第11話 『容赦』なき者


「どうした? 急に楽しく無くなったのか?」


「ゴホッ!……貴様、介入しないんのではなかったのか?」


「入り口での話はちゃんと聞いてたのか? お前もさっき言ってたじゃないか……弱い奴に条件を合わせてやる悪党がどこにいる?」


「くッ…魔王が……」


「勝つことに王道を求めるような真っ当な魔王じゃなくて悪かったな」



 目の前の仮面集団の1人が悔しそうに俺を見る。

 実際はメルとガラクシアが、『謀叛リベリオン』の記憶の中から、ミルドレッドに仕掛けさせた勇者たちを先導したのは、こいつだと言う事実を読み取ってから、デザイアに頼んでここまで来させてもらっただけだ。


 ガラクシアたちには館の周辺で警護をしてもらっているので侵入者も心配はないだろう。



「まぁ…お前が死んだ3人の勇者を煽って『王虎の魔王』に仕掛けさせたのを知ったから来たんだけどな。『謀叛リベリオン』ってやつが教えてくれたよ」


「バ、バカな……」


「『魂亡命ソウルアウト』とか言う技で魂は逃げられたが、随分たくさんのことを教えてくれたよ」



 『謀叛リベリオン』の能力を使って、万が一の時は逃げるという作戦が破断し、そして『謀叛リベリオン』がやられることも想定外だったんだろうな。

 そしてデザイアを放つ圧倒的な邪気に当てられて、カノンたちも話が出来無さそうだが、今はこいつから情報を聞いて殺すことの方が先だ。



「お前らの親玉は誰だ? 勇者か? 魔王か? それとも人間か?」


「……しゃべるとでも?」


「すぐにでも死にたいのなら話さなくてもいいぞ」



 デザイアの力を受ければ、余程の存在でもない限り、ステータスはGランク相当を越えてマイナスという未知の世界まで落ちているだろうし、触手で貫いた時の血はメルが吸い取ったから、ある程度のことは聞かなくても分かるから別に話してもらわなくても結構なんだがな。


 本人の口から言ってもらうのが1番納得できるんだが、さすがにそうはいきそうにない。


 こいつらがミルドレッドから全てを奪う計画をした黒幕2号機。ちなみに1号機は『空の魔王』をけしかけてきた『救世の賢者・坂神雫』だ。

 絶対に許す訳にはいかない。魔王と言う存在の恐ろしさを魂にしっかり刻み込み、覚めることの無い絶望に叩き落してやらないと俺の気が済まない。



「まさか……『七人の探究者セプテュブルシーカー』を片付ければ落ち着くと思っていましたが……これほどの相手が裏にいたとは」


「しゃべる気が無いのなら死ね」



――グシャッ!



 デザイアの触手が仮面野郎を解いた瞬間、メルの『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が上半身を喰い千切る。


 呆気ない終わりにカノンたちは言葉も無いようだが、これでミルドレッドの仇がどんな奴かの情報と、ソラがアークに来てくれることになった。

 さすがに空気の読めない行動だったかもしれないが、エルちゃんも無事なようだから一件落着と言うことでいいだろう。



「妾とメルは帰って寝るとするかの」


「助かったよデザイア」



 デザイアは欠伸をしながら空間の裂け目を閉じて『罪の牢獄』へと帰っていった。さすがは最強の引きこもりだ。

 とりあえずデザイアが帰って、押しつぶされそうな邪気が消えたことでカノンたちが寄ってきた。



「魔王さん介入しないんじゃなかったの?」


「『八虐のユートピア』が俺の師匠を殺した件に関与してるのが分かってな。申し訳ないが情報収集のためにも手を出させてもらった」


 

 元勇者とルークら学生はエルちゃんの安否を確認している。


 この子が問題だ。何かしらの理由で狙われているのが今回の件で分かった。

 人間でもない存在、誰かに色々組み込まれた生命体であるエルちゃんが生贄という理由で『八虐のユートピア』に捕まったが、アークの外に出た行為に関しては誰の仕業なのか、俺たちの方でも分かっていない。


 とりあえずメルが読み取った記憶は『罪の牢獄』に帰ってから聞くとしよう。

 ソラがアークを拠点にしてくれることになったのは、今後の発展に大きく貢献してくれると思うので、そこらへんも纏めて考えておきたいところだ。



「とりあえず帰ろうか」








――『罪の牢獄』 居住区 会議室



 ウロボロスの力を使ってアークに帰ってきた。

 学生たちに元勇者たちは今日はゆっくり休んでもらうことにして、明日から研修の続きをしてもらうことにする。

 カノン・アルバス・ソラは『罪の牢獄』まで来てもらい、会議室で少し話をすることにした。



「まずは……約束通りソラはカノンとアルバスと楽しく、アークの冒険者として活動してもらう。アーク繁栄のために残りの生涯を注ぎ込んでくれ」


「魔物と戦わせてくれる約束忘れないでよ!」


「そういえばそうだったな」



 ソラの相手には不足かもしれないが、マスティマたちのLvが上がる魔物たちの練習相手になってもらいつつ、五右衛門や阿修羅に遊んでもらうことにしよう。

 アークを拠点にしてくれる宣伝効果は人間の噂好きのレベルを考えれば、一瞬で広まってくれそうなので、かなり期待できる。


 そして『八虐のユートピア』がアークに来る可能性が高まった。



「メルが『悪逆トゥリーズン』を喰ってくれたおかげで色々分かったんだが、まずメルが喰った『悪逆トゥリーズン』は残念ながら本体じゃない」


「まだ生きてるってことか」


「あぁ…これは『謀叛リベリオン』って奴の力だな」



 かなり特殊な能力持ち集団だし、メルのように記憶を読み取れるような能力持ちに対しても対策がされている。

 2人喰ったけど、2人とも完全に記憶を奪わせてはくれなかった。



「ちなみに『八虐のユートピア』は公国に拠点を持っている。場所の記憶までは無かったけどな」


「公国かぁー。とっても遠いね♪」


「あのデッカイドラゴンの力なら行きたい放題じゃない」



 ウロボロスをデッカイドラゴンって言うのは面白いが、よく空間の裂け目からしか顔を出していないウロボロスを特定できたもんだ。

 俺からすればどこに拠点があろうと関係ない話だが、公国に拠点があると言うことは公国内の魔王と繋がっている可能性が大きい。



「奪い取れた情報だが、エルちゃんは『八虐のユートピア』が生贄として狙っている人物の1人であるということ、カノンの命はまだ狙っているってこと、最終的には四大国を完全に滅ぼすつもりでいるってことだな」


「物騒な話だな」


「エルちゃんたちもアークに居たほうがいいんじゃない?」


「俺からすれば生贄にされたところで困らないんだが……」


「そういったところは魔王なんだから!」


 

 何故だかカノンに怒られてしまう。

 俺の目的に沿っているのなら考えるが、『八虐のユートピア』が何人かを生贄に捧げて召喚しようとしている「ナニカ」を倒せば良い話だ。

 無理にエルを守る必要は俺には無い、俺には俺の目的があって『八虐のユートピア』を上手く使っている存在を炙り出して滅ぼしたい。


 もちろん『謀叛リベリオン』と『悪逆トゥリーズン』の2人は明確にミルドレッドの件に関わっていたから、逃がすつもりは無いんだけどな。



「もし何かあればアークにいることに拘らずに戦いに行ってもらうのは叶わない。3人が言ってくれれば余裕があれば手伝いには行くさ」


「身内にだけは優しいのね。よく分かんない魔王ね」


「まだ私が狙われているってことは、アークも危ないかな?」


「アークに攻めてくるなら俺も出るさ、変わった能力の持ち主だが来るのなら徹底的にやる」



 拠点が分かるのなら、とっとと攻め込んで裏にいる奴をすぐにでも知るために仕掛けているんだが、上手に拠点が公国にあるということ以外は読み取れなかった。

 まさかメルとガラクシアの力が対策されているとは思わなかった。



「ビエルサに公国に出向いてもらうか」



 諜報活動のスペシャリストに出向いて情報収集に行ってもらうのが良いだろう。あまりに薄すぎて忘れてしまうかもしれんが、ルジストルとリーナがめちゃくちゃ使いまくっているようだが、健康でいられているだろうか?


 まだアークには四大学生からの学生たちが残り10日ほどはいるので、これ以上は嫌な想いをさせないようにはしないといけない。

 俺がやりたいことに集中するのは、それが終わった後だ。



「3人は学生たちとエルちゃんをアークにいる間、しっかり見ていてやってくれ」



 こうして、エルちゃん誘拐事件は、ミルドレッド事件への大きな手掛かりを残して終わったのであった。

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