第13話 それぞれの『進歩』



――『罪の牢獄』 ダンジョンエリア 闘技場



 フェンリルが『罪の牢獄』の仲間入りしてから5日が経過した。

 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』とは仲良くやれているみたいだし、阿修羅とアヴァロンが鍛錬と言う名のLv上げに毎日のように付き合ってくれている。稀にポラールやシャンカラ、バビロンなんかもフェンリルに付き合ってくれているようで、Lvが上がりにくい中だが恐ろしい速さで成長していっている。


 現在はソラの相手をフェンリルがしている。ソラへの報酬でもあり、人間相手の実戦練習のためだ。


 その5日間はアークで頑張ってくれている学生たちも、本格的に自分たちのやりたいことを決めたように研修に打ち込んでくれている。

 俺が直接姿を見せて声をかけるのも本来おかしな話なので、実際に学生たちの状態を聴けてはいないが、あんな事件があったのにも関わらず、とても真面目に励んでいる姿は素直に称賛できることだ。



「僅か10日ほどで、この成長速度……末恐ろしいものがある」



 逆にあの事件があったからとも見るべきか、何か憑りつかれた様に打ち込む姿は、ルークやソラと言った同学年の2人との差、非力だった自分たちへの戒めのようなものなのかもしれない。

 ニーナの報告書にも、あの事件の日からの変化がしっかりと記されている。明確な目標を新たなに持ったのだろうという推測だが、この短期間にニーナに褒められるような変化を若者がすることができるとは驚きだ。


 人間の中で1番になれるんじゃないかというポテンシャルを感じる。



「あんな事件があって、魔王である俺にも会った上でどういう決断をするか」



 あの事件が起きてしまって、1度顔を合わせてしまった以上、無理に勧誘をするつもりは無くなった。

 俺に会い、街の真実を知ってもアークを選んでくれるのならば歓迎をするが、どのような選択をしても尊重はするつもりだ。

 もちろん敵対するのなら容赦はしないがな。



「もう! 全然追えない! 速すぎよ!」



 フェンリルの圧倒的な速さと『その姿、幻日の如し』の影響でまったく捉えられていないソラ、それでもルーク君の能力を自分なりにカスタマイズして習得したんであろう転移技で、闘技場を跳びまわる姿はさすがEXランク冒険者と言ったところだ。


 ソラが使用する技の多さには驚かされる。さすが世界を巡って最強スキルを習得しよう活動しているだけあって、次から次へと技が飛び出してくる。

 それを冷静に対処していくフェンリルもさすがの強さだ。フェンリルの方が余裕があるし、ソラ1人では歯が立たないのが現実のようだ。



「スキルに使用する武具も創り出せるのか……『勉強したら、進化模倣エストゥディオミラー』、とんでもないスキルだが、弱点も分かりやすい」



 ソラの『勉強したら、進化模倣エストゥディオミラー』というスキルは魔王である俺からしても恐ろしくて怖いスキルではあるが、戦闘中に自分で確認しながらメモをしなれば新しくスキルを覚えられない点、強いスキルを習得するにはそれなりの文量が必要になる2点、これは致命的な弱点だ。

 さすがにソラも弱点が分かっているだろうし、転移スキルや防御スキルが豊富なのは弱点をカバーするためだろう。



「『超金剛力』ッ!」



 空中へと転移したソラの足を黄金の闘気が纏う。

 そのまま流れ星のような勢いで跳び蹴りの要領でフェンリルに向かって急降下していく。

 フェンリルはソラが転移されても、その転移先が読めているようで、空中に転移し攻撃を繰り出そうとしているソラのこともしっかりと視認していた。



――アオォォォォォォォォンッ!!



 向かって来たソラに向かって放たれたのは大地を軋ませるような咆哮。

 凄まじい衝撃波を放つフェンリルの『災厄の咆哮』はソラを勢いよく吹き飛ばし、闘技場の壁へと勢いよく激突させる。

 ソラはそのまま地面へと落ちるように倒れてしまった。



「麻痺に石化、一撃で状態異常を引き起こす雄叫び……メモる暇もなかったな」


「ご主人様、メルとデザイアから話があるそうです」


「…すぐに行くよ」



 ポラールが何やら少し急ぎな感じで報告をしに来てくれた。

 メルとデザイアは『八虐のユートピア』の魂が憑依していた人間をウロボロスに協力してもらいながら調べてくれていたはずなので、何か大きなことが分かったと言うことだろう。


 俺はポラールにソラの回収を頼んで、メルとデザイアがいる居住区へと向かった。









――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



「公国の迷宮都市『エリファス』を一部の仮面集団が拠点にしているか」


「そうじゃ。主が狙っとる2匹の人間はそこを拠点としとる」


「仮面集団に加担していた魔王はそこの主」



 公国の中でも、かなり有名な迷宮都市『エリファス』。

 そこの魔王も有名で『異教悪魔の魔王』というSSランクの魔王がいるという話だ。

 魔王界では有名な話ではあるが、元『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号を獲得していた魔王を僅か2時間で返り討ちするという戦力を誇る魔王なようで、最近は魔王戦争なんて挑んで来る相手がいないようで、どんな感じか分からないが、かなりの上級魔王であることは確かだ。


 これはまた厄介な相手が裏にいたもんだな。



「これは大きな情報だ。2人ともありがとう」


「妾は寝るからの。ご飯になったら起こしてほしいのじゃ」


「あぁ……おやすみデザイア」



 デザイアは欠伸をしながら自分のエリアへと消えていった。やる気を出せばなんでも出来るデザイアが働いてくれたおかげで、こんなにも早く見つけることが出来た。

 メルも本当に頑張ってくれたので、スライム形態のメルを抱き上げて存分に愛でることにする。



「恥ずかしい♪」


「やめるか?」


「だめ♪」



 可愛らしくプルプル震えるメルを抱きしめながら、ウロボロスが手伝ってくれた情報についても、メルがまとめて話をしてくれる。

 メルとウロボロスには細かいことを毎回頼んでしまっているので、本当に頭が上がらない。とことん頼りになる存在だ。



「『エリファス』には何重もの結界が張ってある。でも大したものじゃない」


「『枢要悪の祭典クライム・アルマ』なら大丈夫ってことだな」


「うん。人は多いけど、なんか変な格好で統一したのばっかで、みんなで石に向かってお祈りしてたんだって」



 そういった宗教のようなものなんだろう。『異教悪魔』って言っているんだから、何かしらに精通しているような魔王なんだろうな。『異教』って言うんだから2つの宗教が色々している街になっている可能性が大きい。

 相手が悪魔ということはもしかしたら、『罪の牢獄』にいる魔物に近しい属性になるかもしれないな。

 『大罪』と『悪魔』……負けるつもりはないが、挑む前に徹底的に調べ尽くしておくに限る。さすがに相手はSSランクの魔王だ。俺もそうだけど、相手は正真正銘の上級魔王、どれだけ大量の魔物戦力と人間戦力を抱えているか分からない。



「かなり広い街、そして冒険者も多そう」


「あぁ……ウロボロスがいるから距離は気にならないが、相手もアークに攻めてくる可能性は大きい。俺たちが敵対したことは知られたからな」


「それに拠点は『エリファス』だけじゃない」


「まずはルーキー期間の間に全力で準備をする」



 すぐにでも攻め込みたいが、相手に俺たちが敵対したことがバレてしまった今、上級魔王相手に迂闊なことをするのは自滅行為な気がする。

 アークの守りを盤石にし、『エリファス』にあるダンジョンを攻め落とす準備をしなくちゃいけない。


 さすがに魔王戦争を仕掛けられたら圧倒的に不利になってしまうので、ルーキー期間終了1週間前あたりには終わらせたい戦いだ。



「忙しくなる?」


「焦りすぎてはダメだな。転ばないように着実にやろう」


「はーい♪」



 これだけ相手が早く判明しているならば、やれることはたくさんある。確実に『異教悪魔の魔王』に勝つために捻りだせる策を出し尽くさないとな。


 



 


 

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