第7話 『石獣』落日の闇



――『石の国』 ダンジョン入口



 『焔』vs『水』の魔王戦争まで残り2日。

 魔王戦争の戦場が『針山』に決まり、両陣営が対策を整えている時期。


 『石獣の魔王』のダンジョンである『石の国』の入り口には3体の魔物が立っていた。

 このダンジョンはAランクの難易度を誇っており、「石化」という珍しい状態異常を付与する魔物が多いのが特徴的な中堅ダンジョンである。

 『水の魔王』の同盟でもあり、魔王戦争ギリギリのタイミングで参戦することを発表する予定でもあるダンジョンでもある。


 入り口からゆっくりと進んでいくのは、『大罪の魔王』が誇る『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のうちの三大罪の姿があった。


 『色欲ラスト』の大罪を司る堕天使ガラクシア。彼女はしっかり時間が夜であることを確認して、ダンジョンに侵入し、今は元気いっぱいという表情だ。


 ガラクシアの隣を歩くのは『嫉妬エンヴィー』の大罪を司る最強のスライムである『メルクリウス』が、人間形態で少し気怠そうな表情で歩いている。


 最後に両肩に烏を乗せている巨大な蛙である『強欲グリード』を司る魔物だ。何やら印を組みながら前へと進んでいる。



「まずは儂からじゃな」


「おっけー!」



 この3体はそれぞれの能力で探知出来ない状態にあるので、『石獣の魔王』も、まだ侵入されていることに気付いていない。

 3体はそれぞれのバフ効果やデバフ効果を打ち消し合い、最終的には五右衛門が掻っ攫っているという噛み合わせの悪い状態になっているが、そんなの気にならないほどの力を持っている3体だ。



「ほれ…『影分身の術』じゃ」



――ボンッ!



 五右衛門の前に4体の分身が現れる。

 それと同時にメルクリウスの足先少し前から細くて青い蜘蛛の糸のようなものが地面全体に凄まじい速さで広がっていく。

 ガラクシアは少しだけ宙に飛んで、魔力を溜めている。


 五右衛門の意志が通っている分身は、何も言われることもなく消えるように散っていく。



「メルちゃん時間かかりそう?」


「30秒かかる」


「儂のほうも30秒程かかるのう」



 五右衛門は少しだけ前に出て、地面に刀を突きさす。

 突き刺した箇所はメルクリウスが地面全体に広げている青い蜘蛛糸の最初の地点。

 

 そして三人は時を待つ。



「『星核の根』広げ終わった。五右衛門の分身も完璧な位置に配置できたね」


「ほっほほ、ダンジョン全域を30秒で探知終えるとは恐ろしいもんじゃ」


「じゃ~、五右衛門の合図でよろしくっ!」



 五右衛門は自分の分身が刀をしっかりと、メルクリウスが張り巡らせた『星核の根』の各方面の最奥で突き刺せていることを確認してから、自分が突き刺している刀を握って力を行使する。



「お主らから『石』を奪ったらどうなるか見物じゃのぅ」



 五右衛門から魔力が溢れ出る。

 両手で刀を握る力を入れながら、集中する。



「ダンジョン全ての『石』を斬り奪わせてもらおうかのう! 叫ぶ必要はないが、儂の名刀の名を言わせてもらおうッ! 『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』!」



 五右衛門の勢いのある叫びから、特に音もなく一瞬の静寂が広がる。



――ボロッ ボロボロボロボロッ!



 しかし、少し間を開けて、周囲に大量にあった石の置物や柱、建物が崩れていく。

 五右衛門の『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』とメルクリウスの『星核の根』の連携から生まれた攻撃、メルクリウスが広げた根が全ての範囲を同じ対象としてくっつけて、五右衛門が各地に配置した位置から対象が同じになっている根にむけて『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』を放つことで起きた、一撃でダンジョン内にある1つのことを斬り奪うことが出来る必殺技だ。


 そして『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』によって斬られたのは、ダンジョンの格でもあり、全ての魔物に核としてある『石』という力だ。


 『石』を斬られたダンジョンと『石』の力を濃く受け継いでいる魔物は崩れ去っていく。


 そして五右衛門はガラクシアのほうを見る。



「もう大丈夫じゃぞ」


「おっけー! 2人とも少し下がってね!」



 ガラクシアの元気な声を聞いて、2人は必要と感じた以上に距離をとった。そして嫌な予感がしたメルクリウスは自分と五右衛門に『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』を張る。五右衛門を戦場では危険な自分のアビリティをOFFにしてまで『捻じれ逆巻く母なる海レヴィアタン』を受ける。


 2人は自然と感じていたのだ。


 これからガラクシアが行う力の恐ろしさを



「こんくらいかなっ!」



 ダンジョン上空のほぼ全域に巨大な魔法陣が展開される。

 ここにきてさすがにダンジョンの生き残っている『石』の力を濃く受け継いでいない魔物たちも全力で命の危機を感じただろう。


 そしてガラクシアが勢いよく、魔法陣の中央に向かって指をさす!



「禁忌魔導! 『終焉ヲ綴ル落日ノ闇ドゥームズデイ』」



 ガラクシアの宣言した直後に魔法陣は大きく輝く。

 輝いた魔法陣は一気に収縮して1つの紫色の球体へと姿を変える。


 紫の球体はゆっくりとダンジョン中央にむけて落下していく。



「私も隠れよーっと!」



 ガラクシアは魔導の発動を確認すると、結界を張っているメルクリウスと五右衛門の背後へと急いで飛んでいく。


 そして紫の球体が地面へと落下していき、地面に直撃する。



――パリンッ!  キィィィィィィンッ! 



 爆発音もしないような闇の衝撃波が一気に広がる。

 瞬きをするほどの速さでダンジョンフロア全域に広がった極大の闇は波動は全てを飲み込んでいく。


 大きなドーム状になった闇の波動は最後、一気に収縮して空間から消えていった。


 跡地には何も存在しないクレーターだけが残っていた。



「やりすぎ。だけどコアルームだけ残したのはさすが……詠唱無しで正解」


「儂らの意味あったかのう?」


「まだ残ってるでしょ!?」



 クレーターを覗いてみると、部屋への扉みたいなものがボロボロになって存在している。

 ガラクシアはしっかりとメルクリウスが張り巡らせた『星核の根』からダンジョン構造を把握しており、気合でコアルームらしき場所だけ残すように調整したのだ。



「全部崩れかけだったら、思ったよりもやりすぎちゃった」


「後は魔王本体かコアを壊すだけかの」


「しっかり倒したのを確認って言われた。ちゃんと見届ける」



 3体が話しながらクレーターを進んでいこうとすると、大量の魔法陣が展開していき、そこから魔物が大量に召喚されていく。

 ソウイチがGランクしか出来ないだけで、普通の魔王は1度召喚したことある魔物はDEを使えば召喚することが出来るのだ。


 しかし3人は特に気にすることなく歩くのを止めない。



――ガシュッ! ズシュッ!



 メルクリウスの身体から大量に伸びる『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』。

 次々と『石獣』の魔物たちを切り裂きながら喰らい尽くされていく。

 現在展開されている『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』は10体だが、十分なほどに次々と出現する魔物を片っ端から喰らい尽くしていく。ランクなど関係なく蹴散らされていくのを見て、後から召喚される魔物は恐怖を感じるが、気付いた時には『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』によって生涯を終えていく。



「本当便利だよね」


「あの扉吹き飛ばせるかの?」



 五右衛門の発言を聞いて『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』の1匹が少しだけ巨大化して、ボロボロの扉にむけて大きく口を開ける。

 真っ青な魔力が『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』口に集まっていく。



「『凹み竜巻く災いの海ラハブ』」



――ズガァァァァンッ!



 『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』の口から放たれたのは青色の砲撃。その一撃は射線上の魔物を消し飛ばし、ただでさえボロボロだった扉も跡形もなく消滅してしまった。


 扉が消し飛んだ場所から見えるのは、ソウイチのところにあるものとまったく同じコアと身体の一部が石で出来ている、ゴーレム型の魔王が怯えた顔で3体を見ていた。


 3体に何かを叫んでいるようだが、距離があるため3体とも特に何を言っているか聞き取らない。



「五右衛門トドメ!」


「よろしく」


「承知じゃ、忍法『灼熱蝦蟇油』」



 五右衛門の口から放たれるのは、大量の燃える油が勢いよくコアルームに向かっていく。

 クレーターに凄い勢いで溜まっていき、湖のようになっていく中、次々と『石獣』の魔物を飲み込んで燃やしていく。

 コアルームに入って行く油も防ぐことも出来ず、勢いに飲まれて『石獣の魔王』も抵抗することも出来ずに油に飲まれて燃えていく。


 バリンッというコアが破壊されたであろう音と『石獣の魔王』が燃え尽きていく姿を確認して3体は満足してガラクシアの近くによる。



「おしまいだね! ダンジョンに帰ろー!」


「はーい」


「各々ストレス発散にはなったようじゃな」



 こうして中堅魔王にまでなった『石獣の魔王』は突如現れた3体の魔物によってダンジョンごと跡形もなく消滅してしまったのである。




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