第8話 『遭遇』するリベリオン


 エルちゃんの痕跡を追えるウロボロスの力を使って転移してきて、9人に追わせてあげることは成功したとは言え、まさか『狂乱の魔王』の元ダンジョンに辿り着くことになるなんてな。


 これは偶然なんだろうか? ミルドレッドがやられてしまった事件には不可解なことがいくつもあった。

 魔王と勇者で手を結んでいる存在が確実にいる。『狂乱』は死んでしまったので聞き出すことは出来ないが、『八虐のユートピア』とか言う人間集団がここの隠れ家に使用しているのは、何かしらヒントを得られるかもしれないな。


 少し考え事をしていると、一緒に来てくれているシャンカラとガラクシア、それにメルが何かに気付いたようだ。



「マスター、誰か隠れてるよ」


「転移魔法ではなく、転移能力で跳んできたみたいだね」


「……魔物がこんなところに何の用だ?」



 館を囲む林の中から出てきたのは、とてもリアルな牛の仮面を被った人間だった。黒いローブで全身を纏っているため、外見では人間と判断は出来ないが、人間の気配がプンプンしているので、たぶん人間だろう。

 

 こいつがエルちゃんを転移させた能力者みたいだな。



「わざわざ用を伝えないと来てはいけない場所か?」


「…確かに……魔王にそんなことを聞いても無駄だったな」



 さすがに魔王ってのはバレてしまったようだが、別にバレたところで困ることでもないから気にしないでおこう。

 ガラクシアにシャンカラ、そしてメルを前に警戒できるってことは、ある程度実力差を理解できる人間ってことだ。一応聞いておいた方がいいかな?


 ちなみに魔王って魔物の一種なんだろうか? 凄い今更の話なんだが…。



「お前らが『八虐のユートピア』とか言う人間集団か?」


「……悪いが人違いだ」


「ますたー正解」



 メルが感情を読み取ってくれたようだ。

 どんな奴らか気になっていたが、まさか面白仮面を全員が付けてるんじゃないだろうな? もしそうだとしたら『八虐のユートピア』なんていう大層な名前を変えたほうが良い。



「……魔王が人間に加担するとは予想外だった」


「『星空領域スターリーヘブン・無窮ノ夜エンドレス・ナイト』」



 周囲の様子には変化がそこまで見られないが、真夜中をさらに輝かしい星空へとガラクシアが結界を張る。

 ハクを連れてきていたら問答無用で結界なんて使用出来なかったが、メルとシャンカラなら拘束と捉えられなければ大丈夫なのだ。



「人間さんダメだよー♪ しゃべってるだけで戦うこと考えないとね!」


「……化け物め」



 ガラクシアは事前に転移能力があることを伝えてあったから、逃がさないためにも『星空領域スターリーヘブン・無窮ノ夜エンドレス・ナイト』を展開してくれたんだろう、それにこの結界下ならガラクシアも力を真に発揮できるし、どこでも環境恩恵を受けられるメルにも有利なフィールドだ。


 もし転移で逃げてもウロボロスが逃がさなかっただろうけどな。


 せっかくならメルをスライム形態で待機してもらって『明けの水星』で隠れてもらって不意をついて捕らえても良かったな。



「マスター、人間さんにしては強い人だよ! また勧誘するの?」



 ガラクシアは俺のことを強くて優秀な人間を全てスカウトするように見えている様だ、確かに日頃の行いなんだが…。

 さすがにカノンとアルバス、そして今回アークを拠点にしてくれることになったソラの天敵みたいな奴を仲間にしようとは思わないな。



「これ以上は大丈夫……人間の能力には興味があるけど、これ以上戦力としては求めてないよ」


「ッ!? 『魂亡命ソウルアウト』」 


「『蝕犯月光エクリプス・ルナ』」



――ドサッ!



「魂だけ消滅した」


「ちょっとだけ遅かったー♪ でも一部の記憶は肉体に留まったまま」


「面白い能力だったな」



 ガラクシアが『色欲ラスト』の技の1つである。『蝕犯月光エクリプス・ルナ』という月明かりに照らされている対象を瞬時に洗脳し、付与されている全ての特殊効果をも洗脳と同時に解除する技に対して、魂だけ消滅させる。

 きっと別の個体がいるか、魂を他の器に瞬時に入れ変えれるような能力なんだろうな。

 まるでガラクシアの技を知っているかのような対応方法だった。



「ウロボロスに彼が転移してきた先を覚えておいてもらったほうがいいだろうね」


「シャンカラの言う通りだな」



 ウロボロスに奴の痕跡を辿ってもらうように指示を出す。

 メルとガラクシアが魂の抜けた抜け殻を弄っている。中身は普通の人間で、先ほどまで感じていた魔力は感じない。

 


「『謀叛リベリオン』っていう魂に乗っ取られてたみたいだね。転移系の能力持ちで、魂を憑依させる力もあるみたいだね。これ使って暗殺なんかをやってたみたい!」



 ガラクシアが逃げられる前に掴んでくれた情報を話してくれる。

 転移に憑依と変わった力を持った奴ではあったが、能力の厄介さはカノンやアルバスが敵視する理由がよく分かるほど危険なものだ。

 転移は登録した4カ所の場所へと自在に移動出来る能力。そして憑依にはいくつかの条件を達成できないと使えないようだが、厄介であることには変わりない。


 『能力』ってのは本当に多種多様だ。

 次から次へと未知のものが現れる。おかげさまで知ることで新しい戦術を生み出せることもあるし、対策することも出来るので、もっと知っていきたいところだ。



「ますたー、名前は読み取れなかったけど、『魔王』と繋がりがあることは分かった」


「『八虐のユートピア』はどっかの『魔王』と繋がっている……か」


「それと……もう1つ」



 ガラクシアが俺の様子を伺いながら、何か言いたそうにしている。

 何か面白い情報でも手に入れたのだろうか?



「『王虎』のダンジョン前まで案内したのは『謀叛リベリオン』だったみたいだよ」


「……なるほど」



 聖都から気付かれずにミルドレッドのところに行けたのは、転移能力の仕業だったわけ……か。

 ガラクシアが読み取れた部分では、あの時殺した3人と繋がっていただけで、他の勇者や聖国との繋がりは無いようだった。

 

 これでミルドレッドを殺すために裏で画策していた連中が見えてきた。

 『八虐のユートピア』に関わりのある魔王が確実に関わっているだろうから、中にいる奴もほっとけなくなった……が、中にいる奴はカノンたちに任せて、俺たちは後日『謀叛リベリオン』って奴を追い詰めることにしよう。



「今はカノンたちが無事に帰ってくるのを待つとしよう」


「ますたー、暇」


「なんかしよー♪」


「……瞑想してるから終わったら起きるよ」



 ガラクシアとメルに暇つぶしを求められる。

 こういったとき『魔王』って立場は苦しいものがある。可愛い配下の求めに上手く応えてやれる気がしないってのは悲しいものだ。


 とりあえずしょーもない話でもして時間を稼ぐとするか。









――『狂乱』ダンジョン跡地 最奥地



「ようこそ……まさかこんなに速く追ってくるとは思いませんでした」

  


 エルを助けるためにダンジョン跡地に侵入していった9人が奥地にある広間で見たのは、天狗の仮面を被った黒いローブの人物と椅子に座らされて意識を失っているエルだった。



「『八虐のユートピア』……」



 ルークが恨みを込めながら、その名を呼ぶ。

 妙にリアルな仮面を被り、裏をかいてくるようなややこしい能力を使って、多くの人々を犠牲にして何かをやろうとしている狂人集団。


 2回も戦っているので、さすがに懲り懲りだと思いながら、ルークはエルを救い出すための方法を考える。

 エルの椅子の周囲には如何にも罠と感じられる陣がいくつも描かれている。ルークの『瞳に映る未知の世界テレポーテーション』対策であろうと考えられるので、ルークは迂闊に転移出来なかった。



「『悪逆トゥリーズン』と申します。以後お見知りおきを」


「仲良くする気はないんだけど、エルちゃんを返してもらうよ」


「解放してほしくば……とあるゲームをしてもらいましょうか?」


「素直に従うとでも思っているのか?」



 恭弥は一歩前に出て声をあげる。

 エルが人質という状況は変わらないが、どうにか救い出すための時間を稼ぐためにも、話を続けようとする。



「アナタ方がゲームに勝てば自動的に解放される仕組みになっています」


「……勝てばいいんでしょ? とっとと説明しなさいよ」



 ソラはこの状況でいるのが面倒になり、正面から『悪逆トゥリーズン』の企みを打ち砕いてやろうと、ゲームの説明を求める。

 

 ソラの発言に呼応するように広間に刻まれた魔法陣が輝き始める。



「承認の言葉を待っていました! さぁ……始めましょう!」



 『悪逆トゥリーズン』は高らかに叫ぶ。

 1vs1で行われ、計5戦あるデスマッチ。『悪逆トゥリーズン』が用意した刺客5体を、9人の中から1人を選び戦っていく死合い。

 しかもルークたちは負けるたびに、ルーク以外の学生が順に死んでいくという制約まで課され、さらに3敗以上するとルーク以外の学生4人の家族にも通ずる呪いが発動するという圧倒的に偏ったルール。


 これが『悪逆トゥリーズン』、自身の課した制約を承認した者に絶対的な呪いをかけ、その家族にまで影響を与えることが出来る非道な力。



「さぁ……最初はどなたが相手をしてくださるのでしょうか」



 絶望に染まる4人の学生たちとは裏腹に、カノン・アルバス・ソラ・ルーク・恭弥の顔には絶対的な怒り、そして負けられないという強い想いが宿っていた。

 

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