第7話 『好奇心』と人の想い
「助けてもらう条件は、アタシが冒険者としてここを拠点にするってことでどう?」
「カノンとアルバスのように使われてもいいと?」
「元は『
「……そういえば最強のスキルとやらを目指してるんだったな」
「アンタの配下は悔しいけど、アタシよりも遥かに強いわ。報酬は頑張った分だけ配下の魔物と戦わせてちょうだい!」
(……面白い実験体獲得のチャンス来たな……)
自身の好奇心と野望のためならば魔王に使われることすら躊躇わず、そして自己中心的な判断に見せかけて、今出せる条件で俺が1番魅力的に感じるかつ、自分の知名度の高さを上手く利用された交渉材料だ。
四大学園の学生のつもりが最年少EXランクの冒険者に変わるだなんて夢のような話だ。
報酬とやらも、『
他に良い条件が出てきそうにもないし、ここらへんで交渉成立ということにしておこう。
カノンとアルバスとこの子がいたら……最悪ウチの面子を使わずとも軽い魔王1体くらいなら仕留めれるって考えれば作戦の幅が広がるな…。
「いいだろう……エルちゃんが転移した先へはすぐに跳べる。30分で準備をするといい」
「さぁ! もしかしたら長い戦いになるかもしれないから準備はしっかりしよう!」
カノンが意気揚々と、そして迅速に準備が出来るように、あらゆる場面を指定して準備の指示をテキパキと出している。こういったところを見ると、やっぱり団長って呼ばれるだけはあるんだなって感じる。
学生たちもここまで来て、エルちゃんを見捨てるなんていう選択肢は嫌と言い始めたので、足手まといな気もするが同行することになったようだ。
俺もエルちゃんの痕跡をしっかりと追わせていたウロボロスに準備をしてもらうように言っておかないと…。
せっかく仕掛けられた釣り針なら……しっかり喰らって釣り人ごと喰い散らかしてやろうかね。
◇
――公国領地南 とあるダンジョン跡地
迷宮都市アークの王、『罪の牢獄』の魔王でもある『大罪の魔王ソウイチ』の力でとある館前へと転移させられた一同。
ソラがソウイチへと出した条件によって、なんとかエルを助けることが出来る可能性を手にできた面々は、出来る限りの準備を短時間で済ませてきたつもりだったが、まさか魔王不在のダンジョン跡地に跳ばされるとは思っていなかったようだ。
魔王不在になり跡地となったダンジョンを拠点として使用している者達なんて聞いたことも無かったので、ソウイチの力が無ければ辿り着くことが出来なかっただろうという素直な感想が一同に浮かぶ。
「俺たちが手伝うのはここまでだ。後は帰りを待っててやるから、しっかりと救い出してこい」
「よし! みんなケガしない程度に急ごう!」
カノンがリーダーとしてメンバーに声をかける。
本来のダンジョンは7人パーティーまでが同時に入ることが出来る仕組みだが、魔王のいないダンジョン跡地は、もしかしたら魔物の残党が残っているかもしれない程度の脅威しかないので、恐れることなく9人は進み始める。
一同は昔『狂乱の魔王』が館の中へと入っていった。
なんとか形を留めている巨大な館だが、中は明かりが全然なく、パティの魔法で周囲を照らしながら進んでいく。
「奴らのことだ、どっかしらに罠は仕掛けてるだろうな」
「儀式だとか書いてあった。エルはそれなりに広い場所にいると考えて良いかもしれない」
ルークと恭弥が館の中を進みながら自身の考えを口に出していく。
『八虐のユートピア』は自分たちの目的のためなら、どんな被害が出ようと関係なし、どんな非道な手段をとろうがお構いなしの外道集団だと2度の戦いで学習しているルークは、油断すればすぐにでも命を落とすことになってしまうということを忘れないように周囲を観察する。
「オ…ォ…オォ」
9人の前に現れたのは人間型の魔物、赤黒いオーラを発しながら様々な武器を構えてノソノソと近づいてくる。
ここに少し前まであったダンジョンについてはソウイチから教えてもらっていたため、残党魔物の特徴も把握できている分、学生たちにも魔物を観察する余裕があった。
ルークがつまらなさそうな顔をしながら歩いていたソラの肩に触れる。
「行ってこい。特攻隊長」
――ヒュンッ!
「なっ!? バカルークッ! なにしてくれてんのよ!」
ルークがソラの肩に触れた瞬間。
ソラは魔物の頭上へと転移させられる。カノンとアルバスはルークの『
魔物の頭上へと跳ばされたソラはルークに文句を言いつつ、一撃で一掃してやろうと習得しているスキルの中から最適なものを考える。
ここにいる魔物は『狂戦士』状態であり、理性は奪われているが、ステータスはかなり高い魔物が多かったようなので、ルークは消耗する前にはソラの持久力と火力の高さを見込んで、昔のように突撃させる作戦をとったのだ。
ソラは両手を魔物たちへと向け蒼色の魔法陣を展開させる。
「覚えてなさいよッ! 『
――ドシャァァァッ!
ソラが展開する魔法陣から現れたのはサファイヤブルーに輝く水で出来た蛇たち。無数の水蛇たちが魔物たちを覆い尽くしていく。気付けば全ての魔物たちは巨大な水球の中に閉じ込められていた。藻掻き暴れるが意味は無さそうだ。
ソラが放った『
『
アルバスから習得した水を自由自在に操り形どる力、そして水に何らかの効力を与える力を基盤としたソラの得意技の1つだ。
『
「バカルークッ! いきなり跳ばすなっているも言ってるでしょ!」
「これが1番効率的で不意をつけるって言って何回もやってるんだから慣れろよ」
「アンタもいつか不意の転移かましてやるんだから覚悟しときなさい!」
「すぐ戻るけどな」
連携と呼べるようなものですら無いにしても、圧倒的な力の押し付け、これが元最強の冒険者集団『
状況判断力に行動の速さ、そして各々の能力応用幅こそが、他を寄せ付けず最強と呼ばれていた所以でもある。
最年少組であるルークとソラの驚異的な成長にカノンとアルバスは自分たちの若い頃を少し思い出しつつも、しっかり場を締めて先に進んでいく。
恭弥はそんなソラを見て、少し戦慄に近い感情を与えられていた。
(正直……勇者の力だって舞い踊っていた時期もあったけど、この世界では勇者の力は女神に言われたほど大したことじゃない。ソラって子のほうが大半の勇者よりも……圧倒的に強い)
女神から世界を救って欲しいと懇願され、力を与えられた勇者は、基本的には突然手に入れることの出来た圧倒的な力に酔いしれる。
恭弥たちが居た日本では『異世界転生』して人生をやり直し、華やかにしてみせるというのが流行っただけあり、勝手に自分を最強だと勘違いしてしまっていた勇者だっていたのだ。
現地民勇者も突然力を手に入れ、人が変わってしまったように自分に酔いしれてしまった勇者も多く存在する。
勇者としての経験を積んでいけば世界の恐ろしさを知る機会が与えられるのだが、力を手に入れたばかりの勇者というのは、勝手に最強になったと思い込み、世界を自分中心に回せていると思い込んでしまう。
恭弥は自分を追放した勇者たちと、力があると分かった瞬間の自分を思い出しながら、現状には関係ない話ではあるが、女神に対して僅かな敵対心を生み出していた。
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