第10話 唯一無二『絶対傲慢』


――『ワンダー・ミミック・ランド』 ダンジョン入口



 帝国に存在しているSランクダンジョンの中でも、とても癖が強く難易度が高いダンジョンとされているのが『偽宝の魔王』のいる『ワンダー・ミミック・ランド』だ。


 入り組んだ迷路のようなダンジョン構造に、至る所に置いてある宝箱の山。


 何も知らない冒険者は、その夢のような光景に喰らいついてしまい喰らい尽くされるだろう。

 しかし、ここの宝箱の9割以上は、宝物に化けた俗に言う『ミミック』という魔物なのだ。

 

 誰かが宝箱を開けた瞬間に対象に向かって攻撃をする魔物。

 宝箱の中に潜んでいる人型だったり、宝箱自体が魔物であったり、様々なタイプがいるミミックだが、共通して言えることは防御ステータスが高くて、デバフを相手に付与するのが得意、そして一匹が起動すると、近くのミミックも起動して襲い掛かってくるという連携力だ。


 生息する全ての魔物がミミックという種族で統一されているというダンジョン、1つの種族で統一されているのは相当珍しく、その分魔物同士のシナジーや相性が完璧であるこのダンジョンは特に冒険者に嫌われており、帝国のみならず世界的に有名なダンジョンでもあった。


 そんな『ワンダー・ミミック・ランド』に1匹の美人ウサ耳ぼくっ娘デレデレ吸血鬼が侵入した。

 


「ぼ、僕が1人でお願いされたんだから……とっとと滅殺し尽くさないと! でもなんか辛気臭いとこだな」



 ブツブツと文句を言いながら、言われた通りダンジョンを1撃で破壊しないように気を付けながら進んでいるのは『大罪の魔王』が誇る最古の魔物であり、そして最強と言っても過言ではない力の持ち主、アルテマラビットこと『月之白兎ツキノハクト』である。


 自分とマスターのみを愛し、他の全てを嫌い拒む……どころか眼中にすら入れたがらない神兎。

 普段はマスターに嫌われたくないから、同じダンジョンの魔物は滅殺しないように気を付けているが、出来ることなら自分とマスターだけの世界を創りたいと心の底から願っているという取扱注意な魔物だ。


 圧倒的な『傲慢』の大罪が作り出した世界観と精神は自身とマスター以外を視界に入れようとすらせず、マスターのお願いで『罪の牢獄』関係者は頑張っているが、基本的には他の存在が自分とマスターの邪魔をする塵としか思っていないのである、まさしく『傲慢』と言える。


 その2人になりたいと言う無限に等しいような望みが生み出したのは、他者をただただ、何の感情も無く滅殺していくという唯一無二絶対無敵の単純な力である。


 相性だろうが、概念を捻じ曲げる力だろうが、自身の力は絶大に上げる力だろうが、相手を弱らせる力だろうが、ハクの前では全て等しく無効・無視されて意味を成すことは無い。


 究極の理不尽であるハクは迷路のようになっているダンジョンを見た瞬間に、まとめて潰してやりたい気持ちに駆られるが、マスターの願いを無下にすることは絶対に出来ないので、とりあえず持っている刀を前へと振るってみることにする。



――ゴウッ!!



 目にもとまらぬ速度で抜かれた刀。

 そしてハクの眼前に広がる迷路だったはずの壁が、綺麗に一直線の道が出来てしまっているということ。

 ダンジョンの魔王が死ぬのを、しっかり確認すればいいだけだから、ダンジョンに正面から挑む必要がないと、ハクは考えた結果である。



「迷路なんて壁全部壊せば同じじゃん♪」



 二度手間だと思いながらも、ハクは再度刀を振るうためにダンジョンの広さを把握しようと、少しだけ集中力をたかめる。

 ダンジョンの壁を破壊され、これ以上やらせまいとして大量のミミックが『待つ』という役割を捨ててハクへと迫る。


 そんなもの眼中に無いとのようにハクは気にせずに刀を横薙ぎする。

 

 ダンジョンに降り注ぐ絶望的な圧と殺気、そして防ぎようのない剣圧。


 広がる景色を見て、ハクはスッキリしたかのように歩みを再開させた。









――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



「みんなご苦労様。本当に完璧だったよ」



 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』が各々の役割を完璧にこなしてくれたので、改めて感謝を伝える。

 まさかこんなスムーズに4つのダンジョンを攻略し、魔王も仕留めることができたのは『枢要悪の祭典みんな』の力がどれほどのものなのかを改めて感じさせてくれるものだったし、まだまだ底が知れないと思わせてくれた。


 これで2日後の魔王戦争で『水の魔王』の戦力になる予定だった同盟魔王はかなり少なくなった。まだ潜んでいるんだろうけど……。

 開始直前になって増える可能性はあるけど、そういう場合はまた出向けばいい。


 4つの魔名も手に入ったし、そろそろ配合回数もたまっているし、Gランクの魔物を配合してどんな魔物が生まれるか試していってもいいのかもしれないな。

 ダンジョンに待機させても安心できるような魔物が『枢要悪の祭典クライム・アルマ』以外にも数体居れば安心できる。

 イデアとデザイアの魔物も強いんだけど、基本的にはダンジョン内に2人がいる前提みたいな強さもあるから出撃してしまえば、脅威は半減してしまう。



「アイシャの魔王戦争が終わり次第にダンジョンをじっくり見直してみるか」



 アイシャの魔王戦争が終われば、俺のやることは一旦、新しく誕生した勇者の情報を集めるのと、4つも帝国領土内のダンジョンを潰したので、何かしら仕掛けられるであろうことへの対策、そしてアークにいるプレイヤー軍団が本格的にダンジョン攻略に来た際の対応になる。

 これならばダンジョンをゆっくり見直して、配合をしていく時間もある程度は確保できそうだからな。



「ご主人様。2日後の魔王戦争はどうなさるおつもりですか?」


「前アイシャの魔王戦争に参加したときと同じように、基本的には乱入や事前に『水』が仲間を増やさない限りは待機かな」


「あくまで『焔』と『水』の一騎打ちを支援するということですね」


「あぁ…アイシャも一騎打ちがしたいみたいだからな。良い経験値だと思って参加させてもらうさ……みんなに力を広めるイベントみたいな役割にもなってもらおう」



 今回のアイシャは並々ならぬ覚悟があるみたいだし、一騎打ちがしたいってのは悪い事じゃない、もちろん心配ではあるけども、あれだけの想いがあるんだから必勝の策や自信が少なからずあるんじゃないかと思っている。

 正直どんな戦いをするのかが楽しみだ。


 お相手の『水の魔王』もミルドレッドやラムザさんとしのぎを削っていた魔王だ。

 もちろんSランクの魔王、そして四大元素の属性を司っているので、能力の汎用性は幅広いし、特化型でもあるという万能性な力なんだろう。

 アイシャの『焔』の力を全て知っているわけじゃないけど、魔王戦争は本来、魔王スキルをどう使用していくのかも勝敗の分かれ目になるものだから注目点だな。


 

「若が前線に出るようなことは、俺たちがいる限り無さそうで安心だ」


「俺もそれなりの実戦経験を積んでおかないと、いざという時怖いんだよな」


「儂ら相手に模擬戦を繰り返すのが1番じゃな」


「ますたーの練習ならいつでも付き合い」


「実戦でしか得られない何かもあると思うんだよな」


「今度ミネルヴァちゃんとか帝国にいる2人に頼んでみたら?」



 ミネルヴァは確かにいいかもしれない。遠距離特化型の相手にどうやって近づいて戦いを組み立てていくかは今後必ず必要となってくるだろうからな。

 アルバスとカノンは、それこそ単体としてかなりの実力があるので、俺だけでは歯が立たないだろうし、遊ばれそうだからまだ挑むには時期尚早だと思う。



「アイシャの戦い方を参考にさせてもらおうかな……1つの属性に特化した戦い方は確実に今後の活きることがあるはずだ」

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