第18話 明日を照らす『焔天』



「私が生まれたての魔王如きに負けるなんて認めない!」


「最後に生きていた者だけが正義です!」


「圧し潰れな! 『特大海嘯グランドウェーブ』」



 先ほどの激流以上の波が『水の魔王』から放たれますが、数分前まで脅威に感じていた攻撃ですが、今は不思議と脅威どころか、生ぬるく感じます。

 ドラコーン以外全ての魔物の火を受け取った私は『焔天』へと昇華することが出来ました。

 『水』を上回るSSランクの魔名まで、みんなの力で辿り着くことが出来ました。


 ここまで来て負けるわけには行きません。ここで『水の魔王』を越えて、世界に覇を唱えるためにも、さらに力を付けなくてはいけないのですから。


 右手に黄金の火を集中させて、『水の魔王』の攻撃を迎え撃てるように集中しなくてはいけませんね。



「魂諸共焼き尽くせ……『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』」








 アイシャから放たれた黄金の焔は関係なく全てを燃やし尽くしている。それは水で出来ている『水の魔王』本体すらも燃やしている。シンラの『神火』に似た性質を持った火系統の力ってことか。


 完全にアイシャが『水の魔王』を上回っている。

 この魔王戦争に勝てると言っていた秘策がこれならば、ドラコーン以外全ての魔物を消滅させるという決断、真名持ちの魔物を無くすという覚悟、到底俺には真似することは出来ない芸当だ。


 どっからどう見ても俺より『魔王八獄傑パンデモニウム』なんだが…。


 そしてこの進化がアイシャの魔名ランクを上げる条件にもなっているとはな。



「ますたー、大きいのが来る」


「あぁ……最後のぶつかり合いだな」



 『水の魔王』の体がさらに膨れ上がる。

 大声でダンジョンごと飲み込んでやるって、わざわざ言っていたので、相当広範囲かつ、威力のある攻撃をするつもりなんだろう。

 アイシャのダンジョンにはコアを守る魔物は1体も存在していない。


 今のアイシャの見てみると、自信と覚悟が漲っているように見える。

 ラムザさんのためにも絶対に負けられないという想いと、多くの魔物を糧にして手に入れた力に対しての自信に溢れているって感じだ。


 見ているだけでも凄みに圧倒されそうだ。それ以上に凛々しさを感じるけど…。



「負けてやれないな」


「その意気ですご主人様」


「感じるものがあったの?」


「あぁ……これが『魔王』なんだなって思い知らされてる感じだ。あれが王道って奴なんだろうな」



 どれだけ配下の魔物が強くても、それを束ねる魔王という存在がどれだけ『格』に関わるのか、それを示されているような気がする。

 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』に相応しい魔王になるにはどうすればいいかって考えることは多いけど、今のアイシャには有無を言わさぬ魔王としての格を感じさせられる。


 見習わないといけない。俺も俺なりの形で、誰にも文句を言わせないような魔王としての格がなければ、配下やアークに住む者達を傷つけてしまうし、俺だって魔王としてカッコよくありたい。



「最強の魔王か……いくらアイシャでも、それは俺も譲れないな」



 アイシャが『水の魔王』の攻撃を迎え撃つために、右手に火形作られた剣が握られている。



――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 

 『水の魔王』が放った攻撃『特大海嘯グランドウェーブ』。

 さっきの激流よりも勢いも範囲も馬鹿げてるような大技、最早戦場を丸呑み出来るんじゃないかというほどの波が、ダンジョンごとアイシャを飲み込もうと迫ってくる。



「俺たちも巻き込まれるな」


「…あの剣の前では無力と見ました」



 アイシャが『水の魔王』が放った『特大海嘯グランドウェーブ』に対して、黄金に輝く火剣を勢いよく振り下ろす。



「魂諸共焼き尽くせ『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』」


「……『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』か」



――ズシャァァァァァァンッ!



 アイシャの放った『黄金と焔害の剣レーヴァテイン』が砲撃のように伸びていき『特大海嘯グランドウェーブ』の波を一瞬にして切り開き、焼き尽くしていく。

 これも『水の魔王』の身体を燃やし続けている黄金の火と一緒で火属性とかではなくて、燃やすという概念を付与する能力か。



「グギャァァァァッ!!」



 さすがの巨体で『黄金と焔害の剣レーヴァテイン』を避け切れなかったようで、『水の魔王』とセイレーンは真っ二つになり、身体を燃やされている。

 水の中だろうと燃え続けるという概念付与の恐ろしい能力だ。犠牲は大きかったし、これからも真名持ち魔物を増やせるわけじゃないにしても、もしかしたらそれを上回るかもしれないほどの戦闘力だだ。



「こ、こんなところで!? しかもルーキーにこの私がぁぁ!?」


「強い者が弱い者を踏み越えた。ただそれだけです」



 アイシャの発言はどこか寂し気な感情が混じっているような言い方だ。

 世界に覇を唱えると言っていたし、以前語っていた理想からするに、アイシャはもう明確に進むべき魔王としての道が見えているんだろう。


 『水の魔王』の身体がどんどん炎に包まれて小さくなっていく。恐ろしいほどに強力な力の前にSランク魔王である『水の魔王』も抵抗出来ずに消えていくのか…。



「俺より『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号が相応しいよ……俺は『大魔王の頂きゴエティア』が欲しいな」



 本領発揮するまでに時間がかかる『原罪之アマルティア・烙印アドヴェント』よりも、今のアイシャのほうが総合的に見れば魔王本体の強さは上回られているかもしれない。

 帰って鍛え直さなきゃ差を付けられてしまいそうだ。



 こうして長いようで短かった『焔』と『水』による魔王戦争が幕を閉じた。

 『翼騎士』は早々に離脱していたようで、ルーキーによる四大元素同士の対決を制したアイシャは大注目株になっただろう。



「弱く、魔王の格を下げるような存在は必要ないと思っています。私は最強の魔王を目指し、魔王の威厳を高みへと押し上げようと思っています」



 アイシャはインタビューで語っていた。

 この発言は魔王界を大いに騒がせることになるだろう。今のアイシャにはドラコーンしか真名持ちは存在していないが、攻め込むにしてもルーキー期間の守りがあるから、立て直す時間があるのが救いだな。


 とりあえず無事に勝てたので、俺は仕事を完璧にこなしてくれた4人にお疲れ様と声をかけてダンジョンに戻ることにした。


 やっぱり数十年以上生きてあの程度……あれじゃまるで5年程度しか生きていない程度の魔王にしか見えんかったぞ。







――『焔輪城ホムラ』 会議室



 『焔』と『水』の魔王戦争から3日後。

 俺はアイシャに呼ばれて、ダンジョンにあるいつもの会議室に来ていた。

 さすがに魔物を召喚し直して、ダンジョン運営を元通りに戻すためにDEを使いまくったようで、3日経過してようやく余裕が取り戻せたとのことで、祝勝会のような感想戦のような感じで、アイシャに招かれた。



「今回の件、本当に助かりました。無謀な挑戦でしたが勝利することが出来ました」


「最初っから、あの展開を想定していたのか?」


「格上の魔王に挑むにはあの方法しか浮かびませんでした」


「まさか魔王スキル発動が魔名ランクを上げる条件だったなんて、正直驚きだよ」


「真名魔物4体以上が必須でしたので、手痛いものになりました。ですがそれに見合う力を得ることができました。」



 ルーキー史上初のSSランクが俺……そしてアイシャで2人目。

 何か運命みたいなものも感じるのと同時に、こんなにすんなりと言っていいのかっていう疑念も少し出てくる。

 だけど歩みを止める訳にも行かないから、これからも進んでいくしかない。



「私はさらに力を付けて、魔王界最強と呼ばれる高みを目指します。『焔天』という魔名にもなりましたし、戦力強化をしながら、己の力を研いでいくための修行ですね」


「魔王界最強か……そこは俺も目指すところだ」


「最後は私たち2人で争うことになるかもしれませんね」



 アイシャが少し微笑みながら、とんでもないことを言う。

 かなり物騒な話だが、もしかしたらそんな未来もあるのかもしれないし、互いにそうなったり割り切って戦うだろう。

 命の奪い合いまではいかなくても、互いに全力でぶつかり合うようなことが、この先には待っているかもしれない。



「まずはソウイチから『魔王八獄傑パンデモニウム』の称号を奪わなくては行けません」


「それは嫌だから俺も帰ったら特訓だな……」



 最強の魔王になるのなら越えなければいけない二つの壁がある。

 魔王個人に圧倒的な戦闘力のある『魔王八獄傑パンデモニウム』。そして最強の配下を従え、数えきれないほどの戦力を誇る『大魔王の頂きゴエティア』だ。


 どちらかと言えば『魔王八獄傑パンデモニウム』のほうが目指しやすいというのはある。『大魔王の頂きゴエティア』の5人は3000年分の魔物という理不尽な数が物語っているから、EXランクの数とかではどうにもならないものだから仕方がない。



「いつか最強の『皇龍』様も超えるような強さを手に入れて見せます」



 ポラールが戦えば互角かもしれないと言っていた『神滅ノ皇帝龍コウリュウ』を従えし、現役最強の魔王との呼び声高い方だ。

 ハク、シャンカラに並ぶ『罪の牢獄』が誇る戦闘最強3人衆のポラールからして、ヤバいと言わせるんだ。相当な強さと経験があるはずだ。正直追いつけるかどうか不安なところがある。



「俺も負けてられないな」



 アイシャとは1時間程、互いの師匠の面白い話をして盛り上がった。

 

 おかげさまで色々学べる有意義な時間を過ごすことができた。『水』の魔王には感謝しないとな。

 



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