街の外だぞ?」
「そんな口調だったっけ? 2度も同じことしてアークの客人を誘拐しようなんて真似を許す訳ないだろ?」
「な、何故……能力が……使用出来ない…」
「僕と同じ土俵に立とうなんて考えないでよ……そんなゴチャゴチャした能力に頼ってる時点で僕の前に立つ資格なんて無いのに」
自分はとんでもない能力を使っているのに、この言いよう……まさしく『傲慢』って感じなんだけど、ハクを超えるステータスの存在なんて現れることは無いだろうから、この傲慢さは崩されそうにないな。
さすがにどの能力も発動しないようで焦っているようだ。
自分の能力が使えれば、どんな相手でもある程度仕事が出来る自信があったんだろう。実際、前会ったときは見事に逃げられてしまったから、その自信も間違ってはいない。
けど、さすがに短期間で2回も同じ作戦は甘すぎる。
「きっと、分裂させてどっかに潜ませている魂があったんだろうけど……残念だったな。ゲームオーバーだ」
「こ…こんなの! 聞いてない!?」
――バシュッ! ゴトッ!
「大して面白い話はしなかったね」
「あぁ……とにかく助かったよハク、この死体はウロボロスに回収してもらおう」
「じゃ、じゃぁ……その…約束通り?」
「2人で大森林散歩でも行くか!」
「やったー♪ 行こう行こう♪」
ハクの神速の一閃は、『
あまりの綺麗さに死んだことにも遅れて気付いてしまったんだろう。ゴロゴロ転がる首の目がキョロキョロ動いている。
そんなことを気にもすることなくハクに抱き着かれたので、残りはウロボロスに申し訳ないがお願いして、少しの間、約束通りハクとのデートへと行く。
アーク近くの大森林を散歩するだけで喜んでくれるんだから、なんというか可愛いすぎて申し訳なくなってくる。
ハクが居れば襲い掛かる魔物なんて存在しなくなるから、のんびりと散歩を楽しめるので、けっこうハクとの散歩は気に入っている。
「あんな奴ら僕に任せちゃえばすぐ終わるのに」
「しっかり相手を見定めないと、毎日ゆっくりする間もなくちょっかいかけられるかもしれないだろ?」
「そういうもんなんだ。全部滅ぼしちゃえば悩み必要ないのに♪」
「物騒なことを言わない言わない」
「ひゃん♪」
かなりの極論を突き付けてくるハクの頭を少し乱暴めに撫でてみる。
嬉しそうに暴れるハクを見て、なんだかホッとする。
正直『
メルにイデア、それにデザイアが仮面野郎を解析して、新しい情報を得てくれるだろう。その情報次第では新しい動きをすることを想定しなくちゃいけない。
「魔王ってのも忙しいもんだな」
「ぼ、僕が楽にしてあげるから、たくさん仕事するよ!」
「本当に可愛い奴めー!」
「か、髪がボサボサになっちゃうよ♪」
とにかく2人だけの時は突き抜けて可愛いハクを愛でながら、こういった平和な時間を楽しむ。
なかなか魔物の数が増えてから、各々と向き合う時間が少しずつ減ってきてしまっているから、こうやって2人でいられる時間が貴重になっている。
魔物の本音を聞いて、『罪の牢獄』で頑張ってもらいやすいようにダンジョンを作り変える。これも魔王の大事な仕事の1つだと思っている。
最近ではフェンリルが新たなにEXランクと言う『
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