第15話 頼りになる『同盟』


――『焔輪城ホムラ』 居住区 会議室



 四大学園の学生たちが研修を終えるまで残り2日となった今日だが、アイシャに俺が倒す相手がまずは判明したとメッセージを送ったら、話を聞きたいとのことでダンジョンにお邪魔させてもらっている。


 ちなみに護衛には阿修羅が着いてきてくれている。



「『異教悪魔の魔王』ですか……」


「俺でも聞いたことある魔王だ」


「公国にいる魔王の中でも上位5体に入る方ですね」



 事前にミルドレッドの仇で調べていて辿り着いた相手であると伝えていたのもあってか、アイシャも気にしてくれているのが伝わる。

 ラムザさんの件もあり、互いに大事な師匠を失った立場でもある。きっと『水の魔王』との魔王戦争で俺が協力したのもあって気合を入れてくれているんだろう。


 相手が上級魔王というのもあり、さすがに心配をしてくれているようだ。



「どこまでの戦力を保持しているか気になりますね。私たちでは想像出来ないほどのDEを保持していると考えたほうがいいと思います」


「魔王戦争で正面からやるのは面倒だから避けたいところなんだよな……対策してないなら不意打ち一撃でやれる可能性はあるけど、さすがに上級魔王が時空間系統スキルに対策してないわけなからなぁ……」



 特にハクなんかが出ると、他の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』にも多大なデメリットが出てしまう。

 魔王戦争で狭い戦場なんかになってしまうと、こちらが不利になってしまう可能性が大きくなってしまうし、相手側がDEを使って次々と魔物を生み出せてしまうのが厄介だ。



「私は魔王同士の戦いならば、本来は魔王戦争をするのが正しいと思いますが、ソウイチの考えも納得できます」


「まぁ結局、『枢要悪の祭典クライム・アルマ』を絞って攻めることになるから魔王戦争やるのと変わらないかもしれないけどな……何をするにしても『罪の牢獄』の守りにも戦力を置いておかなきゃいけないし」



 魔王戦争は他の魔王にも情報が色々とバレてしまうのが嫌なところなんだよな~。報酬は確かに魅力的だけど、俺からすれば、俺が『異教悪魔の魔王』と戦うという事実、『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の戦い方がバレてしまうというのはデメリットにしかならない。

 アイシャが言うように正々堂々という考えからはかけ離れた戦い方だとは思うが、正直勝ちさえすれば手段を選んでいられないってのが俺の考えだ。


 相手は圧倒的な戦力を保有しているだろうし、すでに俺が『八虐のユートピア』に接触し、敵対していることが伝えられているのかもしれない。同盟相手も多いだろうから、ルーキー期間の間にどうにかしなければ不味い気がする。



「まったく無茶な魔王です。協力はもちろんしますが、私の方にも仕掛けてきそうですね」


「申し訳ない。まさか魂だけ自由に移動できるなんて思わなかっんだよ」


「その人間が誘拐された件も、ソウイチを釣りだすためと考えたほうがいいかもしれませんよ?」


「……なるほど」



 エルちゃん誘拐事件は俺を敵対対象だと明確にするための行為だったという訳か、そう考えるとまんまと敵の誘いに乗せられてしまったということか。

 俺の方もなんとか『異教悪魔』というところまで分かったから、なんとか俺だけ知られるという事態は避けれたって訳か。



「色々分からないな。俺を狙っていたのか、『八虐のユートピア』に活動させるのを優先したのか……」


「ソウイチという存在は確実に邪魔という理解をされてしまったからには腹をくくるしかありませんね」


「もちろん……大事な師匠の仇でもあるんだ。負けるわけにはいかない」


「少し前の私を見ているようですね」



 『八虐のユートピア』を抱えて、魔王戦争じゃない方法でも自在に攻めてこられる『異教悪魔』に対して、どうやって対策をしていくのか? エルちゃんとカノンを狙い続けるのだろうか? 2人がいなければ俺は眼中に無いのだろうか?

 まず、ミルドレッドを狙ったのにはどんな訳があるんだろうか?


 ずっと悩み続けてしまう俺の様子を見かねてか、アイシャが優しく声をかけてくれる。



「まずは『異教悪魔』を倒すまでの明確な算段、それと自身の街を護るための防衛を徹底的に整えたほうがいいですね。どんな手段を取ってくるか分かりませんから」


「ルーキー期間も残り1/4まで来ているからな」


「私たちは悪い意味で目立っていましたからね。ルーキー期間が終わり次第仕掛けられる可能性は十分あります」


「とにかく強くならないとな」


「えぇ……『異教悪魔の魔王』に勝つことが出来れば。ソウイチに挑んで来る相手は少なくなるでしょうね」


「SSランクの魔物ごと燃やし尽くしたアイシャに挑む相手も少なそうだな。それこそ上級魔王くらいだ」



 互いにSランク魔王に喧嘩を売って、魔王戦争で打倒してきたルーキーだ。俺たちの活躍を良く思わない魔王はたくさんいると思う。特に俺なんか『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号なんて獲得してしまったから、それを目当てで挑んで来る魔王がいそうだ。


 同じルーキーにも俺たちをよく思わない存在ってのは多いだろう。実力としては俺とアイシャが飛び抜けているので、魔王戦争を正面から仕掛けてくることは少ないだろうが、世の中戦い方なんでいくらでもあるから構えておかないといけない。



「ルーキー同士の魔王戦争も、期間の終わりが見えてきて増えてきたな」


「戦わずに死ぬというような恥を晒す訳にはいかないでしょうからね」


「少し上からの発言になっちゃうが、俺たちだけランクが飛び抜けているのも変な話だよな」


「実力と努力、それと少しの運でしょうかね。疑っていても何にもなりませんよ。実力を手にした魔王として歩むのみです」



 魔王の実力を上げるためには様々なやり方がある。

 魔名ランクを上げることだったり、新たな魔名を魔王戦争やガチャ、ダンジョン侵略で手にすること、魔物を配合したり単純に増やしたり、ダンジョンを拡張することなどやれることは多い。


 この中でもガチャ要素は、俺みたいな激レアケースを除けば、不確定要素なので完全に運だ。

 アイシャなんかは自分に合いそうなピックアップまで待ち続けるタイプなようで、堅実に戦力を伸ばすタイプのようだ。



「ちなみに『焔天』になってから、配合なんかはしてみたりしたのか?」


「えぇ……真名を授けることが出来る回数も増えたのでなんとかなりそうです」



 SSランクの魔名へと成長したアイシャの魔名『焔天』。

 火系統の魔名の中でも最高峰の魔名になり、アイシャより強い、火の魔名は『魔王八獄傑パンデモニウム』である『神炎の魔王メビウス』がEXランクとして君臨している。

 もちろん同じSSランクの火系統魔名も存在するが、アイシャは出来れば火系統の魔名の頂点を最初の目標にしようとしているそうだ。



「私もルーキー期間が終わるまでは力を蓄えます。『異教悪魔』の件で出来ることがあれば連絡してください」


「本当に頼りになるよ。まずは相手がどれだけ同盟相手がいるかを調べてみるよ」


「上級魔王ともなれば、上級魔王同士の同盟になると思われますからね」


「下についている奴の相手をしている余裕があるといいんだけどな」



 攻めるのならば1度で終わらせたい。

 日付を変えれば逆にアークに侵攻される可能性がある。俺たちにはウロボロスがいるからなんて考えているが、ウロボロスと同じ能力を持つ魔物が相手側にいた場合は時間なんて関係なく攻めてくるから、1日で戦いを終わらせるように作戦を練らなくちゃいけない。


 『八虐のユートピア』の大半はカノンたちが片付けてくれるのが1番楽だが、『エリファス』以外にも拠点があるそうなので、まずは『異教悪魔』の同盟相手を調べて、きっとその中に他の拠点があるだろうから、ビエルサに調べてもらっているが、メルやデザイアにも手伝ってもらうとしよう。



「何はともあれ忙しくなりそうですね。『異教悪魔』にばかり捉われないように気を付けてくださいね」


「アイシャの優しさに涙が出そうだ」


「そんな冗談を言えるなら大丈夫そうですね」



 とんでもなく冷静なアイシャにアドバイスを貰いながら、ちょっとした愚痴を言い合って、楽しい話合いは2時間ほどで終わり、俺はダンジョンへと戻ることにした。

 最奥で動いている奴は一体誰なのかを考えながら…。

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