第15話 広がっていく『アーク』


 アルカナ騎士団との戦いが無事に終わってからアークの評判は色んな意味で広がった。帝国からの提案を断った話がそこまで広がらなかったのはガラクシアが洗脳してくれたおかげだ。

 ルビウスでの宣伝が今まで以上に大きくなったからかアークに観光に来る人もダンジョンを攻略をしに来る冒険者も増えた。


 まだ2週間しか経っていないのにルジストルとリーナが対応に追われている。

 たぶんもっと広がっていくと予測できるから、今まで以上に2人をサポートできる環境を整えなければならない。

 

 アークで働きたいという人も増えてきたので最初はホムンクルスや亜人が街の職員として多かったのが人も増えてきて仲良くやってくれている。


 商人も増えて店も多種多様なジャンルが並ぶようになった。冒険者むけ商品が多かったのが今までだが、現状では生活雑貨なんかも多くなってきており、住民の満足度が上がってくれている。

 そしてダンジョンの難しさが広まると同時にB~Aランクのパーティーが街に滞在するようになった。

 だが今のところ色違いイブリースという名のメル分裂体を超えた者はいないので安心だ。



「鉱山よりも農業のほうが有名になるのは良い傾向だな」



 レーラズのおかげで農作物はどの街よりも質が良く、たくさん育つ街として有名になってきた。

 ここで育った野菜や果物には特別な力があると有名になるほどになってきて、育つことが約束された大地なんて言う商人もいる。



「魔王との交流も多くなってきたな」



 アイシャにミルドレッドとは定期的に会って話をしているし、色々相談をさせてもらっている。

 そして最古の魔王たちで俺と連絡をとってくれる4人には「プレイヤー」について得た情報を共有したり教えてもらっている。

 ちなみにアクィナスさんとリンさんは2人で街に遊びに来てくれたこともある。短時間の来訪だったが楽しんでいってくれた。値踏みされている感があったけど…。



「やりたいことが多いな」



 魔物たちのLv上げが全然できていない。

 ポラールや阿修羅が『豪炎』のダンジョンに連れていってやってくれているが、戦力把握のためにも俺が動かなきゃと思いつつ甘えてしまっている。



「きゅ~~♪」


「相変わらず自由な奴だ」



 コアルームで色々弄る俺の膝上で甘えてくるカーバンクルと戯れながら最近の魔王社会の状況を調べていく。

 主に魔王戦争の結果や死んでしまった魔王を見ていくだけなんだけど、こういった情報を仕入れておかないと置いていかれるような気がして怖いのだ。


 そして気になるのは俺と同期の魔王で聖国にダンジョンを構えている魔王が次々と冒険者にやられていること。

 ランクの低いダンジョンばかりだが、やはり「プレイヤー」集団に襲われてしまいDEが尽きてやられてしまっているようだ。

 アイシャレベルになると逆に冒険者なりたての「プレイヤー」たちは寄り付いてこないようだ。



「元の世界ってのが気になるな」



 この世界でやられてしまった「プレイヤー」は元の世界に帰れずに死ぬっていうことなんだろうな。どんな世界だか気になってしまう。

 でもそんな条件でもダンジョンに挑むってことは余程帰りたい世界が俺の知らない所にあるってことだ。



「各国についての情報は少しは手に入ったから良しとするか」



 ルビウス領主の館から良さげな資料は頂いてきたから、みんなで読み漁った。

 王国・帝国・公国・聖国以外の国の情報だったり、強い人間の存在だったり、地理の特徴やどんなダンジョンが発見されているのかっていうことまで分かったからこれだけでも戦った意味があると言える。



「魔王のあるべき姿なのかは分からないけど、少しずつ進んではいるな」


「きゅっきゅ~~~♪」



 カーバンクルを撫でながら独り言を呟く。

 

 そんなことを考えながらぼんやりしているとルジストルからメッセージが入り、ビエルサが話をしたいとのことなので来てほしいとのことだ。


 Sランク冒険者なのに凄く影が薄いけど頑張ってくれているからしっかり話を聞かないとな。








――アーク 冒険者ギルド 会議室



 そこにはオープルに「紅蓮の蝶々」のリーダーであるレディッシュに顔を決して人に見せないビエルサが座っていた。

 何やら軽い話ではなさそうだ。



「何事なんだ?」


 

 俺は用意された椅子に座りながら問いかける。

 ビエルサは各地に諜報活動をしてもらっていたり、アークの宣伝活動をしてもらっているのでアークに帰ってきていること自体珍しい。



「報告が2つある」


 

 ビエルサが応える。

 声もほとんど聞いたことがなかったから少し驚いたけど、あんまり良い予感がしない雰囲気だ。



「ユニークモンスターが発見された」


「ここから東に20㎞ほどの場所にね」



 冒険者ギルドに所属する冒険者のほとんどが討伐を狙う特殊な魔物。

 阿修羅が配合される前に、黒いゴブリンだったのは人の世界ではユニーク化と言うらしい。

 ユニークモンスターは特殊な素材なんかが手に入り、唯一無二の武器になったりするからどの冒険者も追い求めているらしい。

 そして魔王からすれば野良魔物を捕まえてもコアに登録できないことから狙う魔王は少ないがユニークモンスターは狙うこともあるらしい。

 その理由は配合すれば配合後の魔物は登録できるからだ。




「けっこう深いところにいるんだな。そいつがどうかしたのか?」


「その魔物を狙ってルビウスに自分を「プレイヤー」と呼んだ冒険者が滞在していて、その魔物を討伐するため出発したそうだ」



――ガタッ



「まだ間に合うな」


「あぁ…ユニークモンスターが確認された地点に徒歩で行くにはなかなか骨が折れるからな」


「凄い報告だ。俺が見に行こう」


「だが…そのユニークモンスターに対して挑みに行った冒険者の実力が低すぎるのが気になる」


「辿り着けるのか?」


「辿り着いてもすぐにやられる可能性が高いわ」


「急げってことだな」


「情報はこの紙にまとめてある」



 俺はビエルサからユニークモンスターの情報を、オープルから冒険者の軽い情報を貰う。

 レディッシュは発見された場所に印がついた地図を渡してくれた。

 

 俺は急いでダンジョンに戻り連れて行く魔物に声をかけて準備をした。








――帝国領南 大森林 



 ビエルサたちから報告があってすぐに俺はメルとシンラを連れて大森林空を飛んでいた。

 シンラに乗せてもらい地図の地点まで向かっている。

 さすがにシンラに飛んで襲ってくる魔物はいないようで安心した。


 大森林は生息する魔物のランクの幅が広く、アークがある地域は低ランクが多く、ルビウスの近くはCランク帯が多い。そして今向かっている地点はBランクの昆虫族が多いらしい、だが敵意や闘気を出さなければ襲い掛かってくることが少ないという話も聞いたので、移動できるシンラに何でも屋さんのメルを連れてきた。



 ユニークモンスターは巨大蛙型の魔物で推定ランクはSとかなり高い。

 大森林の昆虫魔物を食いまくって巨大化していき、大量の魔力も摂取していった結果とんでもない魔力を有した蛙になったという推察が書かれている。


 向かっている冒険者は聖国出身で「プレイヤー」軍団と同じ時期に冒険者になった4人組だ。

 なんとランクはCのパーティーだが、どうしてもこの魔物を倒さなくてはいけないということで周囲の反対を押し切って出発したとのこと。

 本人たちの話ではこの魔物が3つの目標のうちの1つらしい。4人は同じ目標をもつ同志だということも書いてある。



「さすがに無謀すぎるぞ」



 どんな能力を持っているか知らないけどCランクパーティーがSランクの魔物に挑むなんて無茶にも程がある。


 地図に書いてある地点が近づいてくると戦闘をしているらしき魔力の流れをメルが感じ取った。

 

 シンラに指示を出して気付かれない距離に降ろしてもらい、スライム形態のメルと一緒に前方にある巨大な池へと向かった。



 


 

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