第17話 『不変』の想い


 正直、ルジストルには任せてみたものの、どんな話をするのか気になったのでコアルームで覗いていたら、俺が出たほうが速く終わりそうだったから来てみたが、けっこう重苦しい空気になっちゃったな。


 でも、せっかく勇気を持って訪ねてきたのならば、誠意を持って応えてやらないと失礼だからな。



「人間の歴史を否定するつもりは無いが、俺から見れば、築き上げてきた歴史の結果が今ならば、何故人間は何時までも争う? まだ歴史を作っている最中? ならば道中で犠牲になる未来ある命の犠牲は仕方ない? 戦争道具のために狩られる魔物は仕方ない? 戦争税とかいう無駄なものを支払えず起こす悲劇は仕方ないと言うのか?」


「……それが歴史なのでは? 犠牲無くして平和は訪れないと私は考えます」



 さすが貴族の娘だ。

 俺の無駄に長い言葉にもしっかりと返答してきている。もし世界中の貴族がこうであるならば、少しは早く人間界とやらは平和になるんだろうけどな。



「その犠牲は何時まで続く? もし人間を襲う魔物に困っているならば、俺が全力で世界中の魔物を統治しよう。20年で世界中の魔を俺が支配するとして、人間が皆同じ方向を向けるのは何時になる?」


「そ、それは……」


「随分大胆な発言ですね閣下」


「その言葉忘れませんからね、ソウイチ様」


「空気を読め2人とも……」



 今の発言は20年で魔王のトップに立つと宣言したような感じに聞こえたんだろう。別に全ての魔王を倒せるだなんて思っていないけれど、どんな手を使ってでも速く最強の候補に挙がるくらいにはなるつもりだ。

 最古の魔王様たちは世界で起こることに関して、あまり関心が無さそうなので、俺がある程度やらせてもらっても気にしないだろう。みんな自身に危害があるかどうかで判断している感じだし、俺の理想に関してはアクィナスさんとリンさんは少なくとも否定はしないでくれたからな。


 立ち塞がる魔王は全部打ち破っていく覚悟なんてのは、ミルドレッドを失ったときに立ててある。



「果てしないものになるのだろう? 四大国が各々の欲のために小競り合いを続ける、その内大きな戦争にもなるだろう。もしそうなったらどれくらいの理不尽が世界中に訪れる?」


「各国の信念同士のぶつかり合いなのです。……しかし、その先には世界に平和が訪れると信じて皆耐えています」


「王都の隅で飢え死にしそうになっている子どもも待っているのか?」


「それは……」


「犠牲が出てしまうのは俺にも分かる。だが長すぎるし多すぎる。それに人間たちの争いの先に亜人や魔族の平和があるだなんて思えん。あるのは貴族たちがさらに富を得ることが出来て、さらに大きな貧富の差を生むだけだ」



 領地を広くしたい。全てを支配したい。

 別にそう考えるのは結構、悪いがその先のことをまともに考えている人間は、俺が感じる限り少ないように感じる。

 もし多いなら、こんな長い事小競り合いなんてしてないだろう。続けるだけ誰かが死ぬだけなのだから。



「そんなのを待ってやるほど俺は狂っていない。人間が力を持って歴史を手にしたように……俺も力を持って歴史を壊してやろう。全ての生が非凡ではなく平凡に暮らす選択肢のある世界、理不尽の無き世を……俺が築いてやるさ」


「結局は魔王……そういうことなんだな」


「俺は魔王だからな。だが人間を差別したりはしない。だからこそ共に来てくれる人間だっている。君の元同僚のようにな」



 俺の言葉にルーク君が拳を握りしめるのを感じる。

 まぁ…ルーク君から見れば、カノンとアルバスは交換条件、ソラに関しては誘導尋問で仲間に引き込んだ奴にしか見えないだろうからな。

 だけど裏切らずにしっかりやってくれているのは、俺の考えをしっかり分かって支持してくれているからだと思っている。



「人間同士が争って生まれる犠牲、その何倍も少ない犠牲で統治することが出来ると自信を持って言える。覚悟もあるさ……じゃなきゃ学園から君たちのような未来のある若人を来させたりはしない」



 返す言葉もないって感じかな?

 俺なりの覚悟を伝えてみたつもりだが、思ったより効果はあったみたいだ。元々アークに興味を持ってくれていた3人がどういう風に思うかどうか分からないが、今語ったことを曲げるつもりはない。


 ぶっちゃけ20年で出来るかは怪しいところだが、ルーキーとしての1年で、ここまでやれているから、進み続ければ行けそうな気がしている。

 最古の魔王様みたいに3000年する頃には平和な世界で隠居していたい。



「結局やろうとしているのは力による支配だ。俺は魔王……自分の力を活かして世界を変えるには、この方法しか無いと考えている。立ちはだかる者は、同じ魔王だろうが何だろうが等しく斬って進む」



 これ以上話をしても意味は無さそうだな。

 俺の考えは伝わっただろうから、ここらへんで切り上げるとするか。彼らは今日でアークを離れて、四大学園へと帰る。

 彼らが来ていた2週間は、とても面白い時間だった。元勇者から良い話も聞けたし、俺が倒すべき相手の1体も分かったから、本当に来てくれてよかった。



「こんなところだろう。後は好きにしてくれルジストル」


「荒らすだけ荒らして帰るとは……閣下は相変わらずですな」


「他の魔王様とは違うらしいからな……仕方ない」



 自分でも意味が分からないことをルジストルに伝えて、俺は会議室を出た。

 もう1人会っておくべき人間がいるな。メルに聞いて場所を教えてもらおう。








――迷宮都市アーク 農業区域



 メルに教えてもらって元勇者の居場所を教えてもらった。

 何やらエルちゃんと日向ぼっこをしているようで、エルちゃんはお休み中らしい。魔王の近くで、元勇者がお昼寝ってのも面白い話だな。


 そういえば『破滅の予言』とやらで全てが滅びるみたいな予言をしていたな。それについても本当にならば忘れない程度に覚えておかないと行けない。


 ゆったりと休んでいる元勇者と目が合う。



「……平和なものだろう? 別に悪さをしなければアークに居てくれていいんだぞ?」


「……魔王は暇なのか?」


「これも立派な将来を見据えた活動だ」


「今回の件は感謝している。その申し出はありがたいが、俺はエルともう少し世界を見てみることにしたんだ。未来を変えるためにも……」


「なるほど……決意は固そうだな」



 そういえば「プレイヤー」とは違う世界線の地球とやらから来たとか言っていた元勇者、その世界でも魔物のような存在がいるとのことだが、また別世界の景色を楽しんでみたくなったんだろうか? 逆に俺は、その魔物のいる地球とやらが気になる。


 全ての人が魔物を認知しているわけではなく、『退魔師』とやらが人々を守るために活動している世界。現役勇者である坂神雫は地球でも優秀な『退魔師』だったと聞けば、この活躍も納得できなくもない。


 だからと言って『空』の魔王とラムザさんをやった件に関して、見過ごすつもりはない。だがアイシャの方も勇者はいずれぶつかりたいって思っていたので、もしかしたら先を越されてしまうかもしれない。



「そうか……敵にならないことを祈っておいた方がいいのか?」


「俺は魔王討伐に興味なんてない。まずはエルを狙う連中を退けながら世界を巡るだけだ」


「なら道中の安全を祈っておくよ」



 これは勘の話だけど、元勇者である恭弥、そしてエルにはまた何かしらで関わり合うような気がしている。

 敵なのか味方なのかは分からないけれど、そんな気がする。


 もし勇者だった者を殺したときに得られることがあるのなら……容赦なく戦わせてもらうことにしよう。マーキングはしてあるからな…。


 俺は30分程の話を楽しんでから『罪の牢獄』へと帰った。



 

 

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