エピローグ この世界の『謎』


 大森林の東奥にあった巨大な池が見えてきた。

 メルに気配をできるだけ消してもらい、大きな木の陰から様子を覗いてみると、巨大蛙が阿修羅のような和服を着て、さらにはデカい葉巻まで加えて4人の冒険者と話をしていた。


 冒険者を気にしたいんだが、蛙の格好が異常すぎて気になってしまう。ユニークモンスターってのは、戦闘力以外にも大きく変化するもんなのか、こんな外見の蛙系魔物が一種として存在しているのか気になるところだ。


 メルのサポートもあってプレイヤーと魔物の会話が十分聞こえるようになってきた。



「貢物を持ってきた人間なんぞ珍しいと思ったら、毒入りとは愚かなことじゃ」


「くそ! みんな攻撃開始だぁ!」



 黒いコートを着て刀を持った青年が声をかける。

 そしてまた黒いコートを着た魔導士が魔法を放つため魔力をため、弓使いらしき女性が矢を放つ。そして召喚士らしき少女が2匹の狼を呼び出す。黒いコートが流行ってるのか?


 狼を呼び出した少女が右手にアイテムを突然呼び出す。



「あれが噂の空間魔法か」


「魔法を使用した感覚はなかった」



 魔法じゃなければ固有のスキルってことか。

 あんな便利なスキルを全員共通で持ってるってヤバすぎるだろ。不意をついて様々な物をいつでも取り出せる可能性があるだけで、相手にする側はやりづらいのは目に見える。


 蛙が口から油鉄砲を放つ。

 たった一撃で冒険者組3人が放った遠距離攻撃が無効化された。

 召喚した狼も一撃で2匹ともやられてしまった。


 アイテムをスキルか何かで取り出した少女が蛙にむかって投げる。見たことのない鉱石のような塊は投げられてから少し経つと赤く輝き始めた。



「『魔封結晶』発動! “レッドサイクロン”」



 アイテムを投げた少女が叫ぶとAランクの火魔法が発動する。

 Cランクパーティーの召喚士がAランクの火魔法ってどんな原理だ?


 激しい火の竜巻が蛙を襲う。

 蛙は自分の足下にある池にむかって手を大きく叩きつける。


 すると巨大蛙よりも大きな水の壁が展開される。



「足下に水がある場所で火魔法とは阿呆なり」


「くそ! 何を使ってでも討伐するぞ!」


「愚か愚か」



 火の竜巻は水の壁に阻まれ、刀を持ったリーダーらしき少年は味方にむかって叫ぶが、水の壁を突き破って出てきた蛙の舌に吹き飛ばされる。


 まぁさすがに油断しすぎだ。あんなデカい声で叫んだら、自分の居場所を伝えているようなもんだ。



「冒険者たちが持ってるのは魔法を石に封じ込めて一度だけ投げれば使えるっていうものに見えるよ」


「魔法を封じ込めている?」


「うん。あれから属性魔法の魔力を感じる」


「さすがメルだ」



 スライム形態のメルを撫でてやるとプルプル震えながら喜んでいた。

 かなり便利なアイテムだな。あれがあれば俺がガラクシアやメルの魔法や魔導を使えるってことだもんな。


 1人やられて陣形が崩れた冒険者たちは蛙の舌に薙ぎ払われていく。



「い、嫌だ死にたくない!」


「まだ高校生なの! 許してぇぇぇ!」


「『魔封結晶』発動! “ダークネス・ジャベリン”」



 命乞いをはじめた魔術師と召喚士を無視して弓使いがアイテムを投げる。

 紫色に光ったアイテムから闇魔法が放たれる。


 でもSランクの魔物にあんなの効かないだろう。ユニークモンスターは同種族からステータスも跳ね上がっていると聞いている。生半可な攻撃じゃ通じないはずだ。



「よくこの程度で儂に挑もうと思ったのう!」



 蛙が何かを投げる。

 尖った鉄のようなもので、確か「紅蓮の蝶々」のツララが使っていたクナイとかいう武具だった気がする。


 クナイは闇魔法を吹き飛ばして弓使いの頭に突き刺さった。

 さすがに脳までダメージを受けたなら人間ならば即死だろう。

 

 そして何故か死体が光の粒となって消えていった。

 せっかく死体はお願いして頂いていこうかと思っていたのに…。


 さすがに最後の1人が死ぬ前に間に入ってほしいとメルに伝える。



「いやだぁぁぁぁぁぁ!」


「お、お願いします! 助けてください!」


「くそぉ!」



 蛙の舌に吹き飛ばされたリーダーらしき青年も復帰するが命乞いをする2人は完全に心が折れているようだ。

 すると蛙は座り直して葉巻を吹かし始めた。



「なんでお主らのようなヒヨッコがこんなところにきたんじゃ?」


「そ、それは……」


「も、元の世界に帰るための条件にユニークモンスター『大蝦蟇』の討伐があったんです」



――ブシュッ!



 真面目に理由を語った魔術師の頭にクナイが突き刺さる。

 ドサリと声をあげることなく倒れた魔術師も光となって消えた。



「さっきから死体が残らんのは何故じゃ?」


「私たちは別世界からきた精神体みたいなものなんです! でもこの世界で死んじゃうと向こうの世界の私たちも死んじゃうんです!」



 召喚士の女の子が叫ぶ。

 さっきからよく分からん! 別世界に本体はいるけど、この世界で死んだら結局死ぬ。そしてこの世界を出るために頑張るって、なんでこの世界に来たんだ?



「もう来ません! だから許してくだっ!?」



――ブシュッ!



「ひぃぃぃぃ!」



 頑張って命乞いをしていた召喚士の頭にもクナイが突き刺さる。

 声も上げられずに光となっていく仲間を見て刀を持った青年は腰を抜かしてしまう。


 

「ゴフゥッ!」



 勢いよく吐血する青年。

 しまった毒喰らってるじゃん!



「メルあの蛙に話つけてくれるか?」


「はーい♪」



 俺は木の陰から走り出して青年のところへむかう。


 血を吐きながら涙を流す青年の下へつく。

 ダメだ、もう死ぬ間際だ。



「大丈夫か!?」


「あぁ…死にたくなぃ……お金なんていらないから…ログアウト…させて…」


「ログアウトってなんだ? どうすればできる?」


「…な…なん……こ……ことに…」


「しまったな」



 想像以上に蛙との戦力差がありすぎて、全滅させてしまった。

 全然情報を聞き出せなかった。チャンスを無駄にしてしまったな。

 でも情報はいくつか得ることができた。


 メルのほうを見ると蛙と談笑していた。

 さすがに蛙もメルに挑もうとは思わなかったか。



「そこまで惜しい存在だったのか? 魔王よ」


「いや…殺すのはいいんだが情報が欲しかっただけなんだ」


「死んだら光となって消えるとは精霊みたいな連中じゃったな」


「さすがの実力だよ大蝦蟇」


「こんなとんでもない魔物を配下にしとる魔王に言われても嬉しくはないのぅ」



 スライム形態のまま俺のほうに飛び跳ねてくるメルを受け止める。

 かなり話がわかる魔物のようで実力もかなりのものだ。


 シンラも終わったのを確認できたのか空から俺の隣に降り立ってくれた。

 これは良い機会かもしれないな。



「大蝦蟇、もしこの場所に居座る理由が無いのなら、ぜひ俺と一緒に来てくれないか?」


「ほほう……」


「魔王の配下として大事な戦力になってほしい!」


「ストレートじゃのう……断るとそこのスライムに喰われてしまいそうじゃし、良いじゃろう」



 まさかこんなところでSランクの魔物が仲間にできるとは思わなかったけど思わぬ幸運だ。配合をせずにこんなにも強い魔物が手に入ってしまうのは、俺からすれば大きな話だ。


 「プレイヤー」って奴らの情報も少しだけ集まったしとりあえず帰って色々まとめないとな。










――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 帰ってきた俺たちはさっそく大蝦蟇を配下魔物として登録はできていないけどみんなに紹介した。配合して登録をしないとな。

 魔物として歴は長そうで素早く順応していた。


 冒険者から得た情報を交流ある魔王たちにメッセージとして送っておく。

 

 聖国にダンジョンがあるアイシャやアクィナスさんは「プレイヤー」についてかなり気にしているので感謝されている。


 少し時間ができたので大蝦蟇のステータスを見ておくことにする。



 【大蝦蟇】 蛙人族 ランクS 真名 無し 使用DE?

 ステータス 体力 S  物理攻 A  物理防 S

       魔力 A  敏捷 S  幸運 A

アビリティ ・ユニークモンスター S

      ・伝説の忍 S

      ・完全適応 A

      ・驚異の身体能力 A

      ・水精霊の加護 A

スキル  ・忍術 S

     ・水魔法 B

     ・召喚術 C

     ・毒攻撃 A


 ・蛙系統の魔物が特殊な条件で変化したユニークモンスター。

 ・忍術を主体とした戦法を好み、どんな環境でも適応し戦闘能力を維持できるため戦闘においては万能型として活躍できる。




 かなり有能な魔物だ。

 結局俺はGランクの魔物以外呼び出せないのだから野良の魔物だろうが関係ないのだ。

 もっと最初に気付けばよかったと思ったが、正直仲間にできたのもメルのおかげなのでメルに感謝だな。


 「プレイヤー」についての謎やら帝国との関係と次々と問題が出てきて疲れてしまうが、それも最高に楽しい国を作るための足掛かりと考えて頑張っていくしかないな。


 それにしても“こうこうせい”って何を意味する言葉なんだ?

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