第10話 その『真意』は?


(…何を狙っている?)



 第1試合をルークが勝利をしてくれたおかげで、良い流れで第2試合に進んで行けるアルバスは、『悪逆トゥリーズン』が何も言わないことに対して疑問を抱いていた。


 『七人の探究者セプテュブルシーカー』を調べて挑んで来るのなら、もっと強い魔物を用意しなければ、決して自分たちは負けることはないだろう。

 アルバスは自身の相手である槍を持った魚人族魔物を見て、そう感じる。


 ルークとアルバス、ともにSランクの魔物が相手となっては、さすがに疑問を抱いてしまう。相手は自分たちを殺しに来ているのか? 勝負に勝ちに来ているのか? 他に狙いがあって勝負を続けているのだろうか? そんな考えがアルバスの脳裏には浮かんでいた。


 

(俺たちを魔物と戦わせることで生じるメリットがあると考えるのが普通だな)



 自分たちをこの結界内で戦わせることが理由だと考えるアルバス。

 戦いを続けることが相手にとって利点を与え続けるのかもしれないと判断したアルバスの行動は速かった。


 魔力を集中させ、足下から水を発生させる。



「ギャァァァァッ!」



 槍に水の魔力を纏わせて突っ込んで来る魔物。

 2mほどの大きさに筋肉の鎧を身に纏い、水陸どちらも戦闘力が変わらない魔物、三叉の槍を手に持って、水魔法を操る魔物は「サバギン」だ。

 ヒレや鱗の目立つからだは防御力も備えており、派手なスキルは持ってはいないが、それでもSランクに入るだけのステータスを持っている魔物。


 しかし、アルバスの眼中にはすでに無く、いくら水系統の魔物だろうが速攻で片付けることしかアルバスの頭には無かった。



「『巻き起これ、水龍よドラ・マエルストロン』」



――ギャオォォォォォッ!



 『大いなる伝説は深海にアトランティス』を使用して、環境を変えているわけではないので、1匹しか出せてはいないが、それでも強力な水龍がサバギンに襲い掛かる。

 

 水を操るアルバスに対して水系統のサバギンを当ててくるというのは分かりやすい話ではあるが、サバギンにアルバスの攻撃が凌げるわけがないのだ。

 巨大な水龍に飲み込まれて、鱗がズタボロにされていくサバギン。


 アルバスは戦いを長引かさないためにも、すぐにトドメを指しに行く。



「『斬り刻め、渦よヴィアベル・トルピリ』」



――ギアァァァァ!



 サバギンを飲み込んだ水龍は、そのまま天井まで伸びる渦へと変わり、頑丈な筋肉と鱗で構成されている身体を斬り刻んでいく。

 

 一瞬にして、そしてなんとも呆気なく第2試合はアルバスの勝利で終わる。


 この様子を見ても『悪逆トゥリーズン』の不気味な笑い声は止まることはなかった。









 第2戦もすんなりと勝利を収めることが出来たのだが、休む間もなく次の魔物が出現したので、会話をする間も与えてもらえない。

 さすがに出てくる魔物が弱いことに関しては元『七人の探究者セプテュブルシーカー』の4人と恭弥は気付き、この戦いには説明がされてない何か裏があると考えていたが、その想いを勘づかれるのも不味い気がしたので各々胸の内にしまっている。


 第3試合はカノンが立候補したので、カノンが前へと進んだ。

 4人の学生は自分たちの命が掛かっていながらも、『白銀の蒼穹、虹の笛ヘイムダル』と呼ばれ、『七人の探究者セプテュブルシーカー』の団長だったカノンの戦う姿を楽しみにしていた。


 右手にはカノンの相棒とも呼べる『幸福と絶望おいでませギャラルホルン』が姿を現す。



――グガァァァァァッ!



「やっとそれっぽいのが出てきたね♪」



 カノンの対戦相手となる魔物は「大地竜」と呼ばれているSランクの魔物だった。

 どのような方法で、この魔物を確保して操っているのか疑問に思ったカノンであったが、先ほどまでルークとアルバスが戦っていた魔物とは訳が違うと気を引き締める。


 竜種はランク通りで捉えてしまうと壊滅してしまうという冒険者界の常識をしっかりと頭に入れてカノンは構える。


 魔物界では最強とまで言われている「竜種」。

 空を飛ぶ能力は無いが、土系統の能力をいくつも持っており、圧倒的な防御力を持つ4足歩行のドラゴン。

 全長6mと竜種の中ではサイズは少し物足りないかもしれないが、その外皮は魔法を弾き、武器を砕くような頑強さを誇っている。


 攻撃をしてみろと言わんばかりの眼差しを向けられている気がしたカノンは、アルバスが短期決戦をしたのには、しっかり意味があると理解し、自分も様子見なんてせずに一瞬にして決めてやろうと『幸福と絶望おいでませギャラルホルン』を構える。



「さぁ……最高の音をプレゼント♪」



 カノンが『幸福と絶望おいでませギャラルホルン』を使って奏でる音には様々な力が宿る。

 何者もその演奏を遮ることは叶わず、笛1つで人間界最強の1人に数えられるような存在にまで上り詰めた者だ。

 基本は後衛でのサポート型ではあるが、それは前線で戦えないというわけでは無い、それは前線に置いていると容赦なしに暴れまわることを危惧したアルバスがカノンに命じているだけのことなのだ。


 カノンの『幸福と絶望おいでませギャラルホルン』から放たれた音色は、瞑想的な雰囲気を持った夜を想わせる『夜想曲ノクターン』。

 様々な楽器の音を奏でることが出来る『幸福と絶望おいでませギャラルホルン』は、その力を使って優雅で落ち着きのある音色を響かせる。


 気付けば大地竜の動きは落ち着いており、カノンの奏でる音に聴き入ってしまっているようだった。



 『優雅で美麗、そんソット・ヴォ―チェな夜を永遠に・ノクターン』。カノンが奏でている技の名前がそれだ。


 囁くような音が大地竜の耳に流れ込んで来る。

 その音と同調するように大地竜の心臓の動きも優しく静かになっていく。


 3分ほどの演奏は向けられた者に最高に美しい夜を永遠に過ごしてほしいというカノンの『想い』が込められている。

 そんな『想い』を聴き余すことなく受け止めていた大地竜の心臓の鼓動は気付けば……優しく静止していた。



「これでも元リーダーだもん♪ アルバスより早く終わらせないと示しがつかないからごめんね♪」



 そんなカノンの声を聞いて、4人の学生と恭弥は言葉を失い、ルークとソラは相変わらずと言った感じで呆れたような表情を見せていた。


 カノンが奏でた『優雅で美麗、そんソット・ヴォ―チェな夜を永遠に・ノクターン』。

 3分ほどの曲をフルでしっかりと聴いてしまったものには永遠のお終いを。精神異常や状態異常に耐性があるものでも、様々な影響を与える技だったが、竜種であろうと関係なく一撃で終わらせられる可能性のある恐ろしい技で、カノンも滅多に使用することは無いが、今回は短期決戦を目指した結果、久々に使うことにしたようだ。



「相変わらず意味分からなさすぎ! 本当どうなってんの!? 『勉強したら、進化模倣エストゥディオミラー』使ってもやっぱり覚えきれないんだけど!」


「まぁ……さすが団長様って感じだな」


「えっへん♪」



 これが、元世界最強の冒険者を越えて、世界最強の集団とまで言われた『七人の探究者セプテュブルシーカー』。

 4人の学生と恭弥は声をあげられなかった。自分たちの想像を遥かに超えた力を見せつけられて、少しだけ恐れが生まれてきたのだ。


 さすがの力に、不気味な笑いを発し続けていた『悪逆トゥリーズン』も少し驚いたようで、先ほどまでとは違う笑いを発していた。



「さすがは我らが殺し損ねた最強の冒険者! 考えられないような力だ!」


「……そろそろ、この戦いの真意でも語ったらどうだ?」



 アルバスが笑い続ける『悪逆トゥリーズン』に向けて言い放つ。

 『悪逆トゥリーズン』も、さすがに読まれていると分かっていたようで、悪気も無く言い放つ。



「さすがに勘づきましたか! 貴方たちの思考や能力構成はこの娘に学習させて頂いております。良い贄になりそうですね!」


「俺たちが3勝した。この勝負は俺たちの勝ちだろう?」


「……さすがは元勇者であり異世界人、ですが人を疑うということを勉強したほうがいいですな! 人質をとった悪役が正義の味方に都合の良い条件を出すと本気で思っていたのですか!?」



 余程嬉しかったのだろうか『悪逆トゥリーズン』はハイテンションになって恭弥へと言い放つ。

 異世界人という言葉にルークや他の学生たちは引っ掛かることがあったが、『悪逆トゥリーズン』の言いように怒りがこみ上げてきて、それどころではなかった。



――パキパキッ パリンッ!  ブシュッ!



「ゴフッ!?」



 『悪逆トゥリーズン』の真後ろから結界に罅が入り、砕けたと同時に『悪逆トゥリーズン』を貫いたのは1本の触手。

 そして砕かれた空間からは夥しいほどの魔力と圧力、そして邪悪なる気配が漏れ出していた。



「楽しそうなところすまぬが、妾らの主人がお怒りでの。……お遊びはそこまでじゃ」



 現れたのは『大罪の魔王』が誇る『欲夢パッシオン』の大罪を司る魔物アザトースことデザイアだった。

 椅子から伸びた触手が『悪逆トゥリーズン』を貫き拘束している。


 デザイアが出てきている空間の裂け目から、ゆっくりと1人の魔王が広間へと降り立つ。



「良い場面で初見殺しを叩き込むことほど最高の戦術は無いよな……そう思わないか?」



 どこか澄んだ瞳を『悪逆トゥリーズン』に向けながら、『大罪の魔王ソウイチ』は、デザイアに貫かれながら拘束されている『悪逆トゥリーズン』の正面へと歩を進めた。

 

 



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