外伝 『憤怒』と散策


――ルビウス 商業区域



 ルビウス制圧作戦を完璧と言っていいレベルで終えることができ、アークへの宣伝街として、どのように機能していくのかを確認するために、ポラールと一緒にルビウスに来ている。

 何も言いはしないが、かなり機嫌が良さそうなので誘って正解だったようだ。


 制圧作戦時にガラクシアの能力を受けた人間はアークについて良い印象を刻まれたので、作戦時に街にいなかった人間にもアークに良い印象を与えてくれるように話をしてくれるだろう。まさか洗脳されているだなんて思ってもいないだろうな。


 この宣伝作戦の鍵を握っているのが商人と冒険者だ。

 ルビウス外部にも頻繁に出ることになると思うので、行く先々でアークや『罪の牢獄』についての良い話をしてほしいものだ。

 少しずつ広まっていって、帝国ではそこそこ有名くらいの地位を築きたい。


「それにしても人間は難しいな」


「そうですね。ですが有益であることは確かなようです」



 ポラールのような目立つような格好な存在がいても、自然と好意的に受け入れてしまっているルビウスの人間たち、外部から来ている人がおかしいと感じても、街の人たちが受け入れているならば、自然とそれが理となり、誰も気にならなくなっている。

 この現象はアークの宣伝時にもよく見られ、多くの人がアークについて良いように話をしてくれているおかげで、外部から来た人間は誰も疑っていない。

 少人数の意見では信用ならなくても、大人数の意見ならば自然と受け入れてしまうというのが人間の面白いところだ。

 この大衆優先の考え方で損をしている人間もいるんだろうな。



「おっ、旨そうだし買ってみるか」



 海が全然近くないルビウスに、かなり美味しそうな焼蛸が売っていたので買ってみる。

 味はまさしく蛸だが、蛸はこの歯応えが最高だな。



「食べるか?」


「えっ!」



 串に刺された蛸を差し出すと、ポラールが何故か驚いている。

 串を差し出したまま待っていると、あたふたと慌てている。とりあえず可愛い。

 たぶん助平やろうな顔をしているのを自覚しつつポラールに追撃をしてみる。



「はい、あ~ん」


「ご、ご主人様っ」


「あ~ん」


「うぅ……あ~ん」



 さすがに人間が多くいる中では恥ずかしかったんだろうな。顔を真っ赤にしながら応じてくれたポラール、とても可愛い。

 なんだかんだ俺の要求に応じてくれたり、アドバイスをくれたりと、もうポラールがいないと生きていけない魔王にされてしまうほどに万能な魔物だ。


 ルビウスは数少ない帝国領南にある街だ。

 しかも帝都から遠い位置にある街なだけあって、特に大森林の魔物を討伐する冒険者には唯一の拠点にできるような選択肢の街だ。

 今でこそアークがあるが、ルビウスは街の規模の割に知名度はそこそこだなと、街を散策して改めて感じる。



「さすがガラクシアですね。これならば人間に解除されるどころか気付かれることもないかと思います」


「将来的には各国に、今のルビウス状態の街をいくつか欲しいところだな」


「まずはアークの近くから徐々にということですね」


「一気に広げすぎると把握できなくなるし、アークの容量も大きいわけじゃないからな」



 アークは全ての種族が平和に暮らしていくことを理想としている場所だ。もし人間だけが一気に増えてしまうと、街のバランスが崩れてしまう可能性があるんじゃないかと俺は思っている。

 ガラクシアが洗脳した冒険者に、各地で困っている様々な種族をアークへと送り届けてほしいという任を課してあるので、アークに来たいと言ってくれた亜人や魔族も増えてきているから、ルジストルやリーナと相談しながら発展させていかなきゃな。



「ダンジョンに挑む冒険者は増えても良いんだが、一番は挑む冒険者の平均ランクが上がることだな」


「アヴァロンも暇をしていますからね」


「アヴァロンの情報が広まったら挑む冒険者が逆に減りそうだけどな」



 最古の魔王様たちのダンジョンは場所が場所ではあるけれど、最早挑むような冒険者がいないというのが現実だ。

 それが理想なのかどうかは分からないけれど、個人的にはいつまでも冒険者が攻略に乗り込んでくるようなダンジョンを作りたいと思っている。

 まぁGランクしか呼び出せない縛りがある以上、低階層はGランクの魔物で埋め尽くされるだろうから、初心者冒険者としては挑みやすい環境で在り続けると思うから、そこは大丈夫な気はしている。



「それにしても、ポラールはどこに居ても映えるな。本当に綺麗だと思うよ」


「……不意にそういうことを言わないでください。護衛に集中できなくなってしまいますっ」


「そんな僅かな隙に付け込める奴いるのか?」


「阿修羅のような敵が現れたら危ないのです!」


「わ、悪かったよ。怒らないでくれ」



 かなりの剣幕で怒られてしまったので謝罪する。

 それだけポラールが真面目に付いてきてくれているとのことだから、あまり揶揄うものじゃないし、確かに外部から猛者が来ている可能性もあるから気を引き締めないといけないかもしれないな。


 ポラールが勝てない相手だと『罪の牢獄』の誰が挑んでも勝てないような相手になるだろうから、そういった相手を想定した連携プレイを考えたいが、集団になると弱くなってしまうのがポラールたちの悲しいところなんだよな。

 他の高ランクの魔物を多く知っているわけじゃないけれど、アイシャのところのドラコーンなんかは指揮官としても有能な能力を持っているので少し羨ましく感じる。



「無いもの強請りになってしまうな」


「魔王というのは、そういうものなのではないでしょうか?」


「……そうなのかもな」


「ご主人様が望む全てを手に入れられるよう頑張ります」


「本当…頼りになるよ」



 雑談をしながらルビウスの街を散策する。

 改めてポラールの真面目さと忠義の高さを思い知らされた。

 

 さすが『罪の牢獄』にいる魔物たちのリーダーだな。

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