第14話 新たな『目標』
――迷宮都市アーク 商業区域 とある宿
四大学園から迷宮都市アークにやってきて11日目の夜。
今日の研修や魔物狩りを終えて、宿に戻ってきた7人は夕食を食べ終えて、休憩所で談話をしている最中だった。エルは疲れたのか恭弥の膝枕で眠ってしまっている。
エルが『八虐のユートピア』の『
ルークが、あの事件から自分を含めて、みんなの様子が変わったのを感じており、聞いても良かったのだが少し落ち着いてからにした方が良いと感じて、もうすぐ研修が終わる今日聞いてみようと思っていたようだ。
「改めてアークを見て周ったけど……やっぱり他の街と違い過ぎる」
「私も街の病院で研修させてもらっているけど……誰にでも医療の保証、それに最新の技術提供がされているの見ると……迷宮都市とは思えないよ……凄いとこだなって思うな」
パティはアークの病院で研修を本格的に受けさせてもらうことに自分からお願いをし、回復魔法が使用出来る分、医療の前線で色々経験することが出来ていた。
多くの種族が何の区別もされずに最新医療を受けることが保証されており、様々な種族に合わせられた制度も存在しているのが当たり前なアークは、明らかに四大国では考えられないやり方ではあるので戸惑ったが、誰もが笑顔で病院関係者にお礼を言って去って行く姿を見て、パティは強く心を動かされていた。
貧富の差は多少はあるが、アークが掲げている「皆が仲良く生きる街」がしっかりと体現されていると病院という限定された空間でも実感出来たパティ。
理不尽のない、誰もが平凡な暮らしをして、平和に暮らして歳を重ねていく街の姿に、パティは今まで感じたことの無いほどの魅力を感じていた。
「魔王が治めている……本当にそうとは思えないよ」
「その魔王に……私たちは助けられた。それでも私は……信じることはできないわ」
王国貴族の一員でもあるシェイラは、魔王が治める街という事実を知ったことで何を信じればいいのか分からなくなってしまったようだ。
アークで暮らしている民は、誰もが平和に楽しんでいる。将来は王国騎士になり、各国からの侵攻を防ぎ、王国民の笑顔を守りたいという想いの強かったシェイラは、圧倒的力に守られ、襲撃することも襲撃されることもなく、種族間の争いもほとんど無いアーク、平和の理想な気がしてしまっていたのだ。
しかし、人間の常識にあるのは『魔王』という存在は魔物を操り人を殺めるという認識、人の味方だなんて考えなんてまったく無かったシェイラにとって、何事も無かったかのように、魔王と話をしていたカノンたちも、魔王の庇護下で暮らしているアークの住人の気持ちもよく分からなかった。
だからこその混乱の日々なのである。
「俺的には冒険者を目指すなら良い場所だな。ダンジョンもあって、大森林っていう狩場も目の前にある。EXランクの冒険者が3人も拠点にしてるおかげか、人が集まるし、娯楽施設も多い。ここの魔王を倒すのは生涯無理そうだが、他のダンジョンをクリアして名声を広めればいいからな」
ナッシュの考えは現実的だった。
冒険者としてどれだけ恵まれた環境であるか否か、アークには高ランク冒険者、それもEXランクと言う最高ランクの冒険者が3人も所属している。その影響は大きいだろう。
一緒に活動するチャンスもあれば、他の高ランク冒険者と出会うキッカケになる可能性にもなる。商人も集まってどんどん環境は良くなる。
そしてアークには鉱山がある関係で売っている武具の質が非常に良い、ナッシュとすれば、辺境に近いところを除けば最高の街という認識のようだ。
「私もナッシュと似た考えですが……『罪の牢獄』を攻略出来る気はしませんので、拠点にすることは無いですかね」
ダンジョン攻略をして名を広めたいキャンディスではあるが、あの魔王と配下の魔物を見て攻略出来るとは思えなかった。
しかし、冒険者として始めるにしてはナッシュと同じで好条件が揃っており、争いが少なくて自然が非常に豊かなアークをキャンディスは気に入っていた。
「ルーク君はどうするの?」
パティがルークにそことなく質問をする。
今回の件でソラもアークを拠点として活動することになった。ルークから見れば魔王の配下にしか感じられなかった。
カノンが命を救われたことに関しては、元同僚としても感謝しているが、なかなか煮え切らない感情が、この数日間ルークは悩まされていた。
だがルークとしてはアークを拠点に活動するかどうかの答えは、すでに決まっていた。
「いい経験にはなったけれど、俺は違う街に行くよ」
「まだ1年間あるから、ここで決めなくてもいいもんね」
ルークは『
そしてルークは『罪の牢獄』にいつか本気で挑み、『大罪の魔王』を討伐したいという想いが芽生え始めていたのだ。
カノンにアルバス、そしてソラが立ちはだかる可能性があるが、ルークは魔王のことを人間の味方だとは思えなかったのだ。
「恭弥さんはどうするんですか?」
「もしエルが今後も狙われるようなら、どうにかしなくちゃな」
恭弥は四大学園に連なっている街に店を構えているが、正直どうしたものか悩んでいた。
狙っている特別な生贄の1体に選ばれているエルを守り切るためにはどうするべきなのか、もちろん放浪の旅を続けるような自殺行為なことは考えていなかったが、生きるためには何かしらしなければいけない。エルを守りながら落ち着いて活動出来る場所が恭弥には現時点では浮かばなかった。
「聖国からは出来るだけ離れたいからな……考えないとな」
エルの髪を撫でながら恭弥は呟くように話す。
今回は強力してもらったが、元勇者である自分が『大罪の魔王』に襲われない可能性が無いわけではないと恭弥は考えている。
「俺とルーク、それとシェイラは候補にはなりそうにないって感じかな」
なんとなく恭弥が話を纏めてみる。
学生たちは3年生になる頃には大体の人が将来を決めている。パティ・フォルカ・キャンディスはアークを気に入ったようで、研修を終えて学園に戻ったあとに募集に対して書類を送って見ようと考えているような雰囲気を恭弥は感じとっており、これ以上街について話すのはやめておこうと話題を変えて話を続ける。
学生であるルークたちと、恭弥の立場は大きく違うが、この研修期間でさらに絆を深めた仲である。
年齢は1歳差ということで、今では仲良く話すことが出来ているので話はどんどん盛り上がる。
迷宮都市アークでの怒涛の研修期間は幕を降ろそうとしていた。
◇
――迷宮都市アーク 湖近くの宿
カノン・アルバス・ソラの3人は宿での夕食を食べ終わり、のんびりとカノンの部屋で話をしようと集まっていた。
ソラがアークを拠点にしてからもそれなりの日数が経過し、最初はアークの冒険者たちは大盛り上がりだったが、さすがに落ち着き始めてきていた。
しかし、ソラはそんなことは気にすることも無く、とりあえずはソウイチに頼まれた依頼をこなしながら、月に1度許されたソウイチの魔物との模擬戦のことしか頭に無かった。
第1回目は『フェンリル』に対して『
「うー! 月に1回ってケチよ! しかも1文字もメモれなかった!」
「おそらく、魔王の近くにいる魔物は全てEXと考えたほうが良い。そう簡単にはいかんだろう」
「命があるだけお得お得♪」
「でも……私が戦った狼より……あの時の出てきた、猫耳フードの棒付き飴を舐めてた魔物、あんなの反則じゃない」
エルを生贄にするために作られていた、かなり特殊な結界を何事も無いかのように裂いて出てきたデザイア。
現れてきた瞬間に襲い掛かった邪気と意識が消えて無くなるかと思うほどの威圧感、何事も無かったかのように処理された『
自分たちが追っていた敵が本体じゃなかったとは言え、あそこまで簡単に倒してしまわれると、力の無さを痛感してしまうとソラは語る。
「そうだね……でも私たちだって、まだ『八虐のユートピア』と戦うことになる。だから今後のやり方についても話し合わないとね♪」
「あぁ……他の団員にも手紙を送っておかないとな」
3人はアークにいながらも、どうやって『八虐のユートピア』の活動を終わらせるかの話し合いを真剣に続けていった。
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