第9話 優雅に翔ける『日輪』
――『大きな岩石掌』 ダンジョン入口
帝国に存在しているSランクダンジョンの中でも、特に物理防御力に秀でた魔物が数多く存在し、肉弾戦を得意としているフィジカル系魔物も多いのが特徴的であるダンジョン、『大きな岩石掌』。
魔法防御力も低い訳ではなく、ただただ頑丈で、多くの冒険者や、魔王戦争で敗れていった魔王たちが心を砕かれるような圧倒的なフィジカルパワーで生き残ってきた魔王がここの主である『巨岩手の魔王』。
単純な物理攻撃力と防御力がずば抜けた魔物が多く生存している、このダンジョンに挑む冒険者は少なく、 「ストーンオーガ」や「鋼岩巨人」といった魔物たちが戦いに飢えているところに1人の褐色肌にボロボロの白布を軽く纏っただけの少年が足を踏み入れる。
『大罪の魔王』の配下で『
『大罪』が誇る、単純な戦闘ならば『
「他ダンジョンを学ぶことは良い経験になると言われたけれど……楽しみだね」
とても穏やかに、そして落ち着いた様子で岩山の多いダンジョンを歩き始める。
一方、久々の餌と呼べるような存在に『巨岩手』の魔物たちは大いに沸きあがり、そして我先にと勢いよく走っていき、シャンカラを潰してやろうと迫っていく。
「命は大事にしないと」
せっかく1人で任されたので、少しでもダンジョンについての経験を深めていこうと思っていたが、魔物たちが実力の差も分からず突撃してくる姿を見て、少しだけ萎えてしまうシャンカラ、だが本来の目的は自分の主人が敵視した存在を滅ぼすことだ。
なのでゆっくり動きながらでも、ダンジョンを見学できるような存在になろうと思い、自身が持っている唯一のスキルである『
「『
――ゴウウゥゥゥゥッ!!
一瞬にしてシャンカラの身体から岩をも一瞬で燃やし溶かす灼熱の魔力が放たれる。
シャンカラへと迫っていた魔物たちは声をあげることなく燃え尽き灰になって散っていく。
灼熱の中から現れたのは、逆立った金髪に3つの目、そして4本の腕を持ち、7頭の炎で出来た馬が引いている戦車に乗った人型の神であった。
戦車は玉座のような場所が椅子となっており、優雅に腕を組みながら、ゆったりと戦車を進ませ、周囲を観察するシャンカラこと『
現在のスーリヤは灼熱の神力を発しており、近づいた魔物を全て燃やし尽くしている。近づくと言っても5㎞範囲に居る魔物を全て燃やしているので、突如として魔物たちが燃え尽きていく現象が起きており、ダンジョンは一瞬にして大混乱へと陥ってしまった。
スーリヤの存在は全ての夜の闇を追い払い、生き物に活力を与える存在なのだが、『大罪』という力を授かった影響か、その存在は全ての夜の闇に留まらず、自身に近しい存在をも焼き尽くして追い払う神へとなってしまったのである。
今のスーリヤは力を抑えないとダンジョン丸ごと焼き尽くしてしまうので、力を抑えてはいるのだが進んでも進んでも焼かれていく景色に対して、さすがに飽きてしまう。
「耐えれる者はおらぬのか」
『
しかし、スーリヤの嘆きに呼応するように、巨大な岩手が宙を浮いて近づいてくる。
「戦争壊し」をも握り潰せるほどの大きさを持つ、『巨岩手の魔王』が誇る最強のSSランクの魔物でもある『ガイアハンド』という巨大な岩手。
スーリヤの体から放たれている灼熱に手全体が焦がされつつも、ゆっくりとスーリヤに迫るガイアハンド、どうにかして主を守るためにも、目の前のスーリヤを握り潰してやろうという気概が見える。
そんなガイアハンドに向けてスーリヤは、右手の人差し指を向ける。
その指先に小さな火球が生まれる。小さな火球に見えるそれは、まるで太陽のように極大の高熱を放っており、ガイアハンドは自身よりも遥かに小さな火球に命の危機を自然と感じたようで、動きを止めてしまう。
だが時は既に遅し。
「『
フワッとガイアハンドに向かって飛んでいく小さな太陽。
それを迎え撃つガイアハンドは自身が得意としている攻撃方法である、握り潰すという行動で小さな太陽を掻き消そうと試みる。
――ゴォォォォォォッ! バキバキッ!
爆発するわけでもなく、衝撃波を放つこともなく、『
岩で出来た巨大な手が燃え尽きていく、たった1発の火球によって消滅してしまったガイアハンド以上の魔物は存在していない『大きな岩石掌』。
スーリヤもなんとなくそんなことを察しながら、ゆったりと戦車を進めていく。
「地下に広い我らがダンジョンとは違うものだな」
雰囲気も性格もさきほどまでのシャンカラとは、違うものとなっている。これも能力の特徴だ。
スーリヤが近付くだけで焼け野原になっていくが、一応遠い場所には巨大な岩山が何個も連なっている。
巨大な岩を投げてくる魔物、土魔法を放ってくる魔物、様々な手段でスーリヤに向けて攻撃を放っていくが、どれも届く前に灰となって消えていく。
普段は物理を上げてとにかく殴るを実行してきた『巨岩手』の魔物たちは慣れぬ場面に上手く立ち回れない。魔王からの指示がコアを通して流れていくが、近づいてしまえば焼き尽くされる状況に、どの魔物も冷静ではいられないのだ。
「弱肉強食。我らが主人よりも弱い主人を持ったが
悶え苦しみながら燃え尽きていく魔物たちを見て、ボソッと呟くスーリヤ。
自身も1度の攻撃で死にかけた、か弱き小猿であったが主人に恵まれて、自身の好きなように進化への道を選ばせてもらった身としての経験を含めての呟きでもあった。
「輪廻の先にて新たな主人に恵まれることを願おう」
ゆったりと天を歩いて進んでいく馬に引かれ、スーリヤは着実にコアへと近づいていく。
1番大きな気配がする場所へと戦車を進めていくスーリヤ。
しかし、目の前に3体のガイアハンドが出現する。
3体のガイアハンドは互いに手を繋ぎ合い、巨大な拳のように合体してスーリヤへと勢いよく向かっていく。
その姿は主を絶対に守ろうと言う決死の覚悟が感じられる。
スーリヤはそんな3体のガイアハンドを見ても、姿勢を変えることも無く、足と腕を堂々を組みながら、戦車についている玉座に座っている。
「主を死守する勇姿は良し、だが我に挑むには時期尚早であったな」
スーリヤから放たれる灼熱の神力が一気に強大になる。
ただでさえ焼き尽くされていくような灼熱が、さらに勢いを増していき、SSランクのガイアハンドさえもスーリヤに辿り着く前に灰となって朽ち果てていく。
スーリヤの解き放った『太陽の神力』はダンジョンに存在している岩山すら跡形もなく燃やし尽くしていく。
ダンジョン奥地に感じていた気配の存在が悶え苦しんでいるのをスーリヤは感じる。確認することは出来ていないが、おそらくダンジョンの主である魔王だと予測したスーリヤは魔王らしき存在が燃え尽きることが出来るように、後少しだけ出力をあげる。
こうして、多くの冒険者と魔王に恐れられたダンジョン『大きな岩石掌』は1人の太陽によって跡形もなく燃やし尽くされてしまったのである。
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