第8話 『雷』は駆ける悪の下へ


――『稲妻の谷』 ダンジョン入口



 四大元素には含まれてはいないものの、『雷』という強力な元素の力が強化された魔名でもある『轟雷』。

 Aランクながらも1つの属性に特化したダンジョンとして有名でもある中堅魔王のダンジョンである。


 ダンジョンの中は各階層がまるでダンジョン内とは思えない自然ある空間となっており、共通してどの階層も天気が悪く、落雷の群れが周囲の木々を襲っている。


 そんな『稲妻の谷』の入り口から突如大きな次元の裂け目が現れる。



――ドドドドドドドドドドドッ!



 地鳴りのような音を響かせて、裂け目から現れるのは、赤黒い魔力を纏いながら、全速力で走っている大量のスケルトンたち。

 そして1匹の巨大な鳥と鳥の上に乗るカーバンクルである。


 まるで雪崩のように溢れ出てくるスケルトンたちは立ち塞がる魔物を気にしないかのような勢いで飲み込んでいく。


 世にも奇妙な全速力で走るスケルトン軍団の最後尾に現れたのは7つの首にそれぞれ王冠を乗せた地上を歩く竜と豪華な装飾を施したスケルトンである。


 『大罪の魔王』が誇る『枢要悪の祭典クライム・アルマ』が3体。

 『虚飾ヴァニタス』『不死ポイニクス』『暴食グラトニー』の3つの大罪を司る魔物たちである。


 

 『轟雷』の魔物たちは文字通り、ほとんどが『雷』の力を使用する魔物で構成されており、走って向かってきている異常なほどの頑丈さを誇っているスケルトンに向けて得意な『雷』の攻撃を放っていくのだが…。



「そんなもの我らが神鳥の前では通じぬ! お主らの雷を糧に我らはさらに強大な存在へと昇華しようぞォ!」



 最後尾でバビロンが吠えるように、『轟雷』の魔物が放っていく雷は全て上空にいるシンラに吸い込まれるように軌道を変えて吸い込まれていく。

 空から降り注ぐ落雷も全てシンラに吸い込まれていき、その魔力をシンラの上で寛いでいるリトスが吸収して大量の宝石に変えていき、地上にいる全力ダッシュで駆け抜けているスケルトンたちに雨のように投げていく。



「きゅ~~♪」



 リトスが次々と投げ入れていく魔力が溜められた宝石に触れたスケルトンはバビロンによる加護にプラスにして強くなっていく。

 もはやGランクであるスケルトンの姿はそこにはなく、Aランクダンジョンである、『轟雷』の魔物である「バイコーン」や「サンダーリザード」、「雷鬼」といった魔物を次々と骨の大波で押しつぶしてく。


 ただのスケルトンがSランクの魔物を超えるような力を手にしている光景である。


 もはやダンジョンのコンセプトを根本から崩壊させてしまう存在であるシンラのアビリティ、全ての雷を自身の体力へと変えてしまう『雷は駆ける悪の下へスカイ・ブリッツ』、そして攻撃を引き寄せるリトスの『暴食グラトニー』のスキル技の一種『啜る大喰らいグラトニーストロー』、それと吸収した魔力を宝石に変えてばら撒いて魔力を付与する『煌めく宝石を喰らう者レインボーグラトニー』。


 そしてリトスから雷の魔力を少しずつ付与されるスケルトンたちは、環境の恩恵を自然と受けれるようになっていく。

 スケルトンの勢いをどの魔物を止めることが出来ず、Sランクであろう魔物たちも轢き殺されていく。



「我が軍勢止まることを知らず! 次の階層も進めぇ! 滅ぼし続けるのだァ!」



 難なく階層を突破していくスケルトン軍団。

 様々な罠も正面から数の暴力で潜り抜け、破壊されてもバビロンの『強化蘇生』で片っ端から復活していく。

 魔力もリトスによって回復していくので、まさしく無限機関のスケルトン軍団である。


 『轟雷』の魔物が次々とスケルトンの大波に飲み込まれていく中、巨大な一匹の魔物が立ち塞がる。



――ギャオォォォォォッ!



 『稲妻の谷』が誇るSSランクの魔物、『渦雷之ベヒーモス』という雷を帯びた巨大な角を持った、デカい獅子の外見をした魔物である。通常のベヒーモスよりも雷系統の能力を多く所持しており、シンラと同じように一定レベルの雷は全て吸収して体力へ変えることができ、体力と防御ステータスの高いなかなかタフな魔物である。


 ベヒーモスの咆哮が勢いのあったスケルトン軍団の先鋒たちを衝撃波によって吹き飛ばしていく。

 その様子を見たバビロンはシンラにむけて杖を掲げる。



「我が友よ! 立ち塞がる魔獣に神の裁きを!」



――キィィィンッ!



 バビロンがシンラに向けてアツいセリフを叫んだ後。

 シンラの身体が一瞬輝く。


 そしてベヒーモスに向けて一筋の落雷が襲う。



――ズガァァァァンッ!



 『渦雷之ベヒーモス』の雷に対する耐性なんて、まるで無かったかのように、シンラから放たれた眩いばかりの一筋の『神雷』は、ベヒーモスの体を僅か1秒足らずで黒焦げの灰へと姿を変える。

 

 いかなる雷耐性をも無視し、防御能力すらも無効化し、どれだけ防御ステータスが高くても、そのステータス補正を無視するのが、シンラのアビリティ『雷は駆ける悪の下へスカイ・ブリッツ』から放たれるスキル『神雷』だ。


 真名持ちでもあったであろうベヒーモスが一瞬で突破することができて、さらに勢いを増すスケルトンの軍勢、DEを使用して復活してくる魔物たちもおかまいなく進んでいく。

 大きくて進路を塞ぐベヒーモスのような魔物はシンラが駆逐していき、永遠とスケルトンにバフをばら撒きながら空の旅を楽しんでいるリトス。


 スケルトンに轢き殺されていく魔物の骨もスケルトンとみなして復活させていくことで大小個性的なスケルトンが次々と生まれては波に加わって勢いを増していく。


  途中『渦雷之ベヒーモス』が2体登場することもあったが、そのたびにシンラが『神雷』で灰へと変えていく。

 いかなる抵抗をも無意味とし、『轟雷』として誇っている強力な雷スキルも全てシンラへと吸収され、スケルトンへのバフへと変えられてしまう永久機関のような構図はコアルームにいる『轟雷の魔王』に諦めを感じさせるには十分であった。


 ほんの僅かな時間で次々と階層を突破していき、そして奥に構えていた魔王のスキルもシンラに吸収されてしまい、抵抗する間もなくスケルトンの波に圧し潰されてしまい、コアもろとも消滅してしまった。



「勝鬨を上げるのだぁ! 我が王の魂にまで響くようにぃぃ!」


「きゅ~~♪」



 バビロンの叫び声とリトスの楽しそうな笑い声、そしてそれを静かに見守るシンラの3体は難なく、『轟雷の魔王』のダンジョンである『稲妻の谷』を攻略し、『轟雷の魔王』を無事撃破し終えた。


 互いのバフなんかは消し合ったりしてしまったり、能力を阻害してしまうこともある『大罪』たちではあるが、なんとか上手な連携と力のゴリ押しがなんだかんだ強力な『大罪』である。


 さすがにシンラにスケルトンを含めた全ての魔物をダンジョンに移す力はないため、3体は素直にウロボロスの到着を待つのであった。

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