第4章 その『意志』は遥か高みへと

プロローグ 物知りな『先輩』魔王


 大蝦蟇が仲間になって1週間が経った。

 アークはルビウスの宣伝力もあり、人が集まってくれて、どんどん大きくなり、娯楽施設なんかもできてきている。


 「プレイヤー」については最古魔王の方々と情報交換をしており、みんな掴んでいるのは同じような情報ばかりだった。というか、何やら興味が薄れてきている感じもする。自分たちを脅かす存在ではないと判断したんだろう。

 さすがにEXランクのダンジョンには訪れもしないし、近くにも来ないためなかなか掴みづらいらしいのもあるそうだ。


 プレイヤーという不安は残ってはいるが、アークは本当に順調に進んでいってくれている。

 

 冒険者もアークを拠点にしてくれる人が増えてきて、ダンジョン攻略に向けて気合を入れてきているパーティーが増えた。

 残念ながら偽イブリースを倒せたやつはいないんだが、日々攻略にむけて冒険者ギルドを盛り上げているようだ。

 でもイブリースの噂は広まり、かなり難易度の高いダンジョンとして名が広まってきた。ルーキー冒険者が挑みやすい噂も流していきたい。

 この調子だとSランク冒険者やSSランクパーティーが訪れる日はそこまで遠くないように感じる。


 今日はミルドレッドが俺とアイシャに世界に存在する人間側の強者について語ってくれるとのことで。食堂でお昼を食べながら話を聞いている。



「やっぱり人間って数が多いよなぁ」


「そうですね。四大国以外にも国はありますから世界は広いです」


「有名な所から話していこうか!」


 

 個人でSSランクと呼ばれる人間は少なく、全員何かしらの称号や地位を持っているような人物ばかりらしい。

 ミルドレッドはそういう情報を集めるのが好きなようで、よく四大国の大きな図書館に人の姿で入って勉強をしているようだ。よくバレないな。



「まずは4人の賢者だね!」


「最高峰の魔法使いですか」


「4人しかいないんだな」



 人間の中で最高レベルの魔法を使うことができる4人を賢者と呼ぶらしく、世界中で弟子も多くいて、この賢者のおかげで日を重ねるごとに人間の魔法への理解は深まってると言われているらしい。ミルドレッドは長年生きているだけあって、敵対する人間は嫌でも覚えてしまったんだろうか? 気付けば博士みたいに覚えてしまって楽しくなってきたような気がする。



「まずは王国にいる『時詠みの賢者バロン』だね!」



 自分の好きな分野の話だからか、凄い元気なミルドレッド。

 早口で全部頭に入っているわけじゃないんだけども、王国にいてずっと魔法の研究をしているお爺さんらしい。



「なんといっても最強の時空間魔法使いと言われているね」


「時空間魔法を使えるのは魔物ですらそこまでいませんからね」



 ガラクシアとポラールよりも凄い時空間魔法の使い手なのだろうか?

 一応二人とも時空間魔法スキルはEXだったはずだ。もしかしたら時空間魔導の使い手なのかもしれない。



「他の魔法も最高レベルで使える賢者の中でも最強と呼ばれてるよ」


「お弟子さんも多いようですね」


「アイシャも詳しいんだな」


「さすがに有名どころは少しだけ知っています」



 帝国のことばっか調べていたから帝国関連じゃないとついていけないな。

 人間はすぐ集団にして名称をつけたがるから多すぎて覚えきれない。

 俺の頭はアルカナ騎士団の20人ちょっとで限界なのだ。



「2人目は公国の『星語りの賢者セレーナ』かな」


「名前的に星魔法の使い手なのか?」


「星魔法を使えるんだけど、彼女が有名なのは占い術だね」



 星魔法の力を使った占いが2年予約待ちになるほどの絶大な人気を誇っているらしい。

 正直予約待ちじゃなかったら俺も占ってほしいなんて思ってしまった。でももし本当に当たる占いなら、その結果ばかり気にしてしまって嫌な目に遭いそうだから、やめておこう。



「そして3人目は帝国の『女帝ザ・エンプレス』のラウラ』」


「アルカナ騎士団第2師団団長」


「さすがに帝国だけは勉強しているようですね」



 アルカナ騎士団最強3人衆の1人『女帝ザ・エンプレス』。

 とにかく攻撃魔法を多種多様に習得していて、膨大な魔力でパワー勝負をするのが好きなヤバい奴だという情報を掴んでいる。しかも魔力が尽きないオマケつき。

 個性的でぶっ飛んだ性格、かつ好奇心旺盛との噂があるので出会いたくない。



「そして4人目は勇者だね」


「勇者か…」


「気になるかい?」


「あぁ…勇者については勉強不足だ」


「『救世の賢者・坂神雫』」



 本当に勇者は覚えにくい名前をしていると思う。

 けっこう謎に包まれていて、どこの国も勇者については情報が外部に漏れないように厳重に扱っているようだからな。さすがに長年魔王と戦っているだけ、ある程度は漏れてるけどな。


 分かっているのは名前と勇者は亡くなっても1年以内には新たな勇者が誕生するということだ。



「勇者が魔王を討伐するのは1年に数回のペースさ、もうそろそろ前の『氷帝』が討伐されてから半年くらいだね」


「どうやって決めるのでしょうね」


「ん~、意外と適当なんじゃないか?」


「できれば今はまだ来てほしくないな」



 勇者って呼ばれるのは全部で8人いるらしい。

 だがそれは判明している名前が8人なだけで俺たちが知らないだけかもしれない。



「勇者がどのダンジョンを攻略するかは稀に噂にはなるけど、基本いきなり来るからね」



 8人がまとめてくるんじゃなくて、8人がそれぞれ各地で色々やっていて集まれたメンバーでやるらしい。

 1人でもかなりの戦闘力を持っているようで『氷帝』はSランクダンジョンだったが4人の勇者に1日で完全に攻略したそうだ。


 勇者にも実力に大きく差があるようで、それなりに実力社会という噂も出ている。



「8人いる中でも魔王討伐だけを仕事とする勇者がいるからね」


「『神速刃・暁蓮』ですね」


「本当どいつもこいつも変わった呼び名つけられるよな」



 それが本人たちの名を広める役割になり、魔王や魔物が起こす様々なことに対する抑止力になったりしてるのかもしれないけどな。

 でも長くされると覚えにくいから短くまとめてほしいと思う。



「本当に昔から活躍されておられる魔王様たちくらいでしょうか? 勇者を不安視していないのは」


「8人揃って動くことは歴史的に見ても少ないらしいからね」


「1人だったらなんとかなりそうだけどな」



 8人いるってのと名前、化け物みたいな強さに固有の能力があるって情報だけで対策たてるのは骨が折れるので来てほしくない。

 だが魔王として戦うことになったら全力でやらなきゃいけない。


 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のみんなが無敵だなんて思ってないし、むしろ勇者はEXランクだと勝手に思ってるから時間があるときにみんなと話をしてみるのも面白いかもな。




「ルーキー同士の魔王戦争も白熱してるからね。終わった2人からすれば気が楽なんだろうけどさ」


「いつ仕掛けられるか分からないからずっと不安だよ」


「私もです」


「はっはっは! アイシャなんか100年魔王やってる奴でも到達できないような魔王が多い、Sランクダンジョンなのに面白いこと言うじゃないか!」



 アイシャはもう魔名もダンジョンもSランクなのだ。

 進化したドラコーンはあの最強の龍であるクラウスさんが認めるほどの魔物だから、あれを見て仕掛けようなんて思う奴はなかなかいないと思う。


 そう考えると魔王戦争で本気を見せておくのは他の奴らに対する影響が大きそうだから次回は全員出動が良さそうだな。



「そういえばソウイチは、アルカナ騎士団とやったんだってね?」


「あぁ…第7師団と戦って勝ったよ」


「凄いじゃないか! 倒せたのかい?」


「いや…団長は上半身消し飛ばしても復活してきたから人質作戦さ」


「魔王の私たちが言うのもあれだけど、人間も化け物みたいな奴が多いからねぇ」



 最古の魔王様たちは、すでに人間と争うことも飽きたように感じるが、結局魔王と人間が争う構図は変わらないのかもしれない。

 できることならば誰も死なずに済むような世界が理想なんだけど、そんな甘い考えは難しそうだなって思っちゃうな。

 

 アイシャ、ミルドレッドとのおしゃべりはけっこう続いた。

 互いにダンジョンを任せられる存在が多い証拠だろう。

 結局4時間ほど話をしたところで俺のダンジョンにAランクパーティーが攻略しに来たので解散になった。



 その日の夜。



 ミルドレッドから「魔王戦争」をすることになったから応援よろしくというメッセージが届いた。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る