第1話 『帝都』アルカーヌム


――クピドゥース帝国 帝都アルカーヌム



 1度ゴーレム馬車狙いで襲われたが、他に問題はなく、楽しい道中を満喫しながら無事に帝都に辿り着くことが出来た。

 さすが化け物4体がいる中だったので魔物は一切寄ってくることは無かった。

 アルカナ騎士団は領土東と北東方面に行っているらしく、王国と公国への対応で忙しいと、道中で出会った商人が言っていた。


 帝都方面から出てくる冒険者にも数組出会い、魔物に意気揚々で出かけて行ったのを微笑ましく見守った。


 そして帝都にはピケルさんから頂いた入都許可証を使用したらスムーズに帝都に入ることが出来て、適当な宿に馬車を預けて、今は冒険者ギルドに向けて徒歩移動中だ。


 それにしてもメルの能力は本当に便利だ。『嫉妬エンヴィー』の力を少し応用しているんだろうけど、騎士団員だとか厄介そうな人間からの視線や意識を完全に断ち切ってくれている。



「凄いな、広くて人が多くて、何よりも建物が多すぎる」


「人がスムーズに移動するために転移石が帝都内に7つ置いてある。バルデスの最新技術を取り入れているハイテク都市だ」


「魔石でなんでも動かしてるな。アークがかなり田舎に感じる」


「みんな魔石頼りで危ないけどね!」



 誰でも便利な生活を目指しているのか、魔石を使用した魔力で動く家具や設備をどこもかしこもしている。

 あまり詳しいことは分からないけど、いつの日かピケルさんに頼んで、アークにも取り入れさせてもらおうと思うほどに便利なものだ。


 魔石がないと動かないというカノンの言い分も分かるが、魔力を注げば動くのならば、永久機関を目指すことも出来そうだけどな。


 そして一番驚くのが、アルバスとカノンの知名度だ。

 冒険者らしき集団とすれ違うたびに、声をかけられたり視線を向けられたりと大忙しだ。

 人間形態になって可愛いメルと角を引っ込めた大男の阿修羅もいるので、たぶん俺が1番目立たない現状である。


 4大国のどこもプレイヤーが持ち込んだとされる技術や商品が売れているようで、アークにも来ていたが、別世界の技術だとは、みんな知らないから大発明だとか言って稼いでいる奴もいるようだ。



「あれだな」



 アルバスが指差す方向に巨大な建物がある。

 外見はアークにある冒険者ギルドと変わりがないが、大きさだけがけた外れにデカい。何人入れるつもりなんだろうか…。


 俺たちがが一緒に入ると騒ぎになりそうだから、先にアルバスとカノンに行ってもらって騒いでもらって、少し落ち着いたら2人に呼んでもらって、空き部屋を借りる作戦で行くことにする。


 2人に行ってもらい、俺と阿修羅とメルは少し離れたところで時間を潰す。



「ますたー、人が多い」


「そうだな……気付かれてないのはメルのおかげだな」


「えっへん♪」



 阿修羅とメルが居てくれれば俺たちを能力で調べることが出来ない、というか発動すら出来ないのでありがたい。

 もしかしたら調べられないのを疑問視して声をかけてくるかもしれないが、アルバスとカノンがいるから安心していられるな。


 2人を待っていると、わざと黒い防具で揃えているのか、少しだけ目立つ集団が俺たちに視線を向けながら歩いてくる。

 


「君たちは冒険者か?」



 黒い鎧に身を纏い、立派な斧槍を背に背負った中年の男が声をかけてくる。

 集団の歳はバラバラに見える、そして冒険者集団っぽい声のかけ方で、阿修羅をチラチラみているので、何か言いたいことがあるんだろうな。



「いや、この都市に遊びに来た旅人さ」



 俺は適当なことを答えておく。

 阿修羅とメルも、俺が話をしたので口をだすことはしないだろう。



「その装備と雰囲気、我々と同じプレイヤーかと思ったのだが違うのか?」


「プレイヤー? 最近増えた冒険者集団のことか。残念ながら違うな」


「そうか、我々はプレイヤーの中でも「最前線組」と呼ばれている『黒鉄の猛牛』という。もし依頼があれば、ぜひこの名前を出していただけると助かる」


「あぁ…もし何かあれば頼らせて頂くとするよ」


「突然声をかけて申し訳なかった。失礼する」



 そういうと黒鎧中年はたちは去っていった。

 『黒鉄の猛牛』、あれが『夢幻の星ドリームスター』の言っていたプレイヤーたちの中で一番攻略とやらが進んでいる「最前線組」という集団か、見た感じはまだまだ強そうな感じはしなかったな。


 それにしてもプレイヤーってのは自分たちと同じだと思ったら声をかけたくなる不思議な生き物なのか?



「ますたー、胡散臭い連中だった。阿修羅しか見てなかったよ」


「若を差し置いて失礼な人間どもだな」


「せっかく声をかけて名前まで教えてもらったんだ……もしかしたら上手く使わせてもらう日が来るかもしれんぞ?」



 2人に冒険者ギルドを行き来している人間を観察してもらっているが、強さの幅はすごく広いようだ。

 ここから冒険者をはじめるっていう人たちもいるみたいで、凄く若い人間も出入りしているのだから驚きだ。若者は騎士にでも憧れるもんだと思ったんだけどな。


 そんなやり取りを少ししていると2人が戻ってくる。

 なかなか時間がかかったようだが、ありがたいことに場所と資料が確保できたようなので、中に入っても大丈夫ということだ。



「面倒かけたな」


「私たちも久々だったから騒がれただけだよ! さぁ行こうよ!」



 アルバスは疲れているが、カノンは元気のようだ。

 俺たちは2人の後をついて冒険者ギルドの中へ入っていった。








――帝都アルカーヌム 冒険者ギルド 空き部屋



 ギルドに入った瞬間、かなりの数の人間が目に入り、阿修羅とメルがとんでもなく注目を受けていたが、難なくギルド内の空き部屋へと来ることが出来た。


 そしてカノンから帝国領土内にあるダンジョンと、冒険者ギルドが選定した難易度が表記されている資料を受け取る。


 1番衝撃を受けたのが、同じ帝国領土南にまだダンジョンがいくつかあるという事実。

 かなり人目のつかない場所にあるダンジョンが6カ所もある。難易度はそこまで高くないが誰もいくことがないので情報が出回ってないとのことだ。

 少し油断していたな。さすがに同じ領土に存在しているダンジョンなら把握していたと思っていたが、地味な場所にもダンジョンが眠っていたとなると、ご挨拶に行った方がいいのかもしれないな。



「西と北にダンジョンが多すぎる」


「それだけ広いと言うことだな」



 色んなダンジョンが日々攻略されているので、減ってはいるんだろうが、凄まじい量のダンジョンが記されている。

 3㎞以内に3つのダンジョンがある地域も存在していて、激戦区みたいになっている。ここの魔王たちは何を考えてダンジョンを運営しているのか聞いてみたいところだな。


 そして気になるページを見つけた。



「帝国領土SSランクダンジョンか」


「世界中で見ても上位のダンジョンたちだね! 私たちがクリアした『母なる大地』はSSランクでも上位だったよ!」



 そのページには帝国領に存在しているSランク以上のダンジョンだったり、その難易度順位が乗っている。それに何時頃から存在していたかも。


 帝国に存在しているSSランクのダンジョンは8個ある。


 俺たちの定められているランクと人が決めているランクが合致しているかは置いておき、なんとなくは合っていると考えて、しっかり覚えていかないとな。



「東に2つ、北に2つ、西に3つか」


「帝国西は本当にダンジョンと魔物しかいないからね~。困っちゃうよ」



 SSランクが本当ならば、Sランク上位と呼ばれていたラムザさん以上の存在が40体以上は存在していると言うことか。

 Sランクダンジョンは魔王界でも有名だが、かなり多いらしい、だがSSランクの壁は高いらしくて、あまり名を聞かない。


 アークから1番近いSSランクダンジョンを調べてみる。

 そして目についたのは、帝国領東に存在している、以前ハクと一緒に砦をやりにいった場所から50㎞ほど離れた場所にあるダンジョン。



「SSランクダンジョン『天狗の寝床』か」



 『罪の牢獄』と違って、どこのダンジョンも、名前だけで出てくる魔物が想像出来るのが凄いな。冒険者的にはそのほうが挑みやすいってのもあるのかもしれないな。

 1000年ほど存在しているダンジョンで、近くに街は存在していないようだ。

 勇者を返り討ちにした経験もあるようで、さすがSSランクダンジョンって感じだな。


 いつか帝国を支配する日がきたら、どうせなら四大国で一番盛り上がっている国にしたいので、ダンジョンや迷宮都市は多い方が嬉しいもんだ。



「『水』って帝国だったのか」



 Sランクダンジョン一覧に、帝国北西に『水の魔王』と表記されているのを見つけて、詳しくそのページを探してみることにした。

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